PERSON

2026.07.26

連続起業家・福田淳「時計趣味は不合理で、だからこそ浪漫がある」

まだまだ謎に包まれた男、福田淳(あつし)。なぜだかいつも周りの人間から頼られ、案件を持ち込まれ、奔走する。そして常に国内外を飛び回り、一日一日を本気で楽しむ。多岐にわたる企業の経営を担い、タブーをタブー視せず、変化を模索する男の人生哲学とは? 第18回目は時計趣味の浪漫と、好奇心を超えた欲という視点について。

福田氏の時計コレクション

近未来を予知して現在から未来を変える

10年くらい前にパリを歩いていた時に、ふと目にとまったスウォッチを買ったことがあります。すごく薄くて軽くて、「もう今後、腕時計はこれ1本でいいじゃないか」と思ってしまったのです。時計って時間がわかればいい。つけていることを忘れるくらいのつけ心地で時間が正確なら道具としてはもう満点です。自分としては非常に合理的な判断に基づいた買い物でした。

しかしその後、いや待てよ、スマートウォッチのほうが便利じゃないか? と思いたち購入。そのうち、腕時計をすること自体がダサいんじゃないか。スマホがあるじゃん、ということで腕時計をしなくなりました。

そうこうするうちに、そもそも時間を知るために腕時計しているんじゃない! と考え始めました(ブレスレットに実用性など求めないから!)。実用的なスウォッチ購入をきっかけに、自分の考えは行きつ戻りつして、今度は手巻きのものや、中の機械が見えるスケルトンのものなどを購入。そもそも僕は、ずいぶん昔に腕時計コレクションをごっそり盗まれて以来、もう収集しないと決めていました。なのにこの有り様です。結局時間と労力をかけてまた腕時計を集めている。「時間さえわかればいい」はずのものに(こんなに不合理なことってありますか)。

行動経済学者のダン・アリエリーの著書に『予想どおりに不合理』という本があります。このなかでは、人間が実はどれほど日々不合理な判断をしているかをいろいろな実験で示しています。例えば同じ成分の鎮痛剤でも「高い薬です」と言われた人のほうが、痛みが軽くなったと感じるのだそうです。僕たちは日常的に、高くていいものを選んで合理的な判断をしていると信じて疑わない。けれどその実、僕たちが信じている「合理的」とは、そんな思いこみや勘違いでできている……。

だからでしょうか、時間を知るためだけの道具に、流儀であり、美であり、技術であり、少し大げさに言えば、僕らは己の人生哲学まで求めてしまいます(だから最高の腕時計は、モノではなくパートナーにまでなり得るのでしょうね)。

例えば、孫が祖父の時計を受け継ぐという話があります。時間そのものは誰も所有できない。けれど時計を受け継ぐことで、僕らは誰かが生きた時間をほんの少しだけお裾分けしてもらえます。そこに、腕時計というものの浪漫があるのだと思います(男の子は、祖父の腕時計や古びたジャケットに魅力を感じる生き物なのです)。

好奇心を超えた欲望のようなものが原動力

人間の好みなんて、ほとんど自分だけのロジックで成り立っています。なぜその服を着るのか、なぜその店に行くのか。合理的な、もっともらしい理由を並べることはできるけれど、結局最後は「なんか好き」なんです。この「なんか好き」こそ、僕がもっとも大事にしているものです。

僕が尊敬する人のひとりに、日本文学研究者の故ドナルド・キーンさんがいます。日本文学と日本文化に惚れて、生まれ故郷を飛びだし、遠い日本でその生涯を終えた。「なんか好き」。それが日本文学・文化研究の世界的な権威にまでなったキーンさんの人生を動かす原動力になった。キーンさんの「なんか好き」は好奇心を超えた、欲望のようなものだったのでしょう。そしてそういうものを持っている人だけがたどりつける場所があるのだと思います。

時計にハマる人も、きっと同じなのではないでしょうか。針の動きや、機械の美しさや、腕に巻いた時の感覚にうっとりしてしまう。理屈では説明しきれない「なんか好き」を放っておけない人が、腕時計という沼にたどりつくのでしょう(不合理だから楽しい!)。

どの瞬間も気を抜かずにリラックスする

僕は今、時を止めようと必死です。先日、未病対策で世田谷にある高原クリニックに行き、全身スキャンを受けてきました。別にどこが悪いということではなく、徹底的に将来のリスクを潰すためです。自分の内臓にどんな病気の可能性が考えられるのかをとにかく細かく調べてもらいました。見つけた小さなリスクには、これから対処して、病になる前に未然にやっつけていく。人生の時間を1秒でも長く楽しむために、近未来を予知して現在から未来を変える。つまりタイムマシーン治療です(痛い、苦しいから病院に行くのではなく、将来不安を予測して、健康な時に対処する。これが未病対策なのです)。

話は飛びますが、新幹線で京都から東京まで行く2時間10分ほど、仕事をするのか、ぼんやりするのかで、時間の感じ方は全然違いますよね。どう効率的に時間を使うか、なんて僕らはよく言いますが、そもそも時間の使い方に、効率も非効率もないと思うのです。だって時間って、時計のうえでは同じでも、感じ方は人によってまったく違う。つまり、人と比べることのできない、自分だけのものなんですよ。だから自分が過ごしたいように過ごせばいい。

そして人生の時間は限られているわけですから、プライベートと仕事と分けて効率化するよりも、全部ひと続きの「自分の絶対時間」として生きるのがいいかなって思うんです。どの瞬間も気を抜かずにリラックスすること。仕事だから、プライベートだからと自分を分けるのではなく、どの瞬間も自分の五感を全開にすること。そうすれば自ずと好奇心も湧きでてきて、さらに自分の時間が豊かになっていくんじゃないかなって思うのです。

僕のここ10年の腕時計遍歴から、またしてもとりとめのない話になりました。腕時計が何度も特集として雑誌に取り上げ続けられるのは、きっと皆さんが時間をただの数字と考えず、浪漫と哲学をそこに見いだしているからなのでしょう。そう考えればまた、なんだか新しい腕時計が欲しくなる(でも結局、つけるのはスマートウォッチが多いんだけど)!

Editor’s Note|来場者が去年から大幅増! 沖縄国際文化祭2026

福田さんが理事をつとめる「沖縄国際文化祭2026」が2026年4月25、26日に開催されました。2024年まで「沖縄国際映画祭」として行われていたもので、2025年から映画に限らず、アートや音楽などを含めた総合的なエンタメの式典にしたのだとか。

「一昨年までは吉本興業が行っていたお祭りでしたが、今回からは地元の135社が協賛してくださり、執り行われました。自分たち自身でこの祭りを開催したという、島の人たちの誇りを感じられるとてもいいものになったと思います」

来場者は2025年の4万5000人から10万人に増え、大盛り上がりで幕を閉じました。2027年もさらにパワーアップすること間違いなしの楽しみなイベントです。

沖縄国際文化祭2026での福田氏

福田淳/Atsushi Fukuda
1965年大阪府生まれ。連続起業家。スピーディグループCEO(現任)、STARTO ENTERTAINMENT創業CEO、ソニー・デジタル・エンタテインメント創業CEO。世界19ヵ国での出版事業、日本でタレントエージェント、LAでアートギャラリー運営、リゾート施設展開・無農薬農場開発、スタートアップ投資など世界中でビジネスを展開する。『好きな人が好きなことは好きになる』など著書多数。

TEXT=安井桃子

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2026年9月号

歯こそ最強のビジネス戦略

ゲーテ2026年8月号表紙画像

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2026年9月号

歯こそ最強のビジネス戦略

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ9月号』が2026年7月24日に発売となる。特集「歯こそ最強のビジネス戦略」では、エグゼクティブの口腔マネジメントに役立つ情報を網羅! 表紙は町田啓太。独占インタビュー&撮り下ろし8ページもお見逃しなく。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる