PERSON

2024.05.07

和田秀樹の医者ではなく、大先輩に聞け 養老孟司「人間のことに一生懸命にならない」。『80歳の壁』著者・和田秀樹が唸った“不良患者のススメ”

養老孟司『バカの壁』と和田秀樹『80歳の壁』。記録的な大ヒット本を生んだふたりに共通する人生哲学とは――。話の随所から、楽に生きるためのヒントが飛びでてきます。

養老孟司×和田秀樹

”元気に長生き”の極意に迫る

和田 僕は養老先生には、一生頭が上がらないんです。僕本当に出来の悪い学生で、臓器とか神経の名前が覚えられない(笑)。でも養老先生は試験の前に「ここを出すぞ」って教えてくださったんですよ。おかげで解剖学の単位が取れて進級もできた。

養老 (笑)。落とすともう1回試験しなきゃいけないでしょ。それはとても面倒くさい。だから教えるんです(笑)。

和田 おかげでスタート地点を生き延びて医者になれました。ところで、今回のテーマが「長生きをより楽しく」なんですが、真っ先に思い浮かんだのが養老先生でした。失礼ながら「老後の見本」みたいな方ですから。

養老 (笑)。

和田 世の中がどんどん窮屈になるなかで、養老先生は今でもタバコを堂々と吸う。そして虫を捕りに世界各地に出かける。とても自由で素敵に見えます。

養老 タバコを吸うのも大変です。ホテルでも決まった場所に閉じこめられる。だけどタバコって「今から吸います」というんじゃない。なんとなく吸うものなんですよ(笑)。

和田 禁煙したことは?

養老 ありますよ。ただね、僕はやめると太る。1回やめると5キロ。3回やめたので15キロ増えて、70キロが最高でした。若い頃は、55キロが標準でした。3年前にあまりにも体重が減るから病院に行ったら糖尿だった。で、救急で入院してステント入れられ、半年拘束されました。まあ入れても入れなくても、生活の状況は全然変わりません。担当医には悪いから、そんなことは言わないけどね(笑)。

和田 僕も糖尿病の積極的な治療には懐疑的です。自分が糖尿病になり複数の薬を試しましたがどれも効果がない。一番効果があったのは歩くことでした。一時期、医師の言いつけを守り、血糖降下薬を飲んだんですが、僕の場合は頭がぼーっとする。糖分は脳の唯一の栄養素なんだから、血糖値が高いほうが頭は冴えるのは当然です。脳の専門家として、養老先生はどう思いますか?

養老 血糖値が高いと頭が冴えるかはわからない。だけど低くなるとダメなことはわかります。それと、医者の言うことを聞かないろくでもない患者というのは同じです(笑)。

和田 あまり無理して薬とかを使うよりは、数値が高くても維持するのがいいと思ってます。

養老 普通に生活してりゃいいんでね。ただ、世の中が変わって甘いものが美味しくなった。油断するとやたら食べちゃうから控えるようにしています。

養老孟司氏
養老孟司/Takeshi Yoro
1937年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士、解剖学者。東京大学医学部卒業後、解剖学室へ。1995年東京大学医学部教授を退官後は、北里大学教授などを歴任。ベストセラー『バカの壁』のほか、『ものがわかるということ』など著書多数。

人にも自分にも縛られない

和田 長年アクティブでいる秘訣みたいなものはありますか?

養老 ひとつは、人間のことに一生懸命にならない、ですね。ひとりでいることが悪いように言われるけど、年寄りはひとりでいるほうが楽なことも多いんです。僕の場合、愛猫のまるが死に、親しい友達もだいたい死んでます。それを寂しいと思っても仕方がないし、今さら新しい知人をつくっても疲れるだけでね。

和田 高齢者は家族と同居しているほうが自殺率はずっと高いんです。統計で明らかになっているのですが知られていません。多くの人は「ピンピンコロリで死にたい」って言うけど、それは元気な人が突然倒れて死ぬってことです。で、後日発見されるのが、いわゆる孤独死です。

養老 歴史を見ると、西行も鴨長明(かものちょうめい)も松尾芭蕉も、死ぬ時は傍に誰もいなかったんじゃないかな。孤独死ですよ。

和田 日本はやたら同調圧力が強くて、孤独を恐れる風潮もそのひとつですよね。でも周りの空気に合わせるほど、自分で自分の首を絞めることになる。

養老 ひきこもりが多いのも周りがうるさいからでしょう。社会の病気みたいなものですね。

和田 とはいえ養老先生は社会的な仕事を続けています(笑)。

養老 関わり合わないほうが面倒くさい。多くは頼まれ仕事で、それを断るのが面倒なんです。

和田 引き受けるのも面倒だし、断るのも面倒(笑)。

養老 だから長く続きそうな仕事は最初に考えます。途中で嫌にならないかな、とかね。負担にならないようにするんです。

和田 年をとってからですか?

養老 いや、昔からです。僕は小学校2年で終戦を迎えたから。戦中、大人は頑張ったでしょ。若者も子供も渦に飲みこまれた。国民全員が一億玉砕の雰囲気だったのに終戦でコロッと変わった。ああいうのはやめたほうがいいと、肌でわかったんです。

和田 養老先生が臨床ではなく、解剖に行かれたのも、人に合わせるのを嫌ったからですか?

養老 患者さんを診るのが嫌なんだよ。人間ですからね。痛いの痒いのってうるさいでしょ。で、時には死なれちゃう。死なれるのが嫌なんです、僕は。患者さんに一生懸命になればなるほど死なれると堪えますから。

和田 人に縛られないということは、自分を縛らないことなんですね。

和田秀樹氏
和田秀樹/Hideki Wada
1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て現職。30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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