PERSON

2025.10.23

“サニブラウンに勝った男”。侍ジャパン期待のスピードスター、日ハム・五十幡亮汰

2026年3月に開幕予定の第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向け、2025年11月の韓国代表との強化試合メンバーが発表された。そのなかで注目を集めているのが、日本ハムの俊足外野手・五十幡亮汰(いそばたりょうた)だ。「サニブラウンに勝った男」として知られたスピードスターは、怪我や不調に苦しみながらも、今季ついにキャリアハイの118試合に出場。リーグ3位タイの25盗塁を記録し、走塁のスペシャリストとして侍ジャパン入りを果たした。彼がここまでたどり着いた背景には、陸上で培われた爆発的な加速力と、野球で磨かれた走塁センスがある。

WBC侍ジャパン期待のスピードスター、日ハム・五十幡亮汰。“サニブラウンに勝った俊足男”が日本代表に抜擢された理由

圧倒的な「スピード」で選出された注目株

2025年のプロ野球は日本シリーズを残すのみとなったが、早くも注目は2026年3月開催予定の第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)へと移っている。2025年11月には韓国代表との強化試合が組まれており、そのメンバー28人が10月8日に発表された。

そのなかで異彩を放つのが、日本ハムの五十幡亮汰(いそばたりょうた)だ。

プロ5年目の今季はキャリアハイとなる118試合に出場したものの、安打数は66本にとどまり、規定打席到達経験もない。それでも彼が選ばれた理由は明白だ。他の選手にはないとっておきの武器、スピードである。

中学時代に“サニブラウンに勝った男”として話題に

五十幡の名前が全国的に知れ渡ったのは中学3年のとき。ただそれは野球ではなく並行して行っていた陸上競技での活躍だった。全日本中学校陸上競技選手権大会では100メートル走と200メートル走の二冠に輝いたのだ。

ちなみにこの2種目には、のちに100メートル走で9.96秒の日本記録を打ち立てるサニブラウン・アブデル・ハキームも出場しており、五十幡が「サニブラウンに勝った男」と呼ばれるようになったのはこの大会での活躍が由来だ。

高校時代から際立っていた“走塁センス”

陸上競技の誘いもあったが、高校では野球に専念するために佐野日大高校に進学。高校時代には3度現地でプレーを見る機会があったが、強く印象に残っているのは3年春、2016年4月23日に行われた足利工大付との試合だ。

この日、五十幡は1番、ショートで出場。第1打席ではセーフティバントを試みてアウトとなったものの、続く第2打席ではライトオーバーの2点タイムリースリーベースを放ち、三塁到達タイム10.94秒をマークしたのだ。

ちなみに、年間400試合以上試合を見ていても三塁到達タイムが11.00秒を切る選手は稀である。当時のノートには以下のようなメモが残っている。

「まだ体は細いが昨年秋よりも少し成長が見られる。強く振り切る意識も見られ、しっかり振り切ってライトオーバー。一塁を回ってからのスピードはやはり普通ではなく、二塁を回ってもスピードが落ちない。

(中略)

外の速いボールに対しては力負けするシーンが目立ち、左方向へのファールが多い。高いレベルで勝負するにはスピードを残したままパワーアップが必要」

高校卒業後に進学した中央大でもそのスピードが買われ、1年春から外野のレギュラーとして起用。しかし打率は2割台前半にとどまり、秋には控えに回っている。

2年春には再びレギュラーに復帰したものの打率は1割台と低迷。ようやく2年秋になってリーグ戦初ホームランを放って初めて打率も3割を超えたが、3年春には三振が増えて打率も2割台前半に逆戻りするなど、なかなか打撃が安定しない時期が長かった。

ようやくドラフト候補として十分な打撃を見せるようになったのは3年秋からだ。

このシーズンは打率3割をマークすると、ホームランこそなかったものの、ツーベース1本、スリーベース2本と長打を3本放っている。さらに出塁が増えたことと比例して盗塁数も増え、11試合で9盗塁をマークしたのだ。

そして驚かされたのがリーグ戦後に行われた大学日本代表候補合宿でのプレーである。

紅白戦の第1打席で現在DeNAで活躍している竹田祐(当時・明治大)からいきなりライト線へのスリーベースを放つと、三塁到達タイムは10.58秒を記録したのだ。

これは20年以上現地で走塁のタイムを計測してきたなかでも、圧倒的ナンバーワンの数字である。当時のノートには以下のように書かれている。

「内角をしっかり振り抜いて強く引っ張り、打撃の力強さは以前と比べて明らかにアップした。

走塁に関してもベースランニングの技術が向上し、ベースを回る時にまったくスピードが落ちない。サードの手前で少し足を緩めて10.58秒は驚異的な数字。走塁のスタートも良く、脚力に技術がついてきた印象。

(中略)

守備でも外野からの返球の強さ、正確性が目立ち、上背のなさが気にならない。守備と走塁はプロでもすぐ戦力になりそう」

プロ入り後の苦難と、成長の兆し

2020年のドラフトでは2位という高い順位で日本ハムに入団。しかし、ルーキーイヤーは春季キャンプからいきなり太ももの肉離れで出遅れると、シーズン中にも再発して低迷。翌年にも椎間板ヘルニアの手術を受けるなどなかなか力が発揮できないシーズンが続いた。

3年目にようやく一軍定着を果たしたが、冒頭でも触れたようにまだ完全なレギュラーとして十分な成績を残すことができていない。それでも2025年シーズンはリーグ3位タイの25盗塁、リーグトップの10三塁打を記録するなど成長を見せたことは大きなプラス要因だ。

侍ジャパンの足のスペシャリストと言えば、前回2023年のWBCで代走として活躍した周東佑京(ソフトバンク)の名前が真っ先に挙がるが、2026年2月で30歳。

年齢を考えると代役も考えておく必要があり、その筆頭候補として五十幡にかかる期待は大きい。11月の韓国との強化試合でもそのスピードを生かしてダイヤモンドを駆け回る活躍に期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=西尾典文

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年12月号

超絶レジデンス

ゲーテ12月号の表紙/Number_i 岸優太

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年12月号

超絶レジデンス

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ12月号』が2025年10月24日に発売となる。今回の特集は、世界中で弩級のプロジェクトが進行中の“超絶レジデンス”。表紙にはゲーテ初登場となるNumber_iの岸優太が登場。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる