約5年ぶりにエイベックス会長松浦勝人による新連載「数寄者の流儀」がスタート。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのこととは。【その他の記事はこちら】

松浦勝人、後継者探し中?
エイベックスは“ひとつの時代を築いた”と言ってくれる人もいるようなレコード会社になり、今では1500人が働いている。ないものをあるようにしたのだから、それまでには、そうとうな無茶苦茶をやってきた。
今、もう一度それをやれと言われたら、気力の面で無理だと思う。だから、今は若い相棒がいないかと真剣に探している。めちゃくちゃやれる突破力のある若い人。そういう人がいれば、お金も出すし、僕の経験や知っていることをすべて教える。
エンジェル投資家になって儲けようなんて考えていない。自分ではできない“めちゃくちゃ”をやってもらい、もう一度あのヒリヒリした世界で二人で暴れてみたい。
「こいつ行けそうだな」と感覚的に思える若い人は僕の周りにも何人かいるけど、最後の決め手みたいなものが見えてこない。そういう人は、才気があって活力もあって目立っている人だから、僕が求める人が、そういう目立っている人のなかにいるのかどうかもわからない。あまり注目されていない、目立たない人のなかにいるかもしれないし。
それに、僕が気にかけている人って、30代・40代の人が多い。40歳でも若いんだけど、僕がこの業界に入ったのは20代で、その時にパートナーとして、僕にいろいろ教えてくれた人は50代だった。
僕は教わる方の気持ちはわかっているので、今、教える側に回ると相手の気持ちが理解できて、うまくいくのではないかと漠然と考えている。だから、無意識のうちに、“若い頃の僕”のような人を探しているんだと思う。ただ、ほんとうに今の僕と若い頃の僕がパートナーになったら、絶対に仲は悪いよね。でも、それくらいがいい。
音楽業界と生成AI
僕の時代は、レコードからCDへ、CDからダウンロードへ、ダウンロードからストリーミングへと音楽業界は大きく変化をしてきた。流通が変わるだけでなく、クリエイティブも大きく変わらざるを得なかった。だって、今はもう1曲1曲が勝負で、アルバムなんて概念ないでしょ?
次は生成AIの時代になる。だって、簡単に楽曲がつくれて便利だから。今は、生成AIが勝手に既存の楽曲を学習しているということで揉めている状況。だから違法だとか、収益配分をどうするのだとかが問題になっているけど、便利なものは必ず残る。
どの生成AIがどの楽曲を学習しているのかは、正直、わからない。学習素材は全部隠されちゃっていて、生成された結果しか出てこないから。
僕たちも、(権利を持っている)エイベックスの楽曲を全部学習させるということをやってみたことがある。古い楽曲でセールスが動かなくなっているものもあるのだから、それが動くとなれば、作曲家もOKしてくれるのではないかと考え、1つの楽曲のクレジットに10数名の作曲家が並ぶようなものができるのではないかと想定して。
でも、エイベックスの楽曲だけを学習した生成AIよりも、何でも学習させているグレーな生成AIの方が、いい楽曲ができるんだよね。権利関係をきちんと守って学習している生成AIもあるけど、これだと全然いい楽曲ができない。一方、勝手にどんどん学習しちゃっているじゃないかという怪しい生成AIを使うと、めちゃめちゃいい楽曲ができる。
学習している楽曲の権利者に対して、収益配分をきちんとすれば問題ないのかもしれないけど、いろいろな楽曲の要素がぐちゃぐちゃに混ざっているから分配するのも簡単ではない。
でも、生成AIがなくなることは絶対にない。今あるサービスは違法だとされて消えてしまうかもしれないけど、合意されたルールの元、学習を進めて、配分もきちんと行うという生成AIサービスが出てくるのは間違いないと思う。作曲家も、これまではリスナーに好まれるように作曲をしてきたけど、これからはAIに学習されやすいように作曲をしていくことになるかもしれない。今はまだ何もわからないけど、だから面白い。
昔、音楽をP2P技術で配信してしまうナップスターというのがあって、これも便利すぎた。権利問題が起きてサービスとしては消えたけど、アップルが米国のレコード会社を説得して、iTunesを始めた。スティーブ・ジョブズはかなり強引なロジックで、権利者を説得していったと聞いている。彼のように突破できる人がいれば、音楽業界は大きく動くことになる。そして突破をするのは僕ではなく、僕と組んでめちゃくちゃができる若者かもしれない。
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
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YouTube:@masatomaxmatsuura

