慶應義塾大学教授・岸博幸先生が、各分野で活躍するいま気になる人と対談する不定期連載企画「オトナの嗜み、オトコの慎み」。【過去の連載記事】
水商売で培った男を見る目
岸 今回の対談相手は、女優、タレント、ラジオ番組のMCと、幅広いジャンルで活躍する壇蜜さん。僕の周りには壇蜜さんのファンがたくさんいて、特に政治家や官僚に圧倒的な人気です。壇蜜さんって〝おやじ殺し〞ですよね(笑)。
壇蜜 ありがとうございます(笑)。銀座のクラブで働いていた時に、ママに仕込まれましたから。その後、バニークラブで働くようになって、30歳手前まで水商売を続けました。
岸 水商売によって男性を見る目が養われた?
壇蜜 「目標がはっきりと見えて、手に届きそうな時ほど危ない」と考えるようになりました。「この人、上客になりそう」って思える人には、こちらも欲目が出て、サービスが過剰になっていく。でも世の中、うまい話なんてないんですよ。そこに誘いこまれないよう、ブレーキをかけることが重要だなって思います。
岸 慎重派なんですね。その戒めは芸能界に入ってからも役に立っています?
壇蜜 おいしい話は、いい顔をしてやってくる。「DVDを出すから、まずはこの仕事をやって」という感じで、大きな仕事をチラつかせながら過度なことを要求してきます。その要求に一度乗ってしまうと、「一度やったんだから、もう一回できるでしょう」と、当たり前のように求められてしまう。芸能界では、より強い警戒心が必要ですね。
岸 壇蜜さんはどんな男性に惹かれますか。
壇蜜 タバコに火をつける時に、ヒョウ柄のジッポーを持っている人は苦手。逆に、行きつけのスナックの名前が入ったライターを使っている人に惹かれます。
岸 その理由は?
壇蜜 そのスナックを「愛している感」が伝わってくるじゃないですか。そのさり気ない感じに好感が持てるんです。逆に、ヒョウ柄のジッポーを持つ男性は、モノへのこだわりが強そう。普通のジッポーでいいのに、敢えてヒョウ柄ですよ! こだわりが強い男性が好きという女性もいるでしょうけど、私はダメ。その人のこだわりある世界を侵略しちゃいそうで怖いんです。
岸 壇蜜さんは2019年に漫画家の清野(せいの)とおるさんと結婚されました。どんな出会いを?
壇蜜 テレビ番組の収録現場で知り合いました。彼と話す機会があって、「一番好きな漢字の部首は何ですか?」って聞いてみた。返ってきた答えが〝ヤマイダレ〞。実は私もヤマイダレが一番好きなんです。この人とだったら、絶対にうまくいくと思って、その場で「清野さんとだったら、結婚できます」って言ったんです。彼もOKしてくれて、結婚することになりました。
岸 うーん。理解できるようで、理解できない。
壇蜜 男の人はダメなところばかりでも、私にとって何かひとつだけ魅力に感じられる部分を持っていてくれればそれでいい。そのことを教えてくれたのが、’80年代に読んだ『Sweetらぶらぶ』という漫画。スポーツも勉強もダメな男の子が出てきますが、優しさだけは最高点だった。主人公のらぶらぶは、そこに惹かれて恋仲になるんです。清野さんとは、ヤマイダレを選ぶという感覚に共感できた。それで、いいじゃないですか。
岸 やっぱり理解できないので、とりあえず『Sweetらぶらぶ』を読んでみることにします(笑)。ところで、壇蜜さんは現代の若い男性をどのように見ていますか。
壇蜜 打たれ弱いですよね。挫折して、落ちこんで、そのまま立ち直れない人が多い気がします。なんでこんなにメンタル弱いのって。
岸 僕が慶應の大学院で教えている学生たちもそう。若いうちは挫折も苦労も当たり前なのに、一度の失敗を極度に恐れてしまう。失敗があるから成功を摑めるはずなのに。
壇蜜 ゲームのやりすぎが大きい原因じゃないでしょうか。ゲームでは簡単にリセットボタンを押してやり直せる。でも、現実ではそうはいかない。だから、失敗した時にうまく対応できないんですよ。ゲームでも、「育てていた"たまごっち"が死んだら、ゲーム機ごと庭に埋める」くらいの気概が欲しいです。
挫折を繰り返して人間は強くなる
岸 SNSの影響も大きいと感じます。
壇蜜 同感です。SNSでは本性を隠して、つい"ヨソイキ"の顔をしてしまう。いい子に見られたいですからね。でも、表面だけのいい子は、打たれ弱い。私がMCを担当するラジオ番組『壇蜜の耳蜜』にも、弱音を吐く投稿がいっぱいきます。「失敗で落ちこんでいるんですけど、どうしたらいいでしょうか」と。そんなの、知るか(笑)。「虫同士が共食いしている映像でも見てショックを受けろ」って言っちゃいます。虫の共食いの映像は、一度見るべき。落ちこんでいる自分が、バカらしく思えてきます。
岸 壇蜜さん自身は、挫折を経験してきた?
壇蜜 挫折ばかりですよ。学生の頃は、国際的に活躍する舞踊家を目指していました。親に授業料を払ってもらって留学までしましたが、英語が全然身につかない。日本舞踊も師範の免状を取得しましたが、師匠に"きわどいグラビア"がバレてしまい、たいへんな迷惑をかけてしまいました。失敗ばかりの人生なんです。
岸 でも、浮き沈みの激しい芸能界でこれだけ仕事が続けられるのはすごい。
壇蜜 最近、昭和の価値観って大事なんだなって考えるようになりました。リリアンやビーズといった昭和の遊びって、華やかさはないものの、ずっと生き残っているでしょう。私は、そんなふうに生きたいなと。テレビの特番のような大きな舞台も大切ですけど、ラジオのMCや雑誌の連載はもっと重要。ヨソイキの顔をしないで継続できる仕事を、途切れることなく続けていきたいです。
Danmitsu
1980年秋田県生まれ。雑誌のグラビアで注目を集め、TBS『半沢直樹』、NHK『花子とアン』などドラマでも活躍。主演映画『甘い鞭』では、日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。2019年11月、漫画家清野とおる氏と結婚。
Hiroyuki Kishi
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。経済財政政策担当大臣、総務大臣などの政務秘書官を務めた。現在、エイベックスGH顧問のほか、総合格闘技団体RIZINの運営にも携わる。