幾多の試練を乗り越えながら、着実にスーパースターへの階段を上り続けるメジャーリーガー・大谷翔平。今だからこそビジネスパーソンが見習うべき、大谷の実践的行動学とは? 日本ハム時代から“大谷番”として現場で取材するスポーツニッポン柳原直之記者が解き明かす。
新加入のバンディと"どーもくん"で大盛り上がり
2020年8月6日のエンゼルス×マリナーズ戦。大谷が「右肘付近の屈筋回内筋痛」で投手としての今季登板が消滅して以来、初打席の最初のスイングで豪快アーチをかっ飛ばした。不屈の一振りに誰もが驚いたと同時に、9回1失点で完投勝利を挙げたバンディの快投も、投手陣に不安のあるエンゼルスにとっては大きな収穫だっただろう。
今年の春季キャンプの2人のやり取りを思い出した。2月下旬。クラブハウスで大谷と今季オリオールズから新加入のバンディが仲むつまじそうにケタケタと笑い合っていた。バンディがメジャーリーグ中継局のNHKキャラクター「どーもくん」のボールペンを手にして「"どーも"ってどういう意味?」と尋ね、大谷が笑顔で答えていた。
ややこわもての印象だったバンディの柔和な表情をこの時、初めて見た。新天地で気持ちが張っていたのかもしれない。トレード以外にも昇格、降格など入れ替えが激しいメジャーリーグ。大谷の投打のポテンシャルは図抜けているが、誰とでもすぐに打ち解けることができるコミュニケーションスキルの高さに改めて感心したことを覚えている。
当時、バンディに話を聞きに行くと「"どーも"以外の日本語を教えてほしい」と逆取材も受けた。大谷については「一平(水原通訳)に聞いたけど、日本時代と合わせてキャリア8年目とは知らなかった。どうりで落ち着いているわけだ」と感心した様子だった。
バンディは'13年に右肘じん帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)を経験。トミー・ジョン手術からの復活は容易ではなく、選手同士でリハビリについて自らの経験を語り合うこともあると聞く。大谷が不屈の一発を放った試合でバンディが2年ぶりの完投勝利を挙げたのも不思議な導きである。バンディは8月11日のアスレチックス戦でも7回無失点で今季3勝目。
考えすぎかもしれないが、バンディの快投は大谷へのエールだと勝手ながら感じている。