PERSON

2024.11.08

「いつも行きつけの店、同じ著者の本、同じ政党に投票…保守的になったら前頭葉が衰えてる証拠」【精神科医・和田秀樹×オリックス宮内対談④】

80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。宮内義彦対談の4回目。

仕事から離れる時間が大事

和田 精神科医としては「仕事を忘れられる場」があるのは、とても大事だと思います。実際は、仕事を切り離せない人が多いんです。例えば、旅行が趣味の人は、旅先で仕事のメールを見たりする。宮内さんのように「野球を見てる3時間は没頭する」というのは理想的です。

宮内 私は完全に仕事を忘れちゃってますね(笑)。

和田 それがいいんです。

宮内 じつは、おもしろいなと思うことがありましてね。先生に教えてもらおうと。

和田 はい、なんでしょう?

宮内 遊んでると、フッとね、仕事に関係するアイデアが出てくるんですよ。土日に休んで、日曜の晩ぐらいに、なんかいい考えが浮かんでくる。「俺、考えてないのになんで出てきたんや」と。なんですかね、これ?(笑)。

和田 人間の脳って、じつは膨大な量の書き込みが起こってるんですね。普段はその情報は引き出されず、脳の奥に蓄積されていきます。ところが一旦無心になると、ポッと浮かんできたりする。そういうことなんだと思います。

宮内 なるほど。

和田 野球見ながらでも、脳は何かを考えている。それが奥底でパッと繋がり、アイデアが出てくる。おそらく仕事モードから離れ、リラックスした状態だから繋がるのだと思います。

宮内 そういうことなんですね。不思議と、遊んでる間にいいアイデアが出てくることが何度もあって。

和田 よく「仕事人間はつまらない」と言われますが、今の話と関係しているのかもしれません。常に仕事モードだと、奥にある情報がうまく繋がらない。だから仕事の話ばかりする。脳を解放してあげる時間が大事だと思います。

もっと感動したほうがいい

宮内 近頃は、最近のことをすぐ忘れてしまいます。ところが10年前のことはよく覚えてる(笑)。なんでかなと考えて、思い当たることがありました。

和田 ほう。

宮内 最近のことは忘れたんじゃなく、覚えてないんじゃないか、と。脳への入り方が薄い気がするんです。

和田 鋭い洞察ですね。じつは、人間の脳は、ある種の感動や驚きなど“感情のフック”があると記憶に残りやすいんです。でも、年を取ると感動が減ってくる。それで記憶に残りにくいのではないかと思うんです。

宮内 なるほど。もっと感動しないといけませんね。

和田 僕がよく言うのは「年を取ったら強い刺激が必要だ」ということです。若い頃は経験が少ないので、小さなことにも感動できます。大して美味しくないものでも美味しく感じるし、箸が転んでも笑えます。若い頃は東京タワーを見て感動できたのに、年を取ると物足りなくなる。ピラミッドを見てやっと感動できたりする。つまり強い刺激が必要なのです。

宮内 なるほど。

和田 宮内さんは日常的にトップレベルの物事に触れているので、僕らとは感動の次元が違うと思うのですけど。

宮内 何に触れるかも大事ですが、どう思うかも大事ですよね。いろんなことに興味を持っていれば、年を取っても感動できると思うんです。

和田 素晴らしいですね。脳科学的には、興味・関心・意欲などの感情部分は「前頭葉」という部分が司っています。ところが前頭葉は、脳の中で最初に縮み始める場所なんです。普通の人は気づかないうちに、興味や好奇心が薄れてきてしまうんです。早い人だと、40~50代から始まります。

宮内 そんなに早く?

和田 はい。だから、宮内さんはやはり驚異的です。

毎日、明日が楽しみ

宮内 自分でもね、時々おめでたいと思うんですけど。毎日、明日が楽しみなんです。

和田 すてきですね。

宮内 明日はあの人と会うとか、あそこでご飯を食べるとかね。しょうもない話ですけど、非常に楽しみなんですよ。やはり、相当おめでたいですよね(笑)。

和田 いいことですね。それは元々の性格ですか。仕事の中で培ったものですか?

宮内 さあ、どっちですかね。

和田 じつは、前頭葉って、意外なことや想定外のことが起こった時に鍛えられるらしいんです。難しい本を読んでも前頭葉は鍛えられないし、難しい数学の問題を解いても鍛えられない。つまり、いわゆる“成績のいい人”は、前頭葉が優れているとは限らないわけです。

宮内 なるほど。

和田 そもそも人類だけが前頭葉が大きいらしい。不測の事態に対処し続けたことで発達したという説があります。同じ人類でも、決まったことをやり続けてると、前頭葉が衰えてしまう。

宮内 もったいないですね。

和田 経営の第一線にいると、日々、想定外なことばかりですよね。だから宮内さんの脳は若く保たれている。

宮内 脳に刺激を与えて生きてるわけですね。

和田 はい。一般論として、前頭葉が衰えると、想定外の事態への対応能力も落ちてきます。すると、多くの人はなるべく想定外のことが起こらないよう、行動するようになるんです。50代ぐらいから顕著になり「行きつけの店しか行かない」とか「同じ著者の本しか読まない」とか「選挙ではいつも同じ政党に入れる」など、保守的になる。

宮内 冒険しなくなるんですね。

和田 はい。やはり毎日、刺激的に生きている人は、脳も若いし、若く見えます。先日も大竹まことさんのラジオに呼んでもらったのですが、とても若い。毎日違うゲストを迎えているからだと思うのです。黒柳徹子さんもそうですよね。

宮内 ああ、なるほど。

和田 僭越な言い方ですが、日本人って、前頭葉を使う習慣がないんですよ。あんまり。

宮内 そうかもしれません。

和田 上に言われた通りのことをやったり、正解のわかっていることをしたりするのが得意です。実験や冒険は好みません。学校や職場も、正しい答えを出す人を求めるし、実験や冒険をする人を排除しようとします。このため30代40代の人でも、宮内さんよりずっと前頭葉が老けてる人って多いと思うんですよ(笑)。

宮内 それはさすがに(笑)。だけど、もともと私の会社はベンチャービジネスのようなものですからね。日々新たというか、ルーティンと称するようなものをやったことがないんです。当初はこの会社は生きていけるのだろうか? 次にどうすれば大きくなるだろうか? 更に世界とどう戦えるだろうか? 等々、関心が次々と変化したため、こちらも変わらざるを得なかった。そういう環境は非常にありがたかったのかもしれませんね。

※5回目に続く

和田秀樹/Hideki Wada(右)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。現在、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

宮内義彦/Yoshihiko Miyauchi(左)
オリックス シニア・チェアマン。1935年兵庫県生まれ。1960年ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現・双日)を経て、1964年オリエント・リース(現・オリックス)入社。社長・グループCEO、会長・グループCEOを経て現職に。『諦めないオーナー』など著書多数。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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