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2023.03.21

WBC期待のサウスポー、ヤクルト・高橋奎二のプロ入りを想像できなかった高校時代とは

熱戦が続いているWBC(ワールドベースボールクラシック)。ダルビッシュ有(パドレス)以外は若手が多い投手陣となっているが、そのなかで貴重なサウスポーとして注目を集めているのがヤクルトの高橋奎二(たかはしけいじ)だ。世間的には“板野友美の夫”というイメージが強いが、ここ2年の成長には目を見張るものがある。今回はそんな高橋がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは……

2023年3月12日のWBCオーストラリア戦で第2先発として登板したヤクルト・高橋奎二。

2023年3月12日のWBCオーストラリア戦で第2先発として登板したヤクルト・高橋奎二。WBC初イニングは1安打無失点、2奪三振の好投。

プロ入りは想像できなかった高校時代

プロ入り直後の高橋奎二は度重なる故障もあり、なかなか成績を残すことができなかったが、4年目の2019年には先発に定着。

2021年には日本シリーズで完封勝利をあげ、チームの日本一にも大きく貢献している。

2022年も夏場に新型コロナウイルスに感染して離脱した時期はあったものの、自己最多となる8勝をマークするなど飛躍のシーズンとなった。

そんな高橋は関西でも屈指の名門校である龍谷大平安の出身だが、中学時代に目立った実績はなく、入部当初は目立つような選手ではなかったという。

初めてそのピッチングを見たのは2013年11月2日に行われた近畿大会の対履正社戦だ。

当時1年生だった高橋は背番号17をつけて先発投手として登板したものの、6回途中までに6点を失って降板している。

直後にチームの打線が逆転し、最終的に11対7で勝利しているが、高橋自身のピッチングはあまり印象に残っていない。

当時のプロフィールを見てみると176㎝、62㎏とまだまだ細く、ストレートも130キロ台前半とスピードも物足りなかった。

チームはその後も勝ち進んで近畿大会優勝を果たし、続く明治神宮大会の初戦、対三重戦でも高橋は先発を任され、今度は6回途中1失点で勝ち投手となったが、当時のノートにも高橋の投球について詳細なメモは残っていない。

翌年春の選抜高校野球でもチームは優勝を果たし、高橋は2年生ながら決勝戦でも先発を任されているものの、この時点では高校からプロに進むような投手とはとても考えられなかった。

技巧系から本格派へ開花した若き左腕

ようやく高橋を注目選手として見始めたのは2年夏に出場した甲子園大会の初戦、対春日部共栄戦だ。先発した元氏玲仁(もとうじれいじ)が立ち上がりにいきなり崩れて5点を失い、1回ワンアウトから緊急リリーフとなったものの、落ち着いた投球でピンチを脱出。

その後も相手打線を寄せ付けず、6回2/3を投げて被安打2、8奪三振で無失点と見事なピッチングを見せたのだ。当時のノートにも以下のようなメモが残っている。

「右足をかなり高く上げる“(ノーラン)ライアン”式のフォームが上手くはまっているように見える。少し二段モーションでボークをとられないかは心配だが、下半身の粘りが出てきて、ステップする前に“間(ま)”があるので打者はタイミングが取りづらい。

(中略)ストレートも変化球もとにかくよく腕が振れており、縦のスライダー、チェンジアップも打者の手元で鋭く変化する。

特に右打者の膝元へのストレートとスライダーは効果的。緩急の使い方も上手く、緊急リリーフからの長いイニングの登板でもしっかり試合を作る」

ストレートの最速は142キロと2年生にしては十分な数字もマークしている。結局試合は1回の失点が響いて1対5で敗れたものの、この試合を境に高橋をドラフト候補として認識するようになった。

高橋は3年春の選抜高校野球にもエースとして出場。チームは初戦で浦和学院に延長11回、0対2で敗れたが、この試合でも安定した投球を見せ、当時のノートにも7行にわたって評価するコメントが残っている。

ただこの試合でのストレートの最速は140キロと、春先ということを差し引いてもそれほど目立つ数字ではなく、上位候補として見ていたわけではない。

体格も投手としてはそれほど大きくなく、プロに進んだとしても技巧派のサウスポーになりそうな雰囲気があり、ドラフト3位で指名された時には正直評価が高いと感じたことを覚えている。

昨シーズンは最速155キロをマークし、150キロを超えることも珍しくなくなっているが、ここまで本格派になるとは夢にも思わなかった。

成功にはあらゆる要素があったと思われるが、プロ入り後も本人のたゆまぬ鍛錬があったことは間違いないだろう。

2023年で26歳という年齢を考えると、ここから球界を代表するサウスポーとなることも十分に考えられる。今大会での経験をきっかけにして、更なる飛躍を遂げてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

連載「スターたちの夜明け前」とは……
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=CTK Photo/アフロ

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