カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載の第55回は「老化細胞2」。老化細胞の表面に発現するタンパク質を標的とした「老化細胞除去ワクチン」の開発に成功した順天堂大学大学院医学研究科循環器内科の南野徹先生に、前回に引き続き話をうかがい、アルツハイマー病などへの応用や医療制度との関係まで、研究の現在地を読み解いていく。

老化細胞を除去するワクチンの開発は、加齢に伴う疾患の治療に新たな可能性をもたらす
堀江貴文(以下堀江) 老化細胞の表面に発現するタンパク質を標的とした「老化細胞除去ワクチン」の開発に成功した順天堂大学の南野 徹先生に、引き続き話をうかがいます。今回は、このワクチンが加齢関連疾患の治療にどのような変化をもたらすのか、さらに深掘りします。
南野 徹(以下南野) 前回のおさらいになりますが、老化細胞は体に蓄積すると「SASP因子」と呼ばれる炎症性サイトカインを分泌し、さまざまな疾患の要因になります。そこで私たちは、老化細胞だけを選択的に除去するワクチンを開発しました。
堀江 どのような働きをするのでしょうか?
南野 老化細胞を除去すると生活習慣病やアルツハイマー病などの病気が治るかもしれないというデータがマウスレベルで出てきていて、溜まった老化細胞とこれら病気の原因がある程度リンクしていることがわかってきたのです。
堀江 興味深いですね。
南野 実際にマウスの実験では、ワクチン投与によって腹部に溜まった老化細胞が除去され、血糖値の改善や動脈硬化のプラークの減少が確認されています。老化細胞が関連している病気はいろいろありますが、私たちは、まだ研究が十分でないアルツハイマー病や肺線維症に注力しているところです。
堀江 アルツハイマー病に関してはわかるのですが、肺線維症にも注力している理由は?
南野 いずれも難治性疾患なうえ、患者数や市場規模の観点から研究が後回しになっていたという背景があります。薬の開発はニーズと投資のバランスで進むため、有効な治療法がないとその先が進まないのです。
堀江 今後はその治療法を求める人も多くなりそうですね。
南野 患者数が増えれば医者も多くなって、結果として研究や開発への投資も進みますから。そうした流れが活発化されることを期待しています。
堀江 アルツハイマー病は、長い時間をかけて徐々に進行しますが、最近では、血液中のアミロイドβやタウの数値を測れるようになっていますよね。アルツハイマーモデルのマウスで、どれくらいのフェーズで効いていますか?
南野 カギは、免疫細胞のひとつであるミクログリアです。この細胞が老化すると炎症を起こし、アミロイドβやタウを除去する機能が低下します。老化したミクログリアがいると、かえって邪魔というか……むしろ病態を悪化させてしまうのです。これら老化したミクログリアを除去して正常なミクログリアが増えれば、自分たちの力でアミロイドβやタウを除去できるようになるという感じです。
堀江 そこまではわかっているんですね。
南野 マウスレベルですが、ここまではわかっています。亡くなったアルツハイマー病の方の脳のサンプルの解析でも同様の傾向が見られているようなので、恒常性を保つひとつの基準になっているのではないか、と予想しています。ただ、ヒトで老化したミクログリアを除去した研究はまだなく、あくまでも証拠ベースとなります。
堀江 先生の研究ではワクチンをメインにしつつ、抗体薬も作っていると前回言っていましたが、ワクチンがよりよいと考える理由は何ですか?
南野 ワクチンの場合は抗体もできるし、T細胞の活性化も起こります。だから理論的にはワクチンは抗体より作用は強いし、長持ちするのです。
堀江 費用面でも違いがありそうですね。
南野 そうですね。例えば、アルツハイマー病の患者に1年かけて抗体薬を打つとなると、費用が1000万円近くかかるケースもあります。一方、ワクチンの場合、数十万円に抑えられる可能性がある。mRNAワクチンは脂質膜で包まれているため、製造コストも安く抑えられるのです。ヒトに投与できるぐらいのレベルで製造するとなると抗体薬は約5〜7億円に対し、ワクチンは約1〜2億円と、その差は非常に大きい。
堀江 なるほど。今回のワクチンはmRNAでやるのですか。
南野 そうですね、mRNAです。
堀江 mRNAワクチンができて、劇的に変わりましたね。
南野 コロナ禍を契機に、科学がものすごく進歩しました。今は、がん領域でもmRNAワクチンの臨床研究が進んでいます。がんワクチンが今、チャレンジしているのは、膵がんのような“何も効かない”がんです。私たちと同じようにがん抗原を見つけようとしていて、それに対するmRNAワクチンを作っていますが、がんの場合は、がん抗原を持ったがんが殺されても、生き残ったがんがちょっと顔つきを変えて、また増殖を始めるので……イタチごっこのようになっているのです。
堀江 SGLT2阻害薬が老化細胞を除去する可能性も指摘されていますよね。
南野 はい。本来は血糖を下げる薬ですが、いろいろな作用があるのです。そのひとつに老化細胞を除去する作用もあるかもしれない、と。糖尿病患者で比べるとSGLT2阻害薬を飲んでいた人のほうが、認知機能がよくなっているというデータは既に臨床研究であります。
堀江 先生は今、ヒトで臨床試験に入っていますよね。
南野 はい。私たちが今やっている試験では、前後の認知機能を測ろうと思っています。それで少しでも改善すれば、もっと大規模に認知機能だけを見るような臨床研究をやってみてもいいのかな、と。
堀江 実用化されるまでにもう少し時間がかかりそうですね。
南野 そうですね。特に、予防医療としての位置づけは課題になっています。現行の保険制度では感染症の予防はありますが、疾患の予防薬というのは認められていない。この研究の実用化が難しいところなのです。ですから、そのニーズのある疾患でまず治療効果を示し、その延長として再発防止や早期介入へとつなげていきたいですね。
堀江 今後の展開が注目されますね。期待しています。

南野徹/Tohru Minamino
順天堂大学大学院医学研究科循環器内科教授。慢性炎症を引き起こして病気の原因となる「老化細胞(ゾンビ細胞)」を除去するワクチンを開発した第一人者。2021年にGPNMBを標的とした老化細胞除去ワクチンを発表。健康寿命を延ばすための抗老化治療を目指し、研究を行っている。
堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。本連載をまとめた書籍『金を使うならカラダに使え。』のほか、『日本医療再生計画』など著書多数。

