PERSON

2025.03.08

アートコレクター吉野誠一、愛用インテリアとは?邸宅に潜入

どんな家具を置き、どんなアートを配するか。インテリアが、その空間に身を置く者に与える影響は大きい。時に癒やされ、時に鼓舞される、アートコレクター・吉野誠一氏の暮らしを彩るインテリアを考察! 【特集 アートな家具】

吉野誠一邸のサイドボード
高い天井まで続く白い壁の前には、リーヴァのサイドボードが。現代アートや古美術などテーマに合わせて飾られる。

来客に合わせてアートを飾る、美しきサイドボード

幼い頃から、美術ツウの祖父や母の影響で絵画が身近にあったというアートコレクターの吉野誠一氏。当時は、印象派や抽象派などの絵画には興味を持てなかった。だが、いつしか建築やデザインに惹かれるようになり、家具やデザインの展覧会にも足を運ぶようになった。

「ある時、建築家のグロピウスが設計した家の写真があって、そこに見たことがある絵画が飾られている。そういえば彼はドイツのデザイン学校バウハウスの創立者。学校では画家のカンディンスキーやパウル・クレーが教えていたそう。ハッとしました。建築、デザインと絵画は別のものだと思っていたけれど、実は、お互いが影響し合っていたことに気づかされたんです」

そうすると、今度はアート作品にもがぜん興味が湧いた。気づけば小池一子氏が開いた「佐賀町エキジビット・スペース」に通うように。そこではアート、ファッション、建築、デザインなどジャンルを超えたアーティストの作品が発表されていた。“美術館でも商業画廊でもない美術現場”に引きこまれた。

一方で、吉野氏は子供の頃からモノを集めることが好きだった。スーパーカー消しゴム、ワッペンや切手も。身の回りに好きなものがあることが気持ちよかった。だから、アートや家具は、ある意味その延長線で、「自分にとっての心地よい空間や居場所をつくるもの」だ。

茶室の室礼(しつらい)に通じる、アートを飾るもてなし

住居であるマンションのペントハウス。エレベータが開くと、そこには吉野氏の言う「心地よい空間」が広がっている。ル・コルビジェの椅子「LC-1」や片山正道のハンガーラックが仰々しくなく置かれている。広々としたリビングダイニングには、リーヴァのシンプルなサイドボード。その上には数点のアート作品が飾られる。

「茶室の室礼は、客の嗜好を鑑み準備しもてなすもの。そういう遊び心に通じるというか、アート作品や家具も、季節や行事、来客の興味に合わせて変えます」

この日のテーマは「猫」。飯川雄大(いいかわたけひろ)氏のドローイングや金氏(かねうじ)徹平氏の写真、江戸時代の招き猫などがバランスよく配置される。家具の取材ということもあって、渡邉庸平氏の椅子の脚の絵画もさりげなく置かれていた。あえて口にすることはないが、来客の好みや趣味をわかっているからこそできるアートのおもてなし。オークと白を基調にしたインテリアは、アート作品の邪魔をしないよう調えた。

「デザイン性を強調した家具だと、繊細なアート作品にそぐわないこともあるでしょう。もともと工場や病院などの機能性重視の什器が好きだから、シンプルで使い勝手のいい家具を選んでいますね」

ピンときたら買ってしまう。デザイナーを気にしないで購入することもあって、後で調べるとすでにいくつも持っているデザイナーのものだったりする。好みが一貫しているから、部屋に統一性があって気持ちいい。季節によって家具も入れ替え、使わないものは、倉庫にしまってあるそうだ。

「アート作品も家具も好きだから集める。なかには、入手した当時よりかなり値段が上がっているものもあります。でも、売るために買うわけじゃないから。使って飾って、居心地良い空間をつくる。什器なんかは使わなくてもふたつずつ買って置いておく。コレクター気質ですね」

10年前からギャラリーを紹介する冊子『GUIDE』を年に6回発行する。掲載するのはタイプも規模も違う約100軒のギャラリー。「アートやデザイン、家具など時代の作品に触れてほしい」と話す吉野氏の想いは、冊子にも自宅のインテリアにも溢れている。

注目しているブランド&デザイナー

1.デ・パドヴァ
1956年創業ミラノの家具ブランド。「マジストレッティやカスティリオーニのデザインで有名。日本デザイナーとコラボも」。

2.ブリュレック兄弟
安定感、普遍性などを兼ね備えた家具が人気。「鉄と木という伝統的な素材を革新的に融合させた洗練されたデザインです」。

3.深澤直人
「プロダクトデザイナー深澤直人氏がデザインし、日本のマルニ木工が制作したアームチェア『HIROSHIMA』が秀逸」。

吉野誠一/Seiichi Yoshino
アートコレクター。1968年東京都生まれ。国内外の主要な展覧会や海外のアートフェアを訪れ、日本の作家作品をコレクション。古美術にも造詣が深い。

【特集 アートな家具】

この記事はGOETHE 2025年4月号「総力特集:惚れ惚れする人生の相棒、アートな家具」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

TEXT=中井シノブ

PHOTOGRAPH=古谷利幸

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年4月号

人生の相棒、アートな家具

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年4月号

人生の相棒、アートな家具

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ4月号』が2025年2月25日に発売となる。今回の特集は“アートな家具”。豊かな人生を送るうえでなくてはならない、惚れ惚れするほどの家具を紹介。表紙には羽生結弦が撮り下ろし初登場。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

SALON MEMBER ゲーテサロン

会員登録をすると、エクスクルーシブなイベントの数々や、スペシャルなプレゼント情報へアクセスが可能に。会員の皆様に、非日常な体験ができる機会をご提供します。

SALON MEMBERになる