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2023.09.21

ヤクルトの新守護神・田口麗斗、マウンド度胸は高校時代から!?

抑えとしてリーグ連覇の立役者となったマクガフがメジャー挑戦により退団。今季よりヤクルトの9回を任されるのが、移籍3年目の左腕・田口麗斗だ。低迷するヤクルトで守護神としてリーグトップタイの30セーブと奮闘中の田口麗斗がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは

準優勝の賞状を受け取る新庄高校時代の田口麗斗。
 第95回全国高校野球選手権・広島大会決勝。準優勝の賞状を受け取る新庄・田口麗斗。

巨人からヤクルトに移籍3年目、盤石のクローザーとして奮闘

セ・リーグ3連覇を目指しながら、中日と最下位争いを演じるなど苦しい戦いとなっている2023年のヤクルト。

特に投手陣は大きな課題となっているが、そのなかで数少ない明るい材料といえるのが田口麗斗(かずと)の存在だ。

2021年の開幕直前に巨人からトレードで加入すると、貴重な左の中継ぎとしてチームのリーグ連覇に大きく貢献。

2023年はメジャーに復帰したマクガフ(現・ダイヤモンドバックス)に代わる抑えに定着すると、2023年9月6日には30セーブに到達。防御率も1点台と安定しており、最多セーブのタイトル獲得も視野に入っているのだ。

“東の松井、西の田口”全国上位の投球スピード

そんな田口の名前が評判になり始めたのは2013年春のことだった。

春の広島県大会では30イニング連続無失点を記録し、奪三振も量産。この年の高校生投手では2012年夏の甲子園で4試合、36回を投げて68奪三振を記録した桐光学園の松井裕樹(現・楽天)が目玉と見られていたが、同じ小柄なサウスポーで毎試合のように二桁奪三振を奪うこともあって、いつからか“東の松井、西の田口”と呼ばれるようになっていたのだ。

そんな田口のピッチングを現場で見たのは2013年7月21日、しまなみ球場で行われた夏の広島大会の対美鈴が丘戦だ。

先発のマウンドに上がった田口は立ち上がりからいきなり連続三振を奪うと、4回までわずか内野安打1本という期待通りのピッチングを披露。5回に自らの守備のミスからピンチを招いてタイムリーを浴びて1点は失ったものの、結局6回を被安打4(うち内野安打が3本)、1四球、9奪三振で自責点0にまとめ、チームを勝利に導いて見せた。

この日の最速は144キロをマーク。現在であれば驚くような数字ではないが、10年前の高校生左腕としては全国でも上位のスピードである。

そしてスピード以上に驚かされたのがコントロールと変化球のレベルの高さだ。当時のノートには以下のようなメモが残っている。

「上背はないが(当時は170㎝、71㎏)、コマのように鋭く体を回転し、腕の振りに無駄なところがない。テイクバックでしっかり肘が立って縦に腕が振れるので、ボールの角度も素晴らしい。立ち上がりからストレートはコンスタントに140キロ以上をマーク。

少しクロスに踏み出すため、抜けるボールが多そうに見えるが、リリースでしっかり指がボールにかかっており、右打者のインコースだけでなくアウトコースへのコントロールも抜群。(中略)大きいカーブは一度浮いてからブレーキ鋭く変化し、落差も申し分ない。

縦のスライダーもストレートと同じ軌道から鋭く変化し、空振りを奪える。(中略)ストレート、スライダー、スケール全て松井より少しずつ下に見えるが、カーブとコントロールに関しては上回っているように見える」

クローザーとしての素養

そして最もこの試合で感心したのが唯一のピンチを招いて1点を失った5回のピッチングだ。

ノーアウト二・三塁で暴投でも失点する場面でありながら、後続の打者からカーブとスライダーで連続三振を奪って見せたのだ。その後にヒットを許して1点は失ったものの、ツーアウト一・三塁からまた三振を奪い、結局このイニングだけで3三振を記録している。

走者を背負ってもまったく慌てることなくストレートも変化球もコントロールミスせず、三振を奪っているところに、現在のクローザーとして活躍している素養を感じずにはいられない。

現在は試合後にスタンドのファンに向かって行うパフォーマンスも話題となり、時には他球団のファンから反感を買うようなこともあったが、そんななかでもまったく自分のペースを崩すことなくセーブを積み上げているのは見事という他ない。

まだまだ年齢的にも若いだけに、このまま抑えとして実績を残していけば、高校時代に比較された松井に並ぶ球界を代表するクローザーになることも十分に期待できるだろう。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=日刊スポーツ/アフロ

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