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2024.03.27

就職経験ゼロの専業主婦から社長に!ドムドムバーガーをV字回復させた藤崎忍の経営論

39歳で就職経験ゼロ。政治家の夫の選挙での落選と病気を機に、渋谷109のアパレルショップ店長、居酒屋の経営を経験。51歳でドムドムハンバーガーに入社し、9ヵ月で代表取締役社長に就任した経営者・藤崎忍に独占インタビュー。全4回に渡って、その激動の半生を紹介する。第1回。 #2#3#4 ※順次公開。

微笑むドムドムハンバーガーの藤崎忍社長

就職経験ゼロの専業主婦から社長へ

1970年に日本初のハンバーガーチェーンとして誕生した「ドムドムハンバーガー」。90年代には日本全国に約400店舗を構え、大型商業施設などでよく目にした人気ハンバーガーショップだったが、2017年には36店舗にまで大幅に減少。

そんなドムドムハンバーガーの起死回生を目指し、3年連続黒字という偉業を成し遂げた凄腕経営者がいる。それが今の代表取締役社長である藤崎忍だ。

かつて専業主婦として政治家の夫を支え、ひとり息子を育てていた藤崎は、39 歳の時に夫が心筋梗塞で倒れ、人生で初めての就職活動を経験。

渋谷109のアパレルショップ「MANA」で店長を務め、年商約9000万 だったお店をわずか4年で約2億の人気店まで急成長させた。

しかし、企業の経営方針の転換がきっかけとなり2010 年に突然の解雇。また、同時期に夫が脳梗塞で再び倒れ、新橋の小料理屋にアルバイトとして就職することに。

そんな逆境のなかでも、翌年には居酒屋「そらき」を開業し、連日満席の繁盛店にまで成長させ2号店を出すなど、飲食業でもその卓越した手腕を発揮した。

インタビューに応える、ドムドムハンバーガーの藤崎忍社長
藤崎忍/Shinobu Fujisaki
1966年東京都生まれ。39歳の時に就職経験ゼロの専業主婦から渋谷109のアパレルショップ店長を務め、東京・新橋で2店舗の居酒屋を経営した後、2017年ドムドムフードサービスに入社。2018年同企業の代表取締役社長に就任。著書に『ドムドムの逆襲 39歳まで主婦だった私の「思いやり」経営戦略』(ダイヤモンド社)と『藤﨑流 関係力』(リピックブック)がある。

そんな藤崎の転機となったのが、2017年に自身が経営する居酒屋の常連客からの紹介で入社した、レンブラント・インベストメントという会社。

多くのホテルやゴルフ場の運営を携わるレンブラントホールディングスの傘下に加わったドムドムフードサービスと顧問契約を結んだ藤崎は、51歳でスーパーバイザーとして店舗と経営陣の間を取り持つ役職に就任した。

居酒屋で培った料理の腕を活かし、「手作り厚焼きたまごバーガー」などの新商品を提案するも、自身の役職では店舗運営にまで手が出せないことに気づき、本社役員に「意見を言える立場にしてください」と直談判。2ヵ月後には代表取締役社長に就任した。

商品開発は小規模グループで決定

そんな異例の抜擢で代表取締役社長に就任した藤崎が、ドムドムハンバーガーの事業再建のために、特に力を入れたのが新商品の開発だ。

2019年に発売された「丸ごと!!カニバーガー」は、カリッと揚げたソフトシェルクラブをそのままバンズに挟むという斬新なアイデアで、若者を中心にSNSなどで大きな反響を呼んだ。

また、2023年も肉厚な「雪国まいたけ」を素揚げし、肉汁が溢れるビーフパティとてりやきソースに合わせた「今夜は まいたけバーガー」や、具材たっぷりの揚げ餃子に目玉焼きを合わせた「餃子バーガー 芳醇黒酢ソース」など、画期的な新商品を次々と発売してきた。

東京・新橋駅前に立つ、ニュー新橋ビルの居酒屋でアルバイトとして働き始めた頃の藤崎。

斬新なコンセプトが印象的だが、藤崎が商品開発で注力していることは、見た目のインパクトよりも、ハンバーガーとしての“美味しさ”にあるという。

「たまに見た目が面白い商品を開発していることから、『見た目重視の商品開発』なんて言われることがあるんです。でも、弊社のコアコンセプトにあるのは、『美味しいのは、お客様との最低限のお約束』という考え。

味のクオリティが担保できていない商品は、いつか飽きられてしまうと思うんです。今の時代は、どこの飲食店に行っても美味しい料理を味わえます。だからこそ、美味しいことを前提に、どこまで“付加価値”を高められるかで勝負したい。

美味しいのは当たり前のこと、そのうえで食べていただいたお客様に『こんな新商品を食べた!』とか『こんなハンバーガーがあるんだ!』と言っていただけるような商品を目指しています」

週2回の商品開発会議では、藤崎と従業員で複数の商品の食べ比べなども行う。

そう語る藤崎は、それまで行われていた社内の試食会を抜本的に改革した。

商品開発会議で提案された試作を取締役会議で吟味する工程をやめ、藤崎を含めた3〜4人が参加する小規模な試食会に変更。商品開発部と藤崎が直接スケジュールを設定し、週に1、2回ほど新商品に関して意見を交わす場を設けているという。

「新商品開発のアイデアって、大勢で試食すると自然と丸くなってしまうんです。『これはキャベツじゃなくてレタスのほうがよかった』『ソースはこっちのほうがいい』など、すべての人の意見を聞いていると、次第に既存の形に近くなっていって、せっかくの新しいアイデアが小さくなっていってしまう。

やはり思い切った商品を出す時は、あまり過剰な議論をせずに、大胆な発想のまま世に送り出したい。なので、開発会議では『私が責任を持つから、どんどん新しいアイデアを出して』と、社員の提案が通りやすい環境になるよう心がけています。その結果として、ドムドムハンバーガーの商品は生まれ変わり、皆様に注目していただけるようになったのだと思います」

商品の“美味しさ”の先にあるもの

藤崎による新商品の企画から発売までのプロセスの改革で、これまで数多くの“新味”を生み出してきたドムドムハンバーガー。商品化されなかった試作品を聞いてみた。

「まずは、ししゃもの唐揚げをバンズで挟んだ『ししゃもバーガー』です。ししゃもの独特な苦味が、パンの風味を損なっていてボツにしました。あとは、ニンニクを1片そのまま揚げたものを6個くらいに、スライスしたフライドガーリックを加えた『ガーリックバーガー』。食べたら1週間は人に会えないくらい強烈な臭いで(笑)」

見た目やコンセプトの斬新さだけでは消費者は喜ばない、と考える藤崎は商品の味は絶対に妥協しない。どんなに話題になりそうな試作であっても、“美味しさ”がないものには首を縦に降らない堅い信念がある。

居酒屋「そらき」
藤崎が経営していた家庭料理を味わえる居酒屋「そらき」。連日満席になるほどの人気店だった。

そんな藤崎だが、過去に“美味しい商品”をボツにしたこともある。納豆を具材に使った「納豆バーガー」だ。

「テリヤキバーガーに納豆を挟んだ商品で、試食した人はみんな美味しいって言っていたんです。でも、私だけが大反対して。

もし納豆バーガーをテイクアウトしたら、フライドポテトの香りに生暖かくなった納豆の匂いが混ざってしまう。そうすると、セット全体の美味しさが変わってきてしまいます。また、納豆が苦手なお客様もいるなか、店内が納豆の臭いで充満してしまうと、不快な思いをされる人もいるかもしれない。

納豆バーガーを提案してくれた社員は、その後も1年くらい粘り強く提案してくれて。キムチを加えた新しいアイデアなどもあったのですが、いずれにしても臭いが強くなるものだったので、最終的に店頭に並ぶことはありませんでした」

居酒屋「そらき」の隣にオープンした2店舗目「SoRa-ki:T」。

ハンバーガーを心おきなく、快適に味わえる環境を実現する。そんな店づくりを大切にしている藤崎にとって、美味しさの先にある“食の喜び”を生み出すことができない商品は、どんなに美味しくても発売しない。

渋谷109や居酒屋の経営で学んだ“接客”の心得を忘れない、まさに紆余曲折の人生を歩んできた藤崎ならではの経営方針だ。

※2回目に続く

TEXT=坂本遼佑

PHOTOGRAPH=古谷利幸

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