約5年ぶりに再開した、エイベックス会長松浦勝人による連載。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのこととは。【その他の記事はこちら】

僕にとってはたいした話じゃなくても、それを価値あることだと思ってくれる人がいる
以前、経営者の間でオンラインサロンというのが流行ったことがあった。僕は未知の人と知り合いになることが嫌ではない。昔からSNSで知り合った人と会うこともあって、そういう縁が今でも続いていたりする。オンラインサロンも面白そうだなとは思ったけど、会費を取るというのが何だか嫌だなと思っていた。お金を取るからには、それ以上の価値を返さなければならないという責任が生じるから。
そう思っていたところに、顧問制度をやっている人が僕にも「やってみたらどうか」と勧めてきた。どんなものだか知ってみたい気持ちとノリもあって、とにかくやってみようと思い動き始めた。
お金を払える本気の人だけが集まった
ただ、どんな人が来るかわからないのは困るから、会費は思い切って年1000万円に設定した。ここまで高くすれば、それだけのお金を払える人、本気の人だけが集まる。公募してみたら150人以上が応募してきた。そんなに大金を払える人がいるんだと驚いたけど、そこから面談をして、最終的に13人と顧問契約を結んだ。
自分で始めてみたものの、最初は苦痛でしかなかった。相手がどんな人かもわからないし、僕に何を望んでいるかもわからない。最初からいきなり自分を曝けだしてくる人はいないから、こちらも探り探り話をしていくことになる。
でも、面談して候補者を絞りこんでいったのがよかったのだと思う。これだけの顧問料を支払えるのだから、社会的には十分、成功している人たち。数年以内に上場してもおかしくない起業家ばかり。40代が中心で、今、まさに社会のなかで戦っている人たちばかりが集まっている。
2回目ぐらいからは、相手も慣れてきて、自分の考えていることを出し始めてきた。それに、僕もものすごく刺激を受けている。刺激を受けて、僕も好き勝手に話をすると、向こうにとっても刺激になっていることがわかる。とてもいい関係になってきて、だんだん顧問制度が面白くなってきた。
たいした話をしているわけじゃない。例えば、ある人が「エルメスのバーキンはどうやったら買えるんですか」と相談してきた。あのバッグはお金を出せばすぐに買えるものではないのだけど、僕はそのやり方を答えることができる。なぜなら、何度も買った経験があるから。僕にとっては当たり前すぎるこんな話が、向こうにとっては価値がある情報になるらしい。
芸能ビジネスの、公の場所では語れない裏話。超高級ブランドの腕時計を買いたいのだけどどうか? みたいな相談。みんな意外とミーハーな質問をしてくるのだけど、そこから話が深くなっていって、ビジネスに対する考え方みたいなものも伝えられるようになってきている。“考え方”みたいな抽象的なものは、文章ではなく、会話を重ねるなかでしか伝えられないものだから。
ビジネスの根幹がつながっているか
逆に僕が学ぶこともある。
例えば、元LDHの練習生だった人がいる。EXILEに憧れてパフォーマーになりたかったんだけど、それがうまくいかなくて、ホストになった。その世界で頑張って、ホストクラブを60店舗ほど経営するようになった。そして、今、レンタルスタジオを何ヵ所も経営していて、ダンスユニットを売りだそうとしている。しかも、F3のカーレースチームを運営していて、今年はシニア部門で優勝できるかもみたいなことも言っていた。
ホストクラブ経営というのは、今の世の中、社会的な批判を受けることも多いからきっと大変だと思う。ところが、そんな辛さはまったく顔に出さず、涼しい顔で自分がやりたいことをどんどん実現していっている。F3だって、チーム運営するのは莫大な費用がかかるし、片手間なんかじゃできない。でも、それをまるで趣味であるかのように軽やかに話す。こういうやつは面白い。
彼のビジネスは、普通の人から見ると、儲かりそうなものに次々と手を出して節操がないように見えるかもしれない。でも僕から見ると、すべてのビジネスがきれいにつながっている。
これはエイベックスの黎明期と同じ。貸しレコード店、輸入レコードの卸し、楽曲制作、音楽出版、芸能事務所と段階を踏んできて、外から見ると、隣接して儲かりそうなビジネスをただ手がけてきたように見えるかもしれない。でも、僕のなかでは一貫したつながりがある戦略だった。外からでは、その行動の根幹に何があるかはなかなかわからない。でも、僕には彼の根幹が見える。僕がそれを理解できるということを、彼もわかっている。それを感じた時、この顧問制度は意味があるものだと思えるようになった。
以前、20代後半の若手社員と会食をするということをやっていた。数人を選んで、ただ一緒に食事をするだけ。僕は昔話しかできないと思いこんでいたから、数回やって何となく中断してしまった。でも、やらない理由は特にないよね。「こういう場合、オレは昔こうやったよ。お前はどうやるの?」と聞いていけばいいんだから。
僕にとっては価値がないように感じる話でも、他の人から見れば価値があるということを顧問制度が教えてくれた。あんなことやこんなことも、伝えていかなければ残ることはなく、忘れられてしまう。自分の業績を後世に残したいとかではない。僕にとってはたいしたことでなくても、それをたいしたことだと思う人がいるのだったら、伝えていくことも大切なのではないか。そう思えるようになってきている。
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
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