元オリックス社長・宮内義彦氏と、『80歳の壁』著者・和田秀樹氏の対談ををまとめてお届け! ※2024年11月掲載記事を再編。

1.89歳現役! 元オリックス社長・宮内義彦、驚異的な若さの秘訣とは

宮内 『ゲーテ』は私も時々拝見します。ちょっとお高い雑誌だなと(笑)。「年をとった」ということでの取材は初めてですが、まあ、お手柔らかに。
和田 私は一風変わった医師でして、医療、とくに高齢者医療に関しては、大いに疑問を持っています。医者の言葉を信じてもロクなことはないのではないかと。それよりも、実際に元気で長生きをしてる方の話のほうが学びは多い。という理由からこの連載を始めたんです。
宮内 なるほど。理論より実践、論より証拠ってわけですね。
和田 はい。宮内さんとは、私が日大の常務理事をしていた時に何度もお会いしています。で、感動したんですよ。見た目の若さが驚異的なんです。しかもやることがアクティブです。年齢をまったく感じさせない。
宮内 いや、やっぱり老いは感じますよ。自分の年を考えて、びっくりすることもある(笑)。
和田 老年医学では「見た目が若い人は老化が遅い」という指摘があります。老化が遅いから見た目が若いのか、見た目を若くしてるから老化が遅いのか、真相はわかりませんが。
宮内 私は若く見られたいとは思わない。意図して、若くあろうともしてません(笑)。
2.和田秀樹「日本人はインプットばかり。アウトプットで脳を活性化すべき」

和田 宮内さん、今では「頼まれ仕事しかしない」と仰いましたが、経営者からの相談なども多いのですか?
宮内 はい。若い経営者が「相談に乗ってほしい」と、よくここにも来ますよ。
和田 それは素晴らしいですね。老化してる暇がない。
宮内 それぞれ抱えている問題や事情が違いますし、経営には「こうしたらいい」という正解はありません。まず話をよく聴くことから始めます。ですので、なかなか大変です。
和田 でしょうね。以前、東大名誉教授の畑村洋太郎先生と話した時のことを思い出しました。「失敗学」で有名な方ですが、畑村先生が仰るには「日本では相談役が“お飾り的な名誉職”になってるけど“本当に相談に乗ってあげる相談役”をつくったらどうか」と。
宮内 なるほど。先達の話から学ぼうという謙虚さのある人は伸びますね。
和田 定年退職した人などが、若手や中堅の相談に気軽に乗ってあげる。畑村先生は失敗学の観点から、そういう人の必要性を説かれたわけです。
宮内 仰る通りですね。やはり経験というのは“生きた知恵”ですからね。それを教えてもらうのは大きなメリットだと思います。私も今になって「こうしたらいい」とか「こうしたらあかん」などと思うことがありますが、それは結局、失敗から悟ったことが多い。コストがものすごいかかってるわけですよ(笑)。
3.オリックス宮内「人間の上に立つリーダーの条件は2つ。まずは、チャーミングでないといかん」

和田 『GOETHE』のメインターゲットは40代だそうです。企業でも中間に位置し、管理職になったり、起業したりする人も多い世代です。そこで、志の高い読者に向けて「人の上に立つヒント」のようなものをお教えいただけたらと(笑)。
宮内 いきなり話が変わりましたね(笑)。
和田 はい。せっかくなので。
宮内 私が思うに、やはり企業は人間社会なんですよ。コンピューターが経営してくれるわけではない。経営者には、人間的魅力と、間違いない経営判断のできる能力という二つの資質が求められると思っています。まず人間の上に立つ人というのは、チャーミングでないといかん、と思いますね。
和田 チャーミング?
宮内 はい。この人と一緒に仕事をやりたい、と思ってくれるかどうか、ということです。
和田 ああ、なるほど。
宮内 チャーミングな人間というのは、遺伝子ではなくて、「自分が自分を磨く」ということをやった人だと、私は思います。磨いているうちに、だんだん人間に深みが出て、魅力が出てくる。やはり、そういう人がリーダーになる組織は、うまくいくと思いますね。
和田 チャーミングには「可愛いらしい」なんて意味もありますが、「人を惹きつける」ということですね。
宮内 そうですね。もちろん可愛げも必要だと思います。ただし、人間的なチャーミングさだけでは、会社はうまくいきません。もう一つの資質として「こっちに向いて行け」と正しい方向を示すことも大事ですから。
和田 確かにそうですね。
4.「いつも行きつけの店、同じ著者の本、同じ政党に投票…保守的になったら前頭葉が衰えてる証拠」

和田 精神科医としては「仕事を忘れられる場」があるのは、とても大事だと思います。実際は、仕事を切り離せない人が多いんです。例えば、旅行が趣味の人は、旅先で仕事のメールを見たりする。宮内さんのように「野球を見てる3時間は没頭する」というのは理想的です。
宮内 私は完全に仕事を忘れちゃってますね(笑)。
和田 それがいいんです。
宮内 じつは、おもしろいなと思うことがありましてね。先生に教えてもらおうと。
和田 はい、なんでしょう?
宮内 遊んでると、フッとね、仕事に関係するアイデアが出てくるんですよ。土日に休んで、日曜の晩ぐらいに、なんかいい考えが浮かんでくる。「俺、考えてないのになんで出てきたんや」と。なんですかね、これ?(笑)。
和田 人間の脳って、じつは膨大な量の書き込みが起こってるんですね。普段はその情報は引き出されず、脳の奥に蓄積されていきます。ところが一旦無心になると、ポッと浮かんできたりする。そういうことなんだと思います。
宮内 なるほど。
和田 野球見ながらでも、脳は何かを考えている。それが奥底でパッと繋がり、アイデアが出てくる。おそらく仕事モードから離れ、リラックスした状態だから繋がるのだと思います。
宮内 そういうことなんですね。不思議と、遊んでる間にいいアイデアが出てくることが何度もあって。
和田 よく「仕事人間はつまらない」と言われますが、今の話と関係しているのかもしれません。常に仕事モードだと、奥にある情報がうまく繋がらない。だから仕事の話ばかりする。脳を解放してあげる時間が大事だと思います。
5.和田秀樹×オリックス宮内「若い人を大事にする人の方が元気で長生きする」

宮内 年を取って寂しいのは、周りの人、友だちとかね、ものすごく減っていくことです。
和田 そうでしょうね。
宮内 ですから、どんどん若い方ともお付き合いしてます。若いと言っても、私より10歳くらい下の人からということですが。
和田 実は、そうやって若い人を大事にすることは、宮内さん自身のためでもあるんです。
宮内 なるほど。
和田 僕がかつて勤めていた高齢者専門の浴風会病院は、入院患者の平均年齢が85歳ぐらいでした。もともと皇室の御下賜金(ごかしきん)でつくった病院なので、元大臣や元社長、元教授などの“おエライさん”も結構、入院してました。そこで実感したのは、若い人を大事にする人のほうが晩年も愛されて幸せそうなこと。しかも元気で長生きです。
宮内 そうですか。
和田 下の人に偉そうにしてる人ってお見舞いがあんまり来ないんです。ところが、下の人を可愛がってた人は、かなりボケているのにお見舞いが絶えなかったりします。
宮内 じゃあ、もっと大事にしなければいけませんね(笑)。
和田 宮内さんのような名を馳せた人だけじゃなく、一般の人も同じだと思います。誰かの話を聞いたり、困り事に手を貸したり、自分の失敗談を含めて経験を話したりする。そういうことも若い人への優しさです。まさに宮内さんが今やっていることです。
6.オリックス宮内義彦「教育を変えないと日本はダメになる」その打開策とは?

和田 既得権益は変化を阻みます。例えば、高齢者の多い日本では「総合診療」の割合を増やすべきなのに、まったく増えず「臓器別診療」が中心です。
宮内 仰る通りですね。
和田 総合診療の割合が増えないのは、臓器別診療の既得権益が侵されるからです。
宮内 やはり日本の大学は、先生方にとってコンフォタブル(快適)ですからね。
和田 そうですね。
宮内 極端な話をすれば、学生を適当に遊ばせておいてもいい。だけど18歳から22歳までの大事な時期に、若者を遊ばせてる国なんて、世界中どこを見てもありません。その間に国際的な差がついてしまいます。
和田 仰る通りですね。
宮内 まずは日本の大学が変わらないと。
和田 国力につながる根底のところですからね。
宮内 だから改革しようと思って動くんですけど、全然あきません(笑)。
和田 今回の自民党の総裁選を見ていても、誰一人として教育のことを言いません。ところがアメリカやイギリスでは「教育で国民をちゃんと賢くさせます」と言う人が大統領や首相になっている。トニー・ブレア元首相は就任時に「あなたの目標は?」と聞かれ「education! education! education!」と答えています。

