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2026.11.04

まるで“市中の山居”。中村拓志設計、IT企業取締役の都心の静邸

家は、ただ身体を休める場所ではない。ゴルフにサウナ、建築美、そして都市の中に再構築された自然──。好きなものに囲まれ、日常のノイズから解き放たれ、自分の世界へと深く潜っていく。3人の邸宅にあったのは、常に心に「また還りたい」と思わせるほど、人生に欠かせない暮らしのかたちだった──。今回は、IT企業 取締役の野澤俊通邸を紹介する。【特集 自分の世界に浸れる家】

野澤俊通邸のリビング
風を感じるリビング。テラスの床の御影石も同様にヘリンボーン状に配し一体感を醸成。天井の北山杉が、視線を外へと誘っていく。

静寂×庭。静けさに満ちた都心の邸宅

テラスのガラスに差しこむ光に日の傾きを感じ、窓を開ければ、樹々を揺らす心地よい風が部屋を抜けていく。

ここは都内の閑静な住宅街。外から見ればガラスとタイルのファサードを持つシンプルな四角い邸宅の中に、こんな空間が広がっていようとは、誰も想像できないだろう。

某IT企業の取締役である野澤俊通氏が自邸を建てるにあたり、依頼したのは原宿「オモカド」や北海道「界 ポロト」など、話題の建築から数々の邸宅まで幅広く手がけてきたNAP建築設計事務所代表の中村拓志氏だ。

「今までの作品を見て、ぜひお願いしたいと思っていたんです。伝えたのは、プライバシーを守りつつ、都会にいながらにして、緑と風を感じたいということだけでした」

そのリクエストを受け、中村氏が表現したのが“市中の山居”。もともとは茶の湯の空間づくりの考え方だが、都会にいながらまるで山奥にいるような静けさや自然を感じられる場所として、家と庭の在り方を再定義したのが、この空間だ。

大きな窓を開ければ、LDKとテラスがシームレスにつながる。テラスの壁には滝に見立てた特注光学ガラスのファサードを設け、外からの視線をカットしながら、光を取りこむ。ひときわ印象的な天井は北山杉を用い、京都の数寄屋大工が施工したもの。室内からテラスへと延びていく様は、視線を外へと誘う。

「最初は素人ながら軒先はもっと短くていいのではと思っていたんです。でも実際に住んでみて、これが本当に最適なんだと。中から外へのつながりを存分に実感しています」

奥行き6mもの広さを持つテラスの左右には苔の築山が設けられ、モミジなど日本庭園では滝口に植えられるという飛泉障(ひせんざわ)りの樹が植えられている。

「新緑もいいし紅葉の時も美しい。雪が積もった時の姿もカッコいいんです」

四季の変化はもちろん、風が吹けば樹々が揺れ、雨が降れば床の御影石が濡れ光る。部屋の中にいながらも、自然を存分に感じることができる場所なのだ。

また木の内装を希望した野澤氏の意向どおり、木材で仕上げたダイニング側の壁は一面すべて収納に。冷蔵庫やスイッチパネルなど目につく人工的な要素はすべて収められ、この空間を純粋に楽しむことができる。それゆえ、アートなどの装飾もいらないという。

「アートはもちろん好きなのですが、僕にとってはこの場所自体が、ひとつのアートだと思っています」

自分自身が無になれる。都会に佇む“市中の山居”

家の中で野澤氏のお気に入りの場所は、リビングのソファだ。時間があれば、この空間のためにつくったNAPオリジナルのソファに身を委ね、庭を眺める。

「思わず寝落ちしてしまうこともよくあります(笑)。ここで外を眺めているだけで、時間が過ぎていく。そんな自分自身が無になれる場所なんです」

この家ができて以来、家で過ごす時間は確実に増えたという野澤氏。ふと気づけば、家事を終えた奥様がライブラリーで寛ぎ、階段の踊り場を生かしたコージーコーナーでは子供たちが本を読んでいる。リビング、ライブラリー、そして庭までがすべてひと続きになっていることで、それぞれが別の場所にいても、お互いの空気を感じることができるのもこの家の魅力だ。

かつて、タワーマンションに住んでいた時も、テラスに出て眺望を楽しんではいた。

「それは最初のうちだけでしたね。高層ビルなどギラギラした街も見えてしまうので、結局カーテン越しに見る程度になりました(笑)。でもここはそんなギラつきも感じることがない。帰ってきてここにいるだけで、ただただ落ち着くんです」

意図せずとも感じてしまう情報過多な街の気配をシャットダウンし、都市にありながら静寂の時を手に入れる。多忙な日々を確実に無へとリセットできる、唯一無二の空間なのだ。

Home Details

01|都会で感じる風と四季

室内と一体化した広いテラスには苔の築山と樹が。滝に見立てたガラスのファサードによって光を取りこみ、プライバシーを保ちながら、自然を存分に感じる空間に。

02|木材を多用した内装

天井や柱にはまっすぐに育つことが特徴の北山杉を用い、収納を兼ねた壁も板張りに。木製のテーブルなど家具もつくりつけかオリジナルのものを設置し、温もりを生む。

Data
所在地:都内
敷地面積:200.01㎡
延床面積:296.65㎡
設計:NAP建築設計事務所 中村拓志、羽鳥昇平(元所員)
構造:RC構造 一部木造、地上3階建て

野澤俊通/Toshimichi Nozawa
東京都生まれ。外資企業、スタートアップIT企業で数度の上場を経験し、現職ではモバイルアプリやインフルエンサーマーケティングを提供する東証グロース企業で共同創業者兼取締役として従事。

【特集 自分の世界に浸れる家】

この記事はGOETHE 2026年12月号「総力特集:陶酔の没入邸宅」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

TEXT=牛丸由紀子

PHOTOGRAPH=古谷利幸

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