作り手である時計師やコンセプターの顔が見え、彼らが理想とする時計製作に真摯に向き合う。今、熱心な時計コレクターの視線は、独創性が際立つ独立系小規模メゾンに向けられている。【特集 人生を豊かにするLUXURY WATCH】

独創性際立つ、実力派小規模メゾン
時計コレクターが熱視線を送る小規模メゾンは、日本にもいくつか存在する。大塚ローテックが、そのひとつだ。作り手の片山次朗氏は、グッドデザイン賞の受賞作を持つプロダクトデザイナーであり、独学で時計製作技術を習得。シチズン傘下のMIYOTA製ムーブメントを独自のモジュールでジャンピングアワー化やレトログラード化したモデルをECサイトで販売してきた。ユニークな機構に加え、スチームパンク的な独創的世界観が人気を博し、2024年には日本人独立時計師として初めてGPHGのチャレンジ賞に輝いた。販売は抽選式。その倍率は、高まるばかりだ。
NAOYA HIDA&Co.は、2018年に初作が発表されるやいなや、お洒落の天才と称賛されるファッショニスタ、マーク・チョー氏がいち早く反応し、世界に知られる存在となった。社長を務める飛田直哉氏は、時計界でセールスやマーケティングを長く経験し、アンティーク時計の収集家としても知られる人物。彼が理想とする1920〜’30年代のモデルを再構築した、現代のヴィンテージウォッチという独自のスタイルに共感するコレクターは後を絶たない。また今年、ゼニスとのコラボレーションモデルも実現した。
ビッグメゾンも注目する実力伯仲の小規模メゾン
時計師ではないジャン-クロード・ビバー氏と飛田直哉氏は、時計界での経験を生かしブランドを設立。対してシンガー・リイマジンの共同創業者ロブ・ディキンソン氏は、高級車のカスタマイザーという異色の経歴の持ち主。それゆえ独自の視線で高級時計の再定義を試みている。
また前述したゼニスだけでなく、ルイ・ヴィトンも小規模メゾンに注目。2024年にアクリヴィア、そして今年はドゥ・ベトゥーンとのコラボモデルを発表している。いずれも腕利きの時計師が率いる独創性に富んだ新興の時計メゾンである。
こうした独立時計師とのコラボの先駆けがハリー・ウィンストンの「オーパス」シリーズだった。その仕かけ人マキシミリアン・ブッサー氏が立ち上げたのが、MB&Fである。MBは彼の名の、Fはフレンズの頭文字。ブッサーが信頼を置く仲間たちとのコラボを続ける。
1.OTSUKA LOTEC|8号
その名のとおり8作目となるニューモデルは、針式のジャンピングアワーとレトログラードミニッツを組み合わせた。毎正時に時針は瞬時に次の数字に飛び、分針はゆっくりとフライバックする仕かけに。分針の戻りを遅らせる弾み車が、ダイヤル左上に見えている。それを磁気テープに見立て、全体のデザインは古いオープンリールデッキをモチーフとした。まさに片山ワールド全開。

2.REXHEP REXHEPI|レジェップ・レジェピ クロノグラフ・フライバック
作り手のレジェップ・レジェピ氏は、1987年生まれの新鋭。2012年に工房を設立し、2018年にGPHGメンズウォッチ部門賞に輝いた。パーツはコンピュータ制御の工作機械に頼らない手作り。歯車だけでも140ヵ所もの面取りを施し、すべての面を完璧な鏡面状に仕上げている。仕上げの素晴らしさはスイスでも屈指。このオフセットダイヤルの下にスモールセコンドと30分積算計を配したクロノグラフは懐中時計に範を採った。

3.NAOYA HIDA&Co.|NH TYPE 8A
小径・薄型の手巻きの名作ムーブメント、プゾー7001を自社でモデファイし、31mmのケースに搭載。そのサイズ感も見た目も、現代のヴィンテージウォッチとのコンセプトに、まさにふさわしい。ダイヤルは洋銀製で、インデックスとインダイヤルは彫金師による手彫り。全体に丸みを帯びた時分針の造作とブルーの発色が見事だ。

4.SINGER REIMAGINED|カバジェロ・チタン
ヴィンテージカーの修復で培った“リイマジン”(再考)、“レストア”(復元)、“リボーン”(再生)を理念に掲げ2017年にジュネーブで創業。これはリボーンを象徴する新作であり、初の自社製ムーブメントを搭載する。ダイヤルに備わる4つの人工ルビーは、香箱の受け石。すなわち計4つの香箱を有し、約144時間(6日間)駆動を実現した。時刻表示機構をモジュール式とし、ムーブメント中央に集約した設計が秀逸。

5.DE BETHUNE|DB28XS シー・トゥールビヨン
美術商であり時計コレクターのダビッド・ザネッタ氏と時計師の家系に生まれたドゥニ・フラジョレ氏が手を組み、2002年設立。創業時からセレスティアルブルー(天空の青)をシグネチャーとし、高級時計の伝統を打ち破ってきた。本作に備わる毎秒10振動のハイビートにして30秒周期のトゥールビヨンは、世界初。WG製のウェイトを埋めこんだチタン製テンプやヒゲゼンマイの形状に優れた革新性が潜む。

6.MB&F|M.A.D.2 R&B
2005年創設。マキシミリアン・ブッサーの友には時計師やデザイナー、造形作家などが名を連ねる。またH.モーザーやブルガリとのコラボも話題を呼んだ。これはMB&Fの時計をより多くの人に使ってほしいと願い生まれた、エントリーモデルだ。ターンテーブルを模したダイヤルは、右がディスク式分表示、左がジャンピングアワー。外周のドットに、自動巻きローターの動きを見せる。

この記事はGOETHE 2026年8月号「総力特集:人生を豊かにするLUXURY WATCH」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

