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2024.01.03

「高齢者を元気にするためにポルノ解禁って最高の発想」精神科医・和田秀樹×岸博幸

慶應義塾大学教授・岸博幸先生が、各分野で活躍するいま気になる人と対談する不定期連載企画「オトナの嗜み、オトコの慎み」。今回の対談相手は、精神科医の和田秀樹【過去の連載記事】

精神科医・和田秀樹氏と岸博幸氏

心の健康のために医学界は変わるべき

 今回の対談相手は、『80歳の壁』をはじめ数多くのベストセラーを出されている精神科医の和田秀樹さん。早速ですが、和田先生が今最も興味を持っているテーマは何でしょう?

和田 「いかに高齢者を元気にするか」ですよ。もちろん少子化対策は重要ですが、今、出生率が高まってもその子供たちが労働力になるには20年かかります。低迷する日本を上昇させるには高齢者の力が必要。健康な身体と心を維持し、できる範囲で働き、お金をたくさん使い、幸せになる。日本を元気にするには、まずは元気な高齢者をたくさんつくることです。

 少子高齢化の流れはすぐには変えられませんからね。日本の医学界は高齢者医療に対応できていますか。

和田 問題点が山積みです。昔から日本の医療は、病名がついた病気の治療にはいいものでした。手厚い保険診療が受けられますから。でも、老化に伴って、病気ではないが体力その他が衰えてきた高齢者には医療体制がお粗末すぎる。医療保険のカバーがないし、カウンセリング専門医も極めて少ない。心の健康という点では日本は後進国です。

 なぜそういう状況に?

和田 医大の入試システムの影響もあります。日本では入試の面接試験をその医大の教授が行います。でも、それでは自分の回診についてくるような従順な学生ばかりが受かってしまう。今の医学界を変えたいという反骨心のある人や、研究者向きとされている筆記試験はものすごくできるがコミュ力などに問題がある学生は落とされてしまうんです。もっとその人の特性を見て、合格者を選ぶべきです。

 海外の入試面接は日本と違うんですか。

和田 アメリカは大学の教授ではなく、アドミッションオフィスのプロの面接官が試験を行います。彼らは教授に逆らって噛みつきそうな学生を敢えて合格させることが多い。だから、従来の常識に捉われない面白い医者が出てくるんです。

 だから柔軟な発想で、マニュアルどおりではない医療が行えるんですね。

和田 高齢者の治療って、いい悪いで判断できないところがあるじゃないですか。私の知り合いの祖父の80代のおじいちゃん。ヘビースモーカーで肺がんになり、担当医からたばこを禁じられた。そうしたらうつ病を発症して、さらに弱ってしまったんですよ。おじいちゃんの息子が「もう最期が近いから、大好きだったたばこを吸わせてあげてもいいんじゃないか」とたばこをあげたら、みるみる元気になった。それから10年間、92歳でくも膜下出血で亡くなるまで生き続けました。

 だから僕も病気を患っても、たばこはやめない(笑)。好きなことをやめることで、かえってストレスが増えると思うんですよ。

和田 幸せの感じ方は人それぞれ。それが心ってものです。病院に入院すると、食事も制限されてしまう。コレステロールや血糖値、血圧を下げるために味の薄いものばかり食べさせられる。それで元気になる人もいるが、かえって病んでしまう人も出てくる。ケース・バイ・ケースで判断していくしかないんですよ。

老化防止のためにポルノを鑑賞?

 老化を遅らせるために最も大切なことは何ですか。

和田 アクティブに生きることに尽きます。日本は高齢者になると、どんどん非アクティブな方向へ向かってしまう。「年寄りなんだからあまり無理しないように」とか、「塩分を控えるように」とか。でも、アクティブに動くことで、若返り効果が期待できる男性ホルモンの分泌が促されます。ひとつ面白い事例を紹介すると、1960年代、スウェーデンとデンマークが今の日本と同じように高齢化に頭を悩ませていた。老人たちに活力を与えて若返らせるために何をやったと思います?

 なんですか。

和田 ポルノを解禁したんです。1960年代にデンマーク、スウェーデンでポルノ上映が合法になりました。効果がどれだけあったのかは定かではありませんが、老化すると減ることが多い男性ホルモンの分泌は増えます。こういうことができる国は素敵だなと感じます。

 すごい柔軟性ですね。その発想、日本では無理。逆に「治安をよりよくするためにポルノ取り締まりを強化しよう」って方向になってしまいます。理屈にかなった合理的思想が、今の日本ではなかなか通らない。

和田 少数派の声を聞きすぎるんですよね。報じられるニュースは、少数事例が多くて当たり前。珍しいからニュースになるわけだから。でも、それを主流の意見として捉えてはいけないんですよ。いじめを苦に自殺した子供がいたから、学校全体でニックネームを禁止する。これが正しい道筋とは思えないんです。

 日本の政治はダメだけど、国民全体がバカになっている。ネットの普及のせいも大きいと思うけど、自分の頭で物事を考えない。

和田 東大に合格するような人は確かに勉強ができますよ。でも、今の東大生と昔の東大生は大きく違う。今はトップレベルの中高一貫校に通い、先生の言いなりで勉強してきた人が多数。昔は東大に受かるための勉強法を自分で考えられる人が合格した。結果として、東大生は勉強はできるけど、視野が広くて本当に面白い人は少なくなった。

 勉強ができるかできないかは、今後ますます重要じゃなくなる。僕は現在、病気の治療で通院していますが、出される薬の処方や説明はおそらくAIのほうが正確です。でも、サービスやホスピタリティに関しては生身の人間がはるかに上。そこを踏まえて、今後どんな力を身につけ、心を磨いていったらいいのか、多くの人にもっと真剣に考えてほしいですね。

精神科医・和田秀樹氏と岸博幸氏
岸博幸/Hiroyuki Kishi(左)
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。経済財政政策担当大臣、総務大臣などの政務秘書官を務めた。現在、エイベックスGH顧問のほか、総合格闘技団体RIZINの運営にも携わる。
和田秀樹/Hideki Wada(右)
精神科医
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』など著書多数。

TEXT=川岸徹

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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