PERSON

2026.06.12

連続起業家・福田淳「一国一城の王様になるより、ごちゃごちゃした街の一員でいたい」

まだまだ謎に包まれた男、福田淳(あつし)。なぜだかいつも周りの人間から頼られ、案件を持ち込まれ、奔走する。そして常に国内外を飛び回り、一日一日を本気で楽しむ。多岐にわたる企業の経営を担い、タブーをタブー視せず、変化を模索する男の人生哲学とは? 第17回目は心を惹きつけてやまない場所、人、そして、旅先のこと。

福田淳氏
福田淳/Atsushi Fukuda
1965年大阪府生まれ。連続起業家。スピーディグループCEO(現任)、STARTO ENTERTAINMENT創業CEO、ソニー・デジタル・エンタテインメント創業CEO。世界19ヵ国での出版事業、日本でタレントエージェント、LAでアートギャラリー運営、リゾート施設展開・無農薬農場開発、スタートアップ投資など世界中でビジネスを展開する。『好きな人が好きなことは好きになる』など著書多数。

「よそもの」を受け入れる熱海に夢が膨らむ

先日行ったラナイ島は、ハワイの主要6島のなかで最も小さく、オラクル創業者のラリー・エリソンが土地の90%以上を所有している島です(ラリー・エリソンは実はかなり苦労人)。彼は、もとはドール社の巨大パイナップル農場だったこの島のインフラを整え、海側と山側にふたつのフォーシーズンズリゾートをつくり、コレクションしているアートを配置。さらに自分が好きな日本の露天風呂などを、持ちこみました(「ONSEN」と名前がつけられていますが、お湯自体は温泉ではないのが日本人的にひっかかる……)。言ってみれば、ひとりの大富豪が「自分の理想の世界」をこの島につくり上げたのです。

露天風呂に浸かったり、プールに浮かび、広大な植栽の中にあるアートを鑑賞して過ごすうちに、僕は不思議な感覚になりました。もちろんリラックスできる素晴らしい場所なのですが、僕にはどこか物足りない。なぜだろうと考えた時、「ここには他者が存在しないからだ」と思ったのです。ラリー・エリソンがある意味、王様とも言えるその理想郷にお邪魔させてもらっている。つまり、そこにはエリソン以外には誰もいないような感覚があったのです。

他人が勝手に介入して街に厚みが出てくる

日本に帰ってきて最初に思ったのは「どこかの土地の支配者になるよりも、土地の一員になったほうがいい」ということでした。ラナイ島でその違和感について考えているうちに、頭の中で「熱海」という街がどんどん立ち上がってきたんです。

熱海は東京駅から約40分。海外からの旅行者もいつでも気ままに訪れては出ていきます。新しいホテルも店もあり、かつては谷崎潤一郎が住まい、太宰治の『走れメロス』が生まれるきっかけとなった場所。海から沸き立つ温泉が語源で熱い海=熱海になったと言う説があったり、500を超える源泉と平均約63℃の高温泉を誇る全国屈指の湯の都でもある。そして「富士山を休火山として鎮めるためのガス抜きの地」とも語られる熱海。豊かな温泉の背景に胸が高鳴りませんか?

近年ではアートフェスや広告関係者のカンファレンスなど”熱海のカンヌ化”が進んでいます。ここに大型船舶の停泊やIRなどを開けば”アジアのモナコ”になる可能性さえあります。熱海は、軽井沢や鎌倉と違って、保守的ではない。開かれた分散型リゾートとしてのポテンシャルを持っているのです。

僕は以前から、「人間は1人で生きられない」とよく言っていますが、それは精神論じゃなくて構造の話です。1人が統治するウェルネスの島より、人それぞれが勝手気ままにつくる街のほうが楽しいに決まっています。全部がきれいに設計された街よりも、雑多な場所に文化って生まれると思うんです(海から山までクルマで20分!)。

熱海は、よそものを受け入れてくれる街です。観光地ですから外から人が来るのは当たり前ですが、それだけでなく移住してくる若い人も最近は多い。ただ「遊びに行く場所」ではなくて、「居住者と旅行者との2拠点生活者が交ざりあえる場所」になっている。そしてまだブランドとして確立しきらず、変化を続けていく勢いがある。ここが面白い。

そのためには王様の発想だけでは足りない。1950年代後半のマンハッタン、大手デベロッパーの都市開発から商店街を守り、徒歩可能な街として守ったジェイン・ジェイコブズが言ったように「無秩序に見える古い都市の下には……複雑な秩序がある」「個々が別々の役割を持ちながら、互いを強め合う」ことが大事なのである(※詳しくは福田さんの著書『ストリート系都市2022』まで)。街の価値は、その土地にどんな面白い人がいるのか、来ているのか、その関係人口すべての人たちが、その土地の価値を決めると思っています(だからタワマンとかいらない!)。

福田淳氏

さっそく熱海のマンションを内見しに行く!?

僕はそもそもリゾート地に行ったら、ホテルの中だけで完結するような過ごし方はあまりしません(ラナイ島では行くところがないのでずっとホテルにいましたが)。外に出て、街を歩きたい。地元の人がいる場所に行きたい。商店街とか、妙に癖のあるスナックとか、そういうところにこそ、その土地の本当の顔があるからです。

熱海の話をすると、不思議なことにみんなが「マイ熱海」を語りだします。自分好みの地元の飲み屋、山が近いせいで起こる地響きのような重低音の花火大会、そして、熱海を拠点に行ったことのある伊豆山温泉、網代温泉、湯河原温泉、箱根湯本、伊東温泉、修善寺温泉などを語りだすことでしょう。魚をつまみに1杯やって、地元のおじさんや若者と話し、温泉に浸かって、翌朝帰ってきたっていい。こんなに近いのに海も山もある。そんないい場所を海外の人が発見しないはずはないでしょう。これからはニセコのように発展していく可能性もあると思います。そういう夢を見させてくれるのもまたいいですね。

一国一城の王様になるより、ごちゃごちゃした街の一員でいたい。改めて「街」ってどういうものなのか、ラナイ島と熱海を通して考えてみました。こうして話しているうちに熱海への興味でいても立ってもいられなくなって、早速熱海の温泉つきマンションを購入しました。僕のモットーは「気になる土地には住んでみる」だからです。内側からその土地を知りたいですから(山側なので、早速自転車で街探検します!)。

Editor’s Note|静岡県十里木に「福田温泉」開業!?

福田さんは、静岡県の十里木(じゅりぎ)に現在温泉宿を建築中なんだとか。

「最初は熱海につくろうと思ったのですが、いろいろあって十里木に。標高900mの場所にあって富士山がよく見える場所です。この標高900mの気圧は、赤ちゃんが胎内にいる時の気圧にどこか近いと聞いたことがあります。であれば、ここは心身ともにリラックスできる場所ということ。そういう意味もあってここにヴィラをつくろうと決めました。でも熱海の話をしていたらやっぱり熱海のほうがよかったかな〜なんて迷い始めています(笑)」。

静岡県十里木

TEXT=安井桃子

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2026年7月号

軽井沢と熱海の最新リゾート

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2026年7月号

軽井沢と熱海の最新リゾート

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ7月号』が2026年5月25日に発売となる。特集「軽井沢と熱海の最新リゾート」では、話題の「軽井沢 T-SITE」から熱海のシェア別荘まで、軽井沢と熱海の最新リゾート情報をお届けする。森保一、吉田修一、吉野北人、染谷将太…。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる