PERSON

2024.11.07

オリックス宮内「人間の上に立つリーダーの条件は2つ。まずは、チャーミングでないといかん」【和田秀樹の長生き対談③】

80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。宮内義彦対談の3回目。

経営者や管理職に必要なこと

和田 『GOETHE』のメインターゲットは40代だそうです。企業でも中間に位置し、管理職になったり、起業したりする人も多い世代です。そこで、志の高い読者に向けて「人の上に立つヒント」のようなものをお教えいただけたらと(笑)。

宮内 いきなり話が変わりましたね(笑)。

和田 はい。せっかくなので。

宮内 私が思うに、やはり企業は人間社会なんですよ。コンピューターが経営してくれるわけではない。経営者には、人間的魅力と、間違いない経営判断のできる能力という二つの資質が求められると思っています。まず人間の上に立つ人というのは、チャーミングでないといかん、と思いますね。

和田 チャーミング?

宮内 はい。この人と一緒に仕事をやりたい、と思ってくれるかどうか、ということです。

和田 ああ、なるほど。

宮内 チャーミングな人間というのは、遺伝子ではなくて、「自分が自分を磨く」ということをやった人だと、私は思います。磨いているうちに、だんだん人間に深みが出て、魅力が出てくる。やはり、そういう人がリーダーになる組織は、うまくいくと思いますね。

和田 チャーミングには「可愛いらしい」なんて意味もありますが、「人を惹きつける」ということですね。

宮内 そうですね。もちろん可愛げも必要だと思います。ただし、人間的なチャーミングさだけでは、会社はうまくいきません。もう一つの資質として「こっちに向いて行け」と正しい方向を示すことも大事ですから。

和田 確かにそうですね。

宮内 無茶苦茶な方向に行ったんじゃ、いくらチャーミングでもダメです(笑)。人間性と経営力。未来に対して「この会社をどっちの方向に持っていくか」を必死に考えて、みんなを引っ張っていく。そういう人間がリーダーになると、会社は伸びるんだろうな、と思います。

和田 宮内さんご自身も?

宮内 私の場合、確かに方向性は自分で一生懸命考えました。けれども「俺についてこい」と全員を引きずって行くタイプではなかったですね。「この部分は君、この部分はあなた」と権限委譲した。みんなでやったという意識が非常に強いですね。

和田 そうなんですか? ぐいぐい引っ張っていく方だと思っていました(笑)。

宮内 会社をよくしようとしても、トップ一人じゃよくなりません。みんなでやらないとダメなんです。

和田 バカ社長は会社を潰す。

宮内 トップは会社を潰す力があることを自覚したほうがいいですね。そのうえで、一緒に頑張る力が大事なんですよ。

和田 なるほど。

宮内 初めは自分で走りたくなるんだけど、一人で走ったって大したことないんですよ。

「俺が走ったら100点だ」と走っても、やることは五つも六つもあるわけで、全部はできません。だったら、他の人がそれぞれ80点ずつ取ってくれたほうがいい。そんなふうに思ってみんな任せてしまいました。

宮内義彦/Yoshihiko Miyauchi
オリックス シニア・チェアマン。1935年兵庫県生まれ。1960年ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現・双日)を経て、1964年オリエント・リース(現・オリックス)入社。社長・グループCEO、会長・グループCEOを経て現職に。著書は『諦めないオーナー』など多数。

息が続かないと生き残れない

和田 やはり先のことが見えてるのでしょうね。例えば、医者であれ経営者であれ「今のことはよく見える」というリーダーはいます。でも「先のことまで見える」というのが優れたリーダーの条件かもしれません。

宮内 自分では先が見えている自信はありませんが(笑)。

和田 例えば、無理して体力を使い果たしたら、長い間は続けられません。宮内さんがここまでやってきたのは、いろんな人に任せる能力があったからでしょう。それも先を見る目が合ったからだと思うのです。

宮内 結果的にうまくいったのかもしれませんね。

和田 精神科医として患者さんを診ていると、いわゆる「潰れてしまう人」って頑張りすぎ系の人に多いんです。だから僕らは患者さんに「自分だけでやろうとせず、部下にも任せたら」とか「休めるときは上手に休んだほうがいいよ」みたいなことを常に言っています。

宮内 仰る通りですね。全体のエネルギーを最大化させるのが組織の上のすることです。だから部下の能力を十分把握したうえで応分の仕事を任せることでしょう。

和田 10年後、20年後もずっと続くってことを考えれば、部下が育つほうがいいに決まってるし、それは非常に理にかなったことでもあると思うんです。

仕事なんて命がけでするな

宮内 話の角度はちょっと違うかもしれませんが、私はいつも会社では「仕事なんて命がけでやるなよ」と言ってました。

和田 素晴らしいですね。

宮内 仕事は人生の目的ではないと、私は思っています。人生の目的はそれぞれ違うでしょうが、大きく括ると「豊かな人生を送ること」だと思うんです。

和田 豊かな人生?

宮内 大金持ちになることではありません。お金はそこそこあればいい。それよりも、心豊かに日々を送ることが一番大事だと思うんですね。仕事は、そのための手段です。社員には、そこを間違えたらいかんよ、と言い続けていました。

和田 いい話ですね。

宮内 時々頑張り屋がおってね、難しい仕事を任せたら「命がけで頑張ります」なんて言うんですよ(笑)。私は「お願いだから命をかけないでくれ。一生懸命に精一杯やってくれたら、それでいいんだから」と。それ以上深刻にやるのはおかしいと思うんです。

和田 僕は精神科医ですが「これ以上やっちゃうと心が折れちゃうな」という限界をわかってない。頑張りすぎて潰れちゃう人が多いんですよ。

宮内 よくないですね。頑張りすぎて潰れては、人生の目標を逸脱してると思います。

和田 そうです、そうです。

宮内 私はしんどい仕事の時でも「ああ、しんどいな」と思いながら「まあ、それでも命まで取られやせん」と。一生懸命やったらそれ以上できないですよね。もうそれでおしまいと、このへんもまた、非常にいい加減にやってました(笑)。

和田秀樹/Hideki Wada
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。現在、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

豊かな人生とは

和田 何をもって「心豊か」と言うのか? 宮内さんは、ご趣味とか「これをやってる時は心地ええな」ということはありますか。

宮内 強いて言うなら二つです。一つは野球見ること。でもこれ、ほとんど仕事です(笑)。もう一つは、クラシック音楽が好きでしてね。

和田 そういうものがあると、心に余裕ができますよね。球団(オリックス)を買ったのは、野球好きが高じて?

宮内 いや、それは違います。たまたまなんですよ。阪急さんが球団を手放されると聞いたので、飛びついたんです。当時は無名だったオリックスを、どうしたら世間に知ってもらえるか、と考えていた矢先のことでした。「野球チームを買ったら一発で知ってもらえるだろう」と思ったんです。もちろん私は、プロ野球をずっと好きで見てましたのでね。それもありますが。

和田 いざ持ってみると、応援したくなったでしょ?

宮内 そうですね(笑)。

和田 楽しいでしょうね。

宮内 いやいや、苦労しました。

和田 何回か黄金時代を作られて、すごいですよね。

宮内 黄金と底辺。這いずり回った時期も長かったです(笑)。

和田 経営者の立場とはいえ、野球を見てる時間は、やはり楽しいのですか?

宮内 はい。飽きもせず、じっと見てますね。球場にも行くしテレビでも。いつも家内に笑われるんですよ。「よくも黙って、何時間も見てられるわね」って。まあ、好きなんでしょうね。

※4回目に続く

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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