「思っていることが伝わらない」「いつも意見がズレる」「男女でも子育てでも相手が動いてくれない…」。伝えたいことが伝わらなくて悩む人は多いだろう。その理由が一目でわかる脳の仕組みが、2025年10月に発表された。その最新研究について、脳科学者・西剛志が解説する。

世界を驚かせた『絵を見るだけであなたがわかる不思議な絵』
突然ですが、この絵に「丸」はいくつ見えるでしょうか? よーく目を凝らして見てみてください。どうでしょうか。

もしかしたら、「四角しか見えない‥」そう感じた方も多いかもしれません。
実際、私自身も最初は四角しか見えませんでした。しかし、下記のヒントのイラストを見ると、1分ほど経ってようやく見えるようになりました。
ちなみに答えは、16個です。

それでも、わからないという人は下記の図を見てみてください。

どうでしょうか。この図を見て、ハッとされた人もいるかもしれません。改めて最初の絵を見てみると、マルが浮き上がって見えてくることがあります。
ここで重要なのは、「なぜ同じものを見ているのに、見える人と見えない人がいるのか?」という点です。
人は住む場所によって、全く違う世界を見ている
2025年、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の研究で、驚くべき結果が報告されました(*1)。
この図形の見え方は、なんと「住んでいる環境」によって大きく変わるというのです。次の図を見てみてください。

実際、英国と米国では81%の人が四角しか見えず、丸だけが見えた人は0%。
一方、ナミビアの村では、48%もの人が丸しか見えませんでした。
理由としては、都市で暮らすと、ビルのような四角が多い環境に囲まれているため、四角を認知する人が多くなるからです。一方、自然の多い地域では、四角形のものはほぼありません。そのため、丸が見える人のほうが多くなるのです。
つまり私たちは、同じものを見たり体験しても、自分が生まれ育った環境によって『全く違う世界を見ている』ということがわかったのです。
「話が噛み合わない人」の正体
この現象こそが、伝えたいことが「伝わらない」ことの正体です。
たとえば──
- 「ちゃんと説明したのに伝わらない」
- 「商談で意見がぶつかる」
- 「子育てで話が噛み合わない」
これらは、“これは四角だ!”と主張する人と、“いいや、これは丸だ!”と、お互いに「自分が正しい!」と主張し合っている状態に近いかもしれません。
しかし、主張を続けても二人の見ている世界が違う限り、あなたの伝えたいことは一生伝わらないでしょう。
うまくいく人は「伝える」をやめている
では、伝わるためにはどうすればいいのか? そのひみつはシンプルで『相手の立場を理解する姿勢』です。
私がこれまで17年間、1万人以上の対話を分析してきましたが、うまくいく人ほど「ある共通点」を持っていました。
その1つが、「相手の視点」と「自分の視点」をセットで伝えることでした。
たとえば──
「私は〇〇だと思います」と伝えられると私たちは抵抗感を感じます。
しかし、「あなたは□□だと考えているのですね。ただ、私は〇〇と思っています」と伝えられると、対話でのお互いの敵意(抵抗感)が減ることがわかっています(*2)。
これはデンバー大学の研究でも「視点の理解のコミュニケーション」として知られており、メッセージがより伝わりやすくなる方法の1つです(*3)。
人は“説明”ではなく“イメージ”で動く
さらに、もう1つ大切なことが、人は“イメージ”したことしか意見を受け入れないということです。
たとえば、「新車を買ってください」と伝えても多くの人は車を買いません。なぜなら、イメージできないからです。しかし、「半年以内に新車を買う予定はありますか?」と聞かれると、なんと購入率が35%も高まることがわかりました(*4)。
なぜかというと、脳は質問されると、『無意識に“その状況をイメージしてしまう”』からです。
つまり、相手のイメージを膨らませるちょっとした工夫が、あなたの伝わり方を大きく変えるということなのです。
分かり合えないからこそ、コミュニケーション力は高まる
コミュニケーションで大切なのは、うまく伝えようとすることではありません。
相手のことを理解しようとすること、相手にイメージさせる意識をもって言葉をかけること。この動物にはできない人間のみに与えられた能力こそが、私たちの信頼関係を高め、より言葉が伝わりやすくなるきっかけの1つになります。
「コミュニケーションはセンスだ」と思われがちですが、実際にはそうではありません。ハーバード大学での研究でも脳の語彙力のピークは67歳ということがわかっています(*5)。
私自身も、もともとはコミュニケーションが大の苦手でした。しかし、「相手だったらどう思うだろう?」と考えてみたり、相手にイメージしてもらうために写真を見せたり絵を描いてみようなど、日常のちょっとしたことが日々積み重なって、今ではテレビやメディアでも「伝える仕事」ができるようになりました。
人は、自分が見ている世界を「正しい」と信じやすい傾向があります。しかし、だからこそ、相手の見ている世界を知ろうとする姿勢が大切なのかもしれません。

脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて4万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』など海外を含めて累計45万部突破。最新刊は『脳科学×最新研究が解き明かす64のテクニック 「伝える」が「伝わる」に変わるひみつ』。
*1 Kroupin I, Davis HE, Lopes AJP, Konkle T, Muthukrishna M. Visual illusions reveal wide range of cross-cultural differences in visual perception. Preprint PsyArXiv 2025/ 西剛志著『脳科学 × 最新研究が解き明かす64のテクニック「伝える」が「伝わる」に変わるひみつ』2026年、アスコム
*2 Rogers SL, Howieson J, Neame C. I understand you feel that way, but I feel this way: the benefits of I-language and communicating perspective during conflict. PeerJ. 2018 May 18;6: e4831.
*3 Howieson & Priddis (2015).Howieson J, Priddis L. A mentalizing-based approach to family mediation: harnessing our fundamental capacity to resolve conflict and building an evidence-based practice for the field. Family Court Review. 2015;53(1):79–95/Kidder (2017).Kidder DL. BABO negotiating: enhancing students’ perspective-taking skills. Negotiation Journal. 2017;33(3):255–267
*4 Vicki G. Morwitz, et.al., “Does Measuring Intent Change Behavior?” Journal of Consumer Research,Vol.20(1), 1993, p.46–61
*5 Araki T, Hirata M, Yanagisawa T, Sugata H, Onishi M, Watanabe Y, Ogata S, Honda C, Hayakawa K, Yorifuji S; Osaka Twin Research Group. Language-related cerebral oscillatory changes are influenced equally by genetic and environmental factors. Neuroimage. 2016 Nov 15;142:241-247/ 安藤寿康「遺伝マインド-- 遺伝子が織り成す行動と文化」有斐閣 (2011)/ Hartshorne J.K. & Germine LT., “When does cognitive unctioning peak? The asynchronous rise and fall of different cognitive abilities across the life span”, Psychol. Sci., 2015, Vol.26(4), p.433-43

