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2024.09.25

ローンチ1年強で販売累計32万枚、大企業が続々採用する「MEET」。開発した“中卒”社長が語る、ビジネスの勝算

トヨタ自動車、資生堂、ソニー、アサヒビール、エイベックスなどの大企業のWeb制作を一手に引き受けて来た実績を持つWeb制作会社、ベースメントファクトリープロダクション。コロナ禍でも新規事業を伸ばし、現在は自らの肝煎りで開発したタッチ名刺「MEET」が絶好調だ。その代表取締役の北村健氏は、中卒でディスコDJをつとめたのちの創業という変わったキャリアの持ち主。やんちゃだったという半生と、だからこそ勝ち取ることのできたビジネスの数々を語る。第3回は、コロナ禍のピンチをチャンスに変えた瞬間と、タッチ名刺「MEET」の誕生秘話。

ベースメントファクトリープロダクション 北村健氏

優秀なエンジニアがいれば、アイディアを具現化できる

ディスコDJを経て音楽制作会社を創業、コンピューターミュージックの制作からIT技術を学び、名だたる企業のWebクリエイティブ、コーポレートサイトの制作を手掛けるベースメントファクトリープロダクション。

コロナ禍には、建物の入り口で体温を測るサーマルカメラの開発・販売でさらなる躍進を遂げたのだと代表取締役の北村健氏は言う。

「コロナ禍はリーマンショックの時と同様、企業が軒並み宣伝費の予算を削ったため、Webサイトや広告を制作しているぼくらは非常に苦しい時期でした。けれどそんな時に、音楽制作会社時代にお世話になった方から、海外製のサーマルカメラでビジネスをしてみないかと誘われたんです」

ビルの入り口などに置かれ来場者の体温を測るこのカメラ。大人数の体温を一瞬で測ることができるが、一方で発熱した人が通った際は、人間が対応しなければならない。そのため常に入り口にスタッフや警備員を配置しておく必要がある。

「ぼくらには、カメラを売るノウハウもない。だから断ろうと思ったんです。でも、話を聞いているうちに、この『常に人がいないと成立しない』というシステムってもうちょっと変えられるんじゃないかな、そう思ったんです。『〇〇だったらいいのにな』と思った時、そこにビジネスチャンスがあるとぼくは思っています。だから少し考えてみたんですよ」

ベースメントファクトリープロダクション 北村健氏
北村健/Ken Kitamura
1970年大阪府生まれ。ディスコDJ、音楽プロデューサーを経て’97年にベースメントファクトリープロダクションを創業。トヨタ自動車、資生堂、ソニー、アサヒビール、エイベックスなどの大企業のWeb制作を一手に引き受けてきた実績を持つ。タッチ名刺「MEET」や、販売店・代理店向けDX支援ツール「decot(デコット)」など、自社サービス開発や販売も行う。

カメラの性能がよくても、入り口に「発熱した人を止めるため」のスタッフや警備員を配置することで、無駄な人件費が必要となる。であれば、この業務を専任ではなく他の業務を行っている人に兼任させられないか。

そう考え、もともとそのカメラに搭載されていた「発熱した人の写真を外部に送信」するシステムを使い、発熱した人が通った場合、受付にいるスタッフのタブレットPCにその発熱者の写真が届くようにした。これにより普段の受付業務担当が対応すればよくなり、入り口の人員配置は不要に。さらにこのカメラに取り込まれるすべてのデータが外部に漏れないよう、サーバーを通さずカメラとタブレットとの間で直接通信のみで情報が完結するようにシステムを組み直した。

「専用のタブレットに直接、発熱した人の写真が送られてくるように、システムを構築しました。こうすることによってセキュリティ面も安心です。その場所にどういう人が何人訪れているか、そしてその人たち全員の体温など、これらの情報が外部のサーバーに溜められていったらと思うと、とても恐ろしいことですから」

この150万円〜250万円で販売されるサーマルカメラ搭載の検温システムは都内の多くの施設に採用され、さらに中部国際空港 セントレア、慶應義塾大学病院、全国200ヵ所以上のボートレース関連施設にも設置されるまでになった。

「空港と病院、コロナを絶対に堰き止めないといけない場所ですから、そこに使っていただけているというのは、信頼してもらっている証なのだとうれしく思います。特に病院の場合、多くの人がそれまでスマホのサーマルカメラの前に並んで、それをチェックする専任スタッフも4、5名いたそうです。『人混みを避けなさい』と言っているそばから、病院の入口が体温を測る人で行列になっていた。この問題をぼくらの検温システムが一瞬で解決したんですよ」

ベースメントファクトリープロダクションには現在エンジニアが30名ほど在籍。システム開発などはこのメンバーが行っている。

「少数精鋭、といいたいところですが、エンジニアって実は人数は関係ないんです。圧倒的に優秀な人がひとりでもいれば、あとはどうフォーメーションを組んでみんなで作っていくか。そういうチームが構築されていたら、いい開発ができると思っています」

1年でLINE登録者数200万人増。記録的な成果を出した新システムとは

北村氏は2022年12月に、NFCを使用しタッチ名刺「MEET」を販売開始。NFCとはスマホにカードをかざすだけで情報を送信できる交通系ICカードやクレジットカードにも使われている技術だ。

このタッチ名刺「MEET」はカードに住所や連絡先といった名刺に書かれている情報を登録しておき、相手のスマホにかざせば一瞬でその情報が届くというもの。受け手はアプリなどの登録も不要だ。その手軽さから、既に32万枚以上を売り上げている。

MEET
名刺を相手のスマホにかざせばワンタッチで情報が表示される。他社の主要名刺アプリへの登録もアイコンをポチッと押せばOK。SNSのアカウント検索も名刺スキャンも不要。

「このNFCの技術自体は以前からあり、自分自身は2019年くらいからNFCのカードに自分の名刺情報やSNSの情報を入れておいて、会う人のスマホにピっとかざして情報を送っていたんです。そうするとみなさん『すごい、一瞬で名刺交換ができた!』と驚いてくださる。だから当時は友達の誕生日プレゼントにNFCのオリジナルカードを作ってプレゼントしていたんです。

だけど『この人にはSNSは教えたくないけど、あの人には教えたい』とか『メッセージアプリのIDを変えたから入れ直したい』など、使っていくうちに要望が出てきますよね。設定を変えればもちろんすべて解決できるのですが、どうも面倒に感じてしまう。であれば、もっと簡単に設定を変えられるよう、そしてビジネスにもプライベートにも使えるよう、ぼくらがシステムを作ればいいのだと思いつきました」

MEET
カードのほか、スマホに収納できるタイプも。NFCチップは金属の近くにあると読み取ることができなくなるが、MEETは特殊な加工でこの問題をクリア。スマホカバーの中に入れておけば、相手のスマホに自分のスマホをかざすだけで名刺交換が可能に。1枚2,980円とリーズナブルな価格も魅力だ。

これまでも企業の申し込みフォームや、コーポレートサイトなど、わかりやすいデザインと、誰でも使える操作性の高さを追い求めてきた。「こうだったらいいのに」そう思った瞬間が、いつでも北村氏のビジネスチャンスなのだ。

個人のタッチ名刺は、一回買い切り。一方、企業が使う場合は月額制となる。さらに店頭にこのMEETを置いておき、顧客にそれを読み取ってもらうことで商品のPRができる「MEET タッチPR」も完成した。オプション機能を使えば、スマホが読み込んだ情報はコピー不可で、その場でタッチをした人にしか表示されない「MEET SHARE BLOCK」という特許機能も持ち合わせている。

そのため現在、日本生命、明治安田生命、花王、ポーラ、コーセーなど名だたる企業がこの「MEET タッチPR」や「MEET タッチ名刺 For business」を採用。ローンチから2年足らずでこれだけの大企業に利用されているのは、これまで北村氏がさまざまな企業の問題解決に取り組んできた、その実績が大きいだろう。

「使い方はいろいろあるんです。『MEET タッチPR』の場合、いつ、どの営業マンからお客さんがそのPR情報にアクセスしたかというデータも記録できます。なので、営業マンの方が日報を書かなくても、会社はそのデータを見れば見込み顧客がどのくらいいるのかが一目でわかる。実は、企業の働き方にまで影響を及ぼすことができるシステムなんですよ。また『かざすだけ』とアクセスが簡単なので、日本生命様の公式LINEは、このシステムを使って増やした友達登録が1年で200万人も増えたということです」

ニッセイの案内シート。このシートをスマホに近づければそれぞれの案内に飛び、そのアクセス数も各企業でチェックすることができる。セールスレディは大量のパンフレットを持ち歩くのではなく、このシート1枚でどこでも営業ができる。

買わない理由をすべて潰す

こんなものが、こんなシステムが「あったらいい」。そう思うたびに、チャンスととらえ、実際に具現化してきた北村氏。ほしいものを作り出すために大事なのは「実行力」だと断言する。

「『あったらいいな』までは、誰でも考えるし、言います。けれど、それを本当に作れる人はほとんどいない。だからぼくがやるんですよ。そしてそのためにはとにかく動き続けるしかない。むちゃくちゃ苦しいし、根性がいりますよ。でも失敗してもいいから、何度でもやる。実行し続ける。そうしてひとつでも理想に近づくものが作り上げられたのなら、そこからは周りが評価してくれます。そして評価されれば手伝ってくれる人が増えていく。そうやって自分たちが必死に作り上げたものをポートフォリオにして、どんどん仕事を拡大させていくんです」

音楽制作をしていた際、海外のレーベルからのスカウトレターをポートフォリオに日本のレーベルでの仕事を獲得した北村氏。さらに自社のWebサイトのクオリティが認められ、それをもってトヨタ自動車などのクリエイティブに参入。そしてAdobe Flashがなくなってからは、資生堂などの大規模なコーポレートサイトリリースから、さまざまな企業の仕事へと拡大させた。まさにその言葉通り、渾身の仕事が次の仕事を生み出してきたのだ。

「いいものができたら売りたいですよね。ぼくは営業マンでもありますから、営業として意識しているのは『買わない・買えない理由を潰す』こと。『いいシステムだけど、うちがつかっているハードウェアとは互換性がない』と言われれば、その会社のハードにあわせてシステムを作り替えますし、『ついでにこういうシステムも作ってよ』と言われたら、ついでって言うけど簡単じゃないですよと思いながらも(笑)、言われた通り別のシステムも作ります。それも相手が喉から手が出るくらい欲しがる完璧なクオリティで。そして『この新しいシステムはあげますから、MEETも契約してください』と、事例をどんどん作っていくんです。

システムを作るって、人の悩みに寄り添うことだと思うんです。相手とコミュニケーションを重ねて、悩みを理解し、それを解決するものが作れたら、相手の心も動きます」

クライアントや制作する仲間たちと、リアルで顔を突き合わせ時には酒も酌み交わす。作っているものは最新鋭のシステムでも、泥臭いくらい、人との交流を大事にするのが北村流だ。

「相手さまの懐に入るためには、会議室でだけの交流ではダメだと、ぼくは思っているんですよ。そうして人付き合いを続けてきたから、困っている時はいつも誰かが助けてくれます。中卒の大馬鹿野郎でも、社長でいられて、理想的なものを作り続けることができるのは、そうやって付き合ってきた人たちのおかげ。ワンタッチで情報交換ができる、簡単なコミュニケーションツールを作ってはいますけど、これからも泥臭く、人との密な交流は続けていきます」

北村氏の波瀾万丈なビジネス人生、これからも「こうだったらいいのに」と思いつくたびに新しい物語とシステムを作り続けていくのだろう。

TEXT=安井桃子

PHOTOGRAPH=干田哲平

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