PERSON

2024.08.28

世界最高齢プログラマーが、自分の頭で考えない日本人にズバリ物申す【和田秀樹×若宮正子①】

81歳の時にiPhoneのゲームアプリを開発して“世界最高齢プログラマー”として各界が注目。Apple社のCEOティム・クック氏や台湾のデジタル大臣だったオードリー・タン氏からも一目置かれる存在になった。政府の会議でもズバリ物申す若宮正子さん。常識や世間の目に囚われないこの対談は「日本の壁」を切り崩す。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。1回目。

和田秀樹氏と若宮正子さんの立ちショット

考えないことが大問題

和田 素敵なお召し物ですね。柄も色合いもきれいです。

若宮 「エクセルアート」って言うんです。私がデザインした柄を布にプリントしてもらうんです。このうちわもそうなんですよ。

和田 「エクセル」って表計算ソフトの?

若宮 そうです。縦横に線が引かれた表が、小さな箱を並べたように見えたんです。色を入れたら図柄になった。「これは面白い」と夢中になっちゃった(笑)。

和田 頭がやわらかい(笑)。

若宮 最初は「表計算ができないから、絵を描いて遊んでるんだ」とバカにされましたよ。私は何を言われてもまったく気にならないんですけどね。

和田 元気の秘訣ですね。

若宮 だって毎日が楽しいから。iPadを買った時も、最初にやったのがお琴の演奏でした。その時も「こんな素晴らしい道具をそんなことに使うなんて、もったいない」と言われて。だけど、道具って、自分の好きなように使うものですよね。

和田 仰るとおりですね。道具は使うものなのに、使われちゃってる。日本人の悪い習慣です。自分の頭で考えなければ。

若宮 本当にそうですね。私は今、政府の依頼で「デジタル社会構想会議」の構成員など、いくつかの会議に出てますけど、このまま日本人が自分の頭で考えないままだと、まずいなと思いますよ。だって、学者も業界関係者も自分に都合のいいことばかり言いますから。国民が自分の頭で考えなきゃ、誰かの思いどおりになっちゃいますよ。

和田 するどいですね(笑)。

若宮 高齢者も自分の頭でものを考える、心身ともに自立するって方向に持っていかないと。

和田 人口の3割が高齢者ですからね。その比率はどんどん高くなります。

若宮 例えばね、犯罪に対しても、政府の方針は「家族とか警察に相談して」と言う。だけどそれより前に「今来た男は怪しいんじゃないか」って、まずは自分で考えなきゃダメでしょ。

和田 振り込め詐欺とかニセ電話詐欺も「家族が注意しろ」って話になってるけど、犯人は高齢者に電話をかけてくる。だからまずは、高齢者自身が注意すべきなんです。

若宮 そうなんですよ。

和田 日本って余計なお世話がすごく多い国だと思います。手取り足取りして、結果的に、ものを考えさせなくしたり、個人をひ弱にしているんです。たしかに詐欺に引っかかる高齢者は気の毒ですが、だからといって多くの高齢者を、まるで判断力のない人のように扱うことに、僕は納得できないんですよ。

加減がわからない。だから引くも責めるもやりすぎる

若宮 運転免許も、お返しすると落ちこんじゃう人がいます。

和田 そうそう。

若宮 だけど考えてみたら、高齢者が一方的に折れるのはおかしいの。折れるのではなく、要求したらいい。「もっといい道具をつくりなさいよ」って。

和田 まさにそれ。私も以前から「免許は返納しなくていい」と主張しているのですが、お叱りがくる(笑)。でもAIがどんどん進歩してるのだから、自動運転は数年のうちに実用化されるはずです。要求すれば、もっと早まる可能性もある。

若宮 道具に使われちゃってるんですね。使う側にならなきゃいけませんよ。

和田 振り込め詐欺も免許返納も、政府は「高齢者はダメなもの」と決めつけ、負担のように扱う。馬鹿にしてますよ。

若宮 子供に対してもそう。事故があると引率者のせいにされるから、林間学校がなくなっていると聞きました。

和田 確率の低いことにビビって大事なことを忘れてるんです。例えば、いじめの問題も「悪口を言ってはいけない、仲間外れはいけない」と言ってるんだけど、そのうち「ニックネームで呼んじゃダメ」と、どんどんエスカレートしていく。リスクマネジメントというか、本当は子供のうちにリスクを経験させて、生きるための免疫力をつけたほうがいいと思うんですけど。

若宮 私もそう思います。子供時代にケンカした経験がないから、大人になってもケンカの仕方がわからない。“加減”がわからないんですね。

和田 だから理不尽な上司の言いなりになってしまうんです。一方で「セクハラ、パワハラ」と騒ぎ立てたり、ちょっとしたことですぐに訴えたりする。もちろんセクハラもパワハラもダメなんですよ。でも、加減がわからないから「引く」も「責める」もやりすぎちゃう。

若宮 健康志向も行きすぎですね。「健康のために何かしなきゃいけない」と強迫観念に駆られているみたい。「健康のためなら死んでもいい」って言った人がいるぐらい(笑)。

和田 言い得て妙です(笑)。

若宮 私自身は「長生きなんてしなくていい」と思っているんです。例えば子育て中や会社の経営者など、誰かを守る立場なら「一日でも長生きしなきゃ」と思うのもわかる。だけど私は長生きより日々の充実が大事。

和田 やはりそうですか。この連載では80代後半になっても活躍している人と対談しています。皆さんに共通するのは、「長生きしたいと思って長生きしてるわけじゃない」ということです。前向きに生きてるうちに自然と長生きしてる。

若宮 たしかに。どっちかっていうと、私なんて、健康に悪いことばかりしてますよ。

和田 さすがです(笑)。

和田秀樹氏と若宮正子さんの座りショット
和田秀樹/Hideki Wada(左)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て現職。30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

若宮正子/Masako Wakamiya(右)
ICTエバンジェリスト。1935年東京都生まれ。高校卒業後、三菱銀行に就職、同行で女性初の管理職を務める。81歳でiPhoneアプリ「hinadan」を開発し、世界最高齢のプログラマーに。現在、シニア世代向けの情報共有サイト「一般社団法人メロウ倶楽部」副会長。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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