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2024.06.24

「亀田の柿の種」会長はインド出身! 社員約4000人を巻き込む、驚きのコミュニケーション術

「亀田の柿の種」や「ハッピーターン」「ぽたぽた焼」など日本人なら誰でも食べたことのある米菓を製造する亀田製菓。新潟に本社をおくこの老舗企業を率いるのは“インド出身”であるジュネジャ・レカ氏だ。日本の伝統菓子であるせんべい、その老舗である亀田製菓のトップとなった狙い、そして経営者だからこそ大事にしている社員との関係作りについて聞いた。

亀田製菓代表取締役会長CEOジュネジャ・レカ氏

「米」で世界にイノベーションを起こす

“It was my destiny.”

「あなたは、なぜ亀田製菓にやってきたのでしょうか」という問いに、亀田製菓代表取締役会長CEOのジュネジャ・レカ氏はそう言いながら微笑んだ。

インド北部の都市ハリヤナ州で生まれ育ち、1984年に大阪大学工学部に研究生として入学。以来40年間、ジュネジャ氏は日本で暮らしている。2020年に亀田製菓に入社する前は、ロート製薬の副社長というポジションにいた。

「運命というかご縁というか。田中通泰前会長に誘われて、亀田製菓の若い人たちとお話をする機会があったのです。とてもたくさんのアイディアと可能性、躍進の種を持っているなと感じ入社を決めました。そもそも亀田の柿の種は大好きでして、ずっとカバンの中に入っていたんですよ(笑)。昔からインドに帰る際やアメリカ出張の際はお土産として亀田の柿の種を持っていっていましたが、どこに行っても大人気でしたよ」

亀田製菓代表取締役会長CEOジュネジャ・レカ氏
ジュネジャ・レカ/Lekh Juneja
1952年インド・ハリヤナ州出身。1984年大阪大学工学部に研究生として入学。1989年太陽科学入社。2003年に代表取締役副社長に就任。2014年にロート製薬へ移り取締役副社長に。ロート製薬子会社の社長なども務め、2020年に亀田製菓へ副社長として入社。2022年代表取締役会長CEO就任。

流暢な日本語でそう話すジュネジャ氏。副社長として亀田製菓に入社した2年後の2022年にCEOに就任。その際に、心に決めたことがある。

「亀田製菓を世界に出す、ということ。当時すでにアメリカ、中国、ベトナムなどにも工場を持っていて、各国で米菓は売られていました。さらにアメリカで『ライスクラッカー』と呼ばれ売られている商品のうちの多くは亀田製菓グループのものです。けれど果たして、世界でどれほど、亀田製菓という名前が知られているでしょうか? 残念ながらほとんど無名です。スターバックスコーヒーやケンタッキーフライドチキンのように、世界中がその名を知る企業に私たちはなれるはずなのに。そのポテンシャルは確かに持っているんですよ」

ジュネジャ氏が言うポテンシャルとは、ずばり「米」。亀田製菓グループでは米菓以外にも米粉のパンや火を使わずに食べられるアルファ米商品なども手掛けている。

「世界ではアレルギーを持つ子供たちが年々増えていて、小麦の摂取過多によっておこるセリアック病という疾患もあります。一方で米はそもそもグルテンフリーで、アレルギーも少ない。米粉のパンなら誰でも食べられます。まさに世界が今、必要としている食品なのです。米で世界にイノベーションを起こすことができる。

さらに食糧危機が地球規模で叫ばれている現在、ビーガンになるという選択をする方も増えています。ですから私たちは代替肉としてのプラントベースフードも生産しているのです。みなさんご存じだと思いますが、亀田のおせんべい、あられ、全部美味しいですよね? 美味しいものを作れる会社が、健康と環境について真剣に取り組んだら、まさに世界を救うことができるはずなんです」

亀田製菓のラインナップ
米粉のパンやプラントベースフードの「植物生まれのグリーンチキン」「大豆と玄米のベジミンチ」、水やお湯を注ぐだけで食べられるアルファ米製品「尾西のごはんシリーズ」、インド版の柿の種「KARIKARI」、ベトナムで人気の揚げ煎餅「ICHI」、アメリカで販売されている「MARY’S GONE CRACKERS」と「CRUNCHMASTER」など、これらすべてが亀田製菓グループの商品だ。

社員4000人と会話する

米のポテンシャルを世界に発揮しその名を轟かすために。CEO就任後に最初にジュネジャ氏がしたことは、社長である髙木政紀氏とともに亀田製菓社員約4000人に直接会いに行くことだった。

「入社して2年間、副社長として社員とはコミュニケーションをとっていたつもりです。けれど、いざ外国人がCEOになったとなると、少なからず不安に思う社員もいたでしょう。私が全社員の生活を背負う、その覚悟を見てほしい。そう思って日本各地の拠点を周り、社員一人ひとりへ挨拶をしに行ったんです」

工場は24時間稼働のため人員は3交代制。その交代ごとにジュネジャ氏は訪れ、働くすべての人に会った。就任当時、世の中はコロナ禍だったため、海外にある拠点やグループ会社のメンバーにはオンラインで会い、コロナ禍が明けすぐに各国へ飛んだ。

亀田製菓代表取締役会長CEOジュネジャ・レカ氏
40年間日本に住んでいるため、自分がインド出身であることをたまに忘れることもあるという。「日本でインドの方を見かけると、自分のことをすっかり棚に上げて、“インドから来た人かな、珍しいな”と思ってしまうんです(笑)」

「なんでもいいから、思っていることを話してほしいし、聞きたいことがあったら聞いてほしい。そう社員たちに伝えました。待遇についての意見を直接言ってもらうのはもちろん、『どんなカレーを食べているんですか』という質問までありましたよ(笑)。気軽に話せる雰囲気を作らなければ、足並みは揃わない。だってそうでしょう? コロナがあり、ウクライナ戦争があり、為替もエネルギーコストも上がる一方。なんでこんな時期にCEOになってしまったのかと思いますよ(笑)。でもこんな時期だからこそ、社員たちにはより力を発揮してほしい。

私の経営方針は『人を大事にすること』『イノベーションを起こすこと』『収益を上げること』。まず社員を大事にすれば、ステークホルダー(取引先や顧客など事業に関係するすべての人)との関係も良くなります。社員がやる気を出さなければ収益が上がるはずはありません。福利厚生や給与はもちろん、これまでの彼らの仕事への愛着と誇りも大事にしたいと考えているんです」

そう語るジュネジャ氏、本誌インタビューの前後も社内で社員に声をかけ、談笑していた。声をかけられた社員もまたリラックスして対応しているように見え、社員とCEOの距離の近さがうかがえた。 インタビュー第2回では、ジュネジャ氏がこれまで歩んできた道、そして世界的企業を目指す、亀田製菓の戦略についても紹介する。

TEXT=安井桃子

PHOTOGRAPH=鮫島亜希子

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