HEALTH

2026.03.06

「身体を眠らせ、命を守る」加速する“人工冬眠研究”の現在地【堀江貴文】

カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載の第52回は「人工冬眠2」。人工冬眠研究の第一人者である筑波大学の櫻井武先生は、脳の視床下部にある神経細胞に着目。代謝や体温、心拍などを極端に落とし全身機能をスローモーション化させる冬眠状態の誘導に成功し、これらを医療や宇宙開発へ応用するため、研究を進めている。前回の対談から3年、研究の最前線を聞いた。

堀江貴文連載第52回

体温・代謝を制御しスローモーション化

堀江貴文(以下堀江) 2023年に対談した筑波大学の櫻井武先生に再び話をうかがいます。先生が取り組まれている「人工冬眠研究」の最新知見について、このワードを初めて聞く読者もいるので、研究の概要を教えてください。

櫻井武(以下櫻井) 私は身体の睡眠・覚醒システムの研究を行っていて、2020年6月には、本来冬眠しないマウスを用いた実験で、脳の視床下部に存在する800個ほどの神経細胞を興奮させると低体温・低代謝の状態、いわば冬眠状態になることを発表しました。この細胞群を「Qニューロン」と名づけました。

堀江 冬眠の最大の特徴は、エネルギーをほとんど使わないという点ですよね。

櫻井 我々ヒトを含めた哺乳類は内温動物であり、深部体温を一定に保つことができるため、冬でも活動できます。その一方で、熱が常に逃げている状態のため、エネルギー効率はよくありません。通常、内温動物の体温は37℃くらいですが、リスやハムスターなどの体温は冬眠時には4℃くらいまで下がり、代謝レベルも1/100程度まで低下します。心拍数、酸素消費量、食べる量も同様に数十分の1で済むわけです。この冬眠状態を人為的に誘導できれば、医療への応用が可能になるのではないかと考えています。

堀江 ポテンシャルは高いですよね。

櫻井 救急医療を例にすると、救急車やドクターヘリで一刻も早い患者の搬送が求められるのは、心肺機能が低下し、急性心不全や大出血で全身の酸素需要が満たされなくなるから。つまり、一刻も早く医療施設に届けて“供給”する機能を元の状態に回復させる必要があるのです。逆に、全身組織の酸素の“需要”を下げてしまえば時間は稼げる。それが人工冬眠の発想です。

堀江 「供給が足りなければ、需要を落とす」という考えは、救急医療や救急搬送時の時間稼ぎになるわけですね。研究はどこまで進んでいるのですか?

櫻井 前回は、Qニューロンに発現している遺伝子を解析し、“冬眠スイッチ”となるターゲットを見つけ、それに反応する物質(薬)を探したというところまでお話ししました。ただ、この物質は副作用的にかゆみなどの症状が見られたため、もう少し角度を変えて、別のターゲットを探していたのです。

堀江 新たな鍵穴(ターゲット)を見つけて、そこにピッタリと合う鍵(薬)を見つけている段階ということですね。

櫻井 そうなります。かなり特異性の高いターゲットをふたつくらいまで絞りこめたので、現在は、副作用などがない、安全な薬を探すスクリーニングを行っている段階です。

堀江 今後はサルでの実験も? 

櫻井 今まではマウスなどを遺伝子改変しながら研究を進めていましたが、次のステップとして、人に近いサルでの検証が必要になります。コロナ禍の影響で実験用のサルが減っていた時期もありましたが、今、ようやく整いました。早ければ、今年の夏までには何らかの結果が得られると考えています。

堀江 これがクリアになれば、人への応用も近そうですね。ちなみに薬剤以外のアプローチは可能なのでしょうか?

櫻井 はい。例えば、スイッチをオン・オフするように冬眠状態をつくることができないか、と考え、特殊な超高感度の光受容体を開発しました。

堀江 どんな仕組みですか?

櫻井 光ファイバーを脳に入れて光を当てることでQニューロンを興奮させ、冬眠状態へ誘導するのです。逆に光を当てるのをやめると、30分以内に元の状態に戻る。まさにスイッチをオン・オフするような状態がつくれるのです。いろいろと調べてみると、光を当てたあと、まず心拍数が下がり、体温は遅れて下がることがわかりました。回復時もまず上がるのは心拍数で、体温は遅れて上がってきます。

これが何を意味しているかというと、体温が下がったから心臓の機能が落ちたわけではなく、心拍数なども並行して落としている。つまり“全身の機能がスローモーションになっている”のです。

「身体を眠らせ、命を守る」医療は近い未来に必ず来る

堀江 昔、低体温療法というのがありましたよね。それとは違うんですか?

櫻井 低体温療法は体温を強制的に外側から冷やしているのですが、結局、低体温症になってしまい、血糖値が異常になったり、血液凝固が異常になったり、不整脈が出るなど、いろいろな問題が出てしまうんですよね。ところが、冬眠はそういう副作用的なものがほとんど見られません。

堀江 研究のボトルネックになっているのは何ですか?

櫻井 やはり薬の開発ですね。生体内に投与して効果が見られるところまでとなると、どんなに早くても実用化まで20年以上はかかるので。

堀江 資金があれば、スピードアップは可能なのですか?

櫻井 ある程度はできると思います。先ほどお話しした新たなターゲットも見つかりましたし、私たちもベンチャーを設立しようと動いています。

堀江 これは社会的にめちゃくちゃ意義がある。ぜひ、協力させてください。

櫻井 本当ですか? ありがとうございます(笑)。

堀江 だって宇宙旅行にも絶対役に立つし。この技術がないと、宇宙旅行はできないです。

櫻井 宇宙でいえば、2年以内に実現すると思いますが、国際宇宙ステーション(ISS)でQニューロンの刺激を行う研究のプロジェクトが進んでいます。

堀江 それは、マウスで?

櫻井 はい。放射線や宇宙線の影響、筋萎縮にどのような影響を与えるか、などを明らかにしたいですね。

堀江 予防医療の視点でもわかってきたことはありますか? 

櫻井 まだデータを集めている最中ですが、アンチエイジングの可能性は示唆されています。他には、ダイエットやうつ症状などの改善などになります。

堀江 興味深いですね。次回、その話も聞かせてください。

櫻井武氏

櫻井武/Takeshi Sakurai
1964年東京都生まれ。筑波大学医学医療系教授。同大学「国際統合睡眠医科学研究機構」副機構長を務め、1998年に覚醒を制御するペプチド「オレキシン」、2020年に冬眠状態を誘導する新しい神経回路を見極めた。2026年1月に”意識”の役割と”自分”の正体に迫る新書『意識の正体』(小社刊)が発売。

堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。本連載をまとめた書籍『金を使うならカラダに使え。』ほか著書多数。

COMPOSITION=長谷川真弓

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