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2024.11.06

和田秀樹「日本人はインプットばかり。アウトプットで脳を活性化すべき」【オリックス宮内対談②】

80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。宮内義彦対談の2回目。

相談に乗ることは脳によい

和田 宮内さん、今では「頼まれ仕事しかしない」と仰いましたが、経営者からの相談なども多いのですか?

宮内 はい。若い経営者が「相談に乗ってほしい」と、よくここにも来ますよ。

和田 それは素晴らしいですね。老化してる暇がない。

宮内 それぞれ抱えている問題や事情が違いますし、経営には「こうしたらいい」という正解はありません。まず話をよく聴くことから始めます。ですので、なかなか大変です。

和田 でしょうね。以前、東大名誉教授の畑村洋太郎先生と話した時のことを思い出しました。「失敗学」で有名な方ですが、畑村先生が仰るには「日本では相談役が”お飾り的な名誉職”になってるけど”本当に相談に乗ってあげる相談役”をつくったらどうか」と。

宮内 なるほど。先達の話から学ぼうという謙虚さのある人は伸びますね。

和田 定年退職した人などが、若手や中堅の相談に気軽に乗ってあげる。畑村先生は失敗学の観点から、そういう人の必要性を説かれたわけです。

宮内 仰る通りですね。やはり経験というのは“生きた知恵”ですからね。それを教えてもらうのは大きなメリットだと思います。私も今になって「こうしたらいい」とか「こうしたらあかん」などと思うことがありますが、それは結局、失敗から悟ったことが多い。コストがものすごいかかってるわけですよ(笑)。

宮内義彦/Yoshihiko Miyauchi
オリックス シニア・チェアマン。1935年兵庫県生まれ。1960年ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現・双日)を経て、1964年オリエント・リース(現・オリックス)入社。社長・グループCEO、会長・グループCEOを経て現職に。著書は『諦めないオーナー』など多数。

和田 「相談に乗る」ということは「自分がお金をかけてやってきた経験を伝える」ということでもあるんですね。

宮内 そうです。失敗した経験を教えてもらえれば、同じ過ちを犯さないで済む。だから知ったほうが得だと思いますね。

和田 むしろ聞かないのは大損ですよね(笑)。もちろん”相談に乗る側”の宮内さんにもメリットはあります。

宮内 ほう。それは?

和田 頭の中が整理されるんです。アウトプットすることで脳は活性化しますから。

宮内 確かに経験を話すことは脳のアウトプットですね。

和田 日本人はアウトプットが弱い。とくに年を取ると、インプットばかりして、アウトプットは疎かになるんです。どんなに知識を放り込んでも、使わなければ意味がありません。同じく、どんなに素晴らしい経験があっても、頭の中に留めておいたら宝の持ち腐れです。

宮内 仰る通りです。私はまだこの年になっても好奇心が強いのか、インプットするのが好きなのですが、アウトプットも同時に機会が多くあり幸いです。

和田 大ベストセラー『思考の整理学』を書かれた外山滋比古さんと対談した時に「年を取ったら勉強なんかしちゃダメだ」と言っていたのが印象的です。外山さん自身もインプット型の勉強はやめ、仲間と週に3回ほど「生産性を求めない話」をしていたそうです。それはそれで知的なんですけど。

宮内 相手に合わせて楽しく話すのは頭を使いますからね。

和田 はい。一番いいのは、ネット検索では出てこないような独自の知識を持ちながら、相手に合わせて、臨機応変にアウトプットすることだと思います。宮内さんがやられてる相談は、まさにそれ。脳の若さを保つにはとてもいいのです。

宮内 若い経営者などと話すと「こんなことも知らなかったのか」と思う時があります。それでは会社経営はうまくいかんだろうと。話をしていくなかで、そういったことに気づいてもらえると、やはりうれしいものです。

和田 教えてもらった人は、すごくありがたいでしょうね。一方で宮内さんは、教え甲斐もあり、若さも保てる。ウィン・ウィンの関係ですね。

宮内 やっぱり、わかってもらうというのはなかなか難しいことでしてね。

和田 そうでしょうね。

宮内 考え方をしっかり伝えてわかってもらうまでには、信頼関係も必要ですから。最近の若い経営者は非常に勉強というかな、学ぼうという人が多くなってきて、私はいいことだと思うんですね。教える内容は、ほとんど失敗したことばかりですけど(笑)。

和田秀樹/Hideki Wada
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。現在、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

世の中は一般化などできない

和田 若手の経営者には、どんな失敗談を話すのですか?

宮内 失敗はいっぱいありますからね(笑)。しかも相手は一人一人、年齢も業種も、企業規模も違いますから。一般論で「こうしなさい」で言えるものではないですね。

和田 それは僕も医者をやっているのでわかります。医者に対しては「患者さんの顔を見ずに電子カルテばかり見てる」という批判が結構多いんですけど。やっぱり人間って一人一人違うし、年を取るほど個人差は大きくなります。例えば、宮内さんと同じ年でも、認知症や寝たきりの人もいる。家庭環境や食生活も違うし、若い頃からの習慣も違う。いろんな理由が蓄積して、70歳を過ぎる頃から差が大きくなってくるんです。

宮内 なるほど。

和田 ですから、本来、医療はケース・バイ・ケースで行うべきです。なのに現実は真逆で、「この血圧にはこの薬」という一般化の医療が当たり前になっている。僕はこれ、絶対違うと思ってるんですよ。

宮内 画一的に応じるのは無理がありますよね。

和田 今やAIの時代です。検査結果や画像データから診断して薬を出すなら、AIのほうが優秀ですよ。そうなると、医者は不要になります。

宮内 困りますね。企業経営にもこれからAIに助けてもらう部分が増えてきます。AIをどう利用して経営判断につなげるかが課題になってくるでしょう。

和田 だけど、医者にはAIにはない生きた知恵があります。一対一で話をして「この人、自分の経験から診て、ここが問題だ」と気づく。あるいは長年、その患者さんを診てきたからこそ気づける変化もある。いわゆる「主治医」とか「かかりつけ医」という状態だからできる個別の医療です。先ほど宮内さんが「相談者にわかってもらうには信頼関係が必要」と仰いましたが、医療も同じで信頼関係が大事なんです。

宮内 仰る通りですね。

和田 信頼関係からは意外なメリットも生まれます。例えば、「この医師に診てもらうと安心する」とか「なんか気が楽になる」ってありますよね。心理効果が、治療効果を上げていることがあるんです。宮内さんの経営や相談も、私の医療も、人が相手ですから十把一絡げに一般化なんてできない。それぞれの問題や事象に対して一つ一つ誠実に、懸命に向き合うしかないのだと思います。

宮内 本当にそう思いますね。一人一人、一つ一つ全然違いますから。

※3回目に続く

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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