PERSON

2025.02.07

業界の当たり前に切り込む、“謎”の連続起業家・福田淳とは

まだまだ謎に包まれた男、福田淳(あつし)。なぜだかいつも周りの人間から頼られ、案件を持ち込まれ、奔走する。そして常に国内外を飛び回り、一日一日を本気で楽しむ。タブーをタブー視せず、変化を模索する福田淳という男の新連載、第1回目は58歳の新たな船出と人生の軸となる思考が明かされる。

福田淳氏連載1回目

業界の当たり前に「なぜ」と問い続ける

初めまして。連続起業家の福田淳と申します。色黒の金髪で、一見怖い人なんじゃないかと思われがちですが、そんなことはございません。若い時から営業マンだったので平身低頭は得意です。時にはお客様から怒られることもありました。でもね、人間ってたいてい20分以上は怒り続けられません。20分相手の話をしっかり聞いて、その後相手への好奇心をぶつけ、じゃんじゃん質問攻めにすればそこから心はどんどん打ち解ける。会った人の数だけ新しい仲間が増えてきたというのが実感です。

そんなわけで、見た目の割に案外、常識的なビジネスパーソンだとお伝えしたくてつらつら語ってしまいました(髪の毛の色、黒に戻そうかな……)。私は好奇心からLAでアートギャラリーを始めたり、スタートアップ投資でeコミック制作会社を立ち上げたりしたこともありました。分野に限らず関心持ったら命懸け、そして2023年からは芸能事務所STARTO ENTERTAINMENT(以下STARTO社)の社長職にも就かせてもらっています。

「好きな人が好きなことを、好きになる」。私にはそんな傾向があります。尊敬する人たちが好きなことを、一緒に追いかけていくうち、気がついたら25の事業を立ち上げていました。

会社を経営することって、音楽を奏でることに似ています。曲は演奏している間しか存在せず、演奏が終われば消えてしまう。仕事も本当はゴールなんてなく、働くことをやめた瞬間、消えてしまう儚いもの。であれば働くプロセスそのものをみんなで楽しむことが大事だと考えています。オーケストラの一員として演奏を楽しむように。

実はコロナ禍の2020年7月に、沖縄にバナナ農園を立ち上げました。パンデミックで、地球が終わってしまうと思い、「食料自給せねば!」と温暖な土地で育てやすい食物を作り始めたのが最初です(農業はド素人なのに!)。地元の人と一緒に農園に立ち、今では毎年12万本のバナナができるまでに。土をいじり、台風と格闘しているうちに、私は沖縄の人たちが大好きになりました。

この地のためにできることをしたいと沖縄を舞台にした映画『かなさんどー』をガレッジセールのゴリさんとつくったり、採れたバナナの一部を南城市のふるさと納税の返礼品にしてもらったり。好きな人と一緒に、好きな土地のために働く、そのプロセスこそ幸福。みんなで一曲の音楽を奏でているような気分なんです。

生涯にわたり新規事業を立ち上げていく人のことを「連続起業家」と呼びます。いくつも事業をやっていると、自分の周りにオーケストラが複数存在しているような感覚に。好きな人に出会い続けられる限り私は「連続起業家」でありたいんです。時にうまくいかなこともありますがそれもたまらなく楽しい!

事業のひとつにタレントマネジメントがあり、私の会社スピーディでは女優のんのエージェントをしています。彼女はそれまでの本名を仕事で使うことができなくなってしまったため、新しい名前でスタートする必要がありました。これはビジネス的に考えれば、商品のリニューアルと一緒です。リブランディングのためにはどうしたらいいのかと一緒に考えるところから始まりました。

そのなかで彼女の芸への向き合い方と、ユニークな人柄に私は惹きこまれました。彼女の物事を見る視点は明らかに人と違う。その異質な感じが、自分の感性とピッタリ合ったんです。そのユニークさがエンタメにおいては最高に大切なことだったりします。そんなところにも親近感があって、今も一緒にオーケストラを奏でているところです。

芸能の場合、売りだす商品は「人」。人って毎日同じ状態はなく揺れ動くもの。だから常にその人はアップデートされたベストの状態に自分自身を保つ必要があります。そのために我々は24時間対応するくらいの気持ちでやっているのです。

58歳になった2023年に、私はまた新しいオーケストラに参加することになりました。それがSTARTO社です。60年にわたりファンを熱狂させてきた会社の瓦解の危機を微力ながらも食い止められるならと関わらせてもらいました。

STARTO社の幹部は、主にテック系スタートアップの経営者たちに集まってもらいました。異業種からの参画ですから、芸能の世界に対して特定の利害がないし、忖度もきかない。そして彼らは「業界の当たり前」に対して、素直に「なぜ?」と聞いてくれます。「なぜ?」と問われるたび「あれ? 本当だ、なぜなのかな?」とそれまでの常識や慣例を疑い、自分自身の考え方自体もリセットされます。そう、それこそ大事なことなんです。

沖縄でバナナ農園をつくっている時もそうでした。土と格闘しているなかでふと「あれ、土って農業に本当に必要かな?」と思ったんです。調べてみると水を循環させるため土は必要不可欠。けれど実は土を使わない水耕農業も今、始まっています。もちろん土は地球にとって大事です。一方で、耕作放棄地が拡大し人口が首都部に流れる日本では、狭い都会での水耕農業も考えておく必要はある。こうして、仕事における常識を疑うことは、前進と発見のきっかけになるのです。

2024年の12月で、STARTO社の社長に就任して1年が経ちました。ひと昔前であれば引退を考える年齢ではありますが58歳から始めた新米としては、日々勉強と発見の毎日を過ごしています。「推しグッズの“うちわ”って、ポスターよりアイドルを身近に感じられるからいいんだな!」とか、新鮮に驚き喜んで仕事をしております。

いくつからだって挑戦していい。50代には50代の、60代には60代のポテンシャルは必ずあると信じています。だから私は自分のことを「おじさん」なんて呼びません(言うと一気に老け込んじゃう!)。いつまでも真っさらの気持ちで、好奇心の赴くまま、好きな人の好きなことを追い求め、そこでまた好きな人に出会って旅を続けられるのです。

Editor’s Note|万物へ興味津々。その男、好奇心の塊

取材時に「なぜ農業に土っているのだと思う?」と突然問いかけ、編集部をキョトンとさせた福田氏。「僕は、もうとにかく疑問が多いんですよ。なんでなんで? って何でも知りたくなっちゃう(笑)」と白い歯を見せてさらにケラケラ笑う。

「『なんで』を突き詰めて見えてくる仕事とアイデアがある、だからとにかく『やってみなはれ』ですよ。たくさん失敗して寄り道して、また新しい『なんで』を見つけて成長すればいい」。少年のように万物に好奇心を持ち続けるこの「福田 淳」とは何者なのか!? 今号から謎の男の真実に迫る連載がスタート!

ATSUSHI FUKUDA
1965年大阪府生まれ。ソニー・ピクチャーズを経て、ソニー・デジタル・エンタテインメント創業。同社退職後、自身の会社スピーディ設立。LAでアートギャラリー、リゾート開発、沖縄で無農薬ファームなどの事業を行う。『好きな人が好きなことは好きになる』など著書多数。

TEXT=安井桃子 ILLUSTRATION=岡田成生

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