39歳で就職経験ゼロの専業主婦から渋谷109のショップ店長になり、現在はドムドムフードサービスで約300人の従業員を雇っている経営者・藤崎忍。短期連載第3回では、藤崎が考える社内の問題が発見しやすくなる職場づくりや、仕事のストレス解消法について迫った。 #1/#2/#4 ※順次公開。
入社からわずか9ヵ月で社長に就任
51歳でドムドムハンバーガーに入社し、わずか9ヵ月という短い期間で、代表取締役社長にまで上り詰めた藤崎忍。39歳の時に夫が心筋梗塞で倒れ、初めて就職活動を経験した藤崎にとって、それは予想外の出来事であり大きな挑戦でもあった。
「入社から9ヵ月で社長になったので、私自身、不安でしたが従業員たちはもっと不安だったと思います。でも、自分が社長に就任したからには、社内の風土も変えようと考えていたので、従業員に対して心を尽くして向き合うと決めました。
まず大事にしたのが、他者への尊重と思いやりのある言葉がけです。人には人のやり方がある。それをコントロールできると考えるのは、経営者であっても僭越(せんえつ)だと思うんです。自分の意見をぶつけ合うだけの会議では意味がない。他者のアプローチの仕方を理解して、尊重し合うようにしないと、会社として進むべき道を歩めないんです。
また、思いやりのある言葉がけって、ただ言葉をかけるだけではないんです。相手のことをよく見て、その人のやり方を十分に理解したうえで声をかける。そういう人の言葉には、相手も信頼してくれると思います。それは会社だけでなく、家族に対しても同じことだと思います」
自分の発言をこう受け取ってくれるだろうと決めつけることは、同じ価値観を他者に求める単なる“自分の感性のリターン”の要求に過ぎない。意固地になって自らの考え方を押し付けるのではなく、人によって感性は違うので「仕方ない」と思いながら接することで、他者のことを尊重できるようになると藤崎は語る。
「相手の受け取り方を変えようとするのではなく、自分の言葉がけのやり方を変えてみるほうが、社員と上手くコミュニケーションを取る近道だったりします。この人は、朝に声をかけないほうがいいなと感じたら、夕方になってから時間をかけて話してみるとか。そうすることで、お互いを理解しやすくなるのではないでしょうか」
社内の問題を好意的に評価する環境づくり
パワハラやセクハラなど、さまざまなハラスメントが問題になっている現代。それはドムドムフードサービスでも問題視されている。しかし、そのような状況を改善するために、藤崎は社内の問題を発見しやすい環境づくりを心がけているという。
「ドムドムハンバーガーでは、店舗スタッフを管理する店長がいて、その店長を指導するスーパーバイザーがいます。でも、なにか店舗に問題がある時は、スタッフの声が私に届きやすい環境にしていて、本社から物流や広報の職員が各店舗に向かった際には、店舗スタッフが声をかけやすいようにしています。
最近でもいい事例があって、ボトムアップの形式で、社内の問題を解決できました。しかし、ボトムアップ式の問題解決で注意しないといけないことは、中間管理職の社員が自分の管理不足で問題が発生したと、罪悪感を抱かせないこと。そのことに私も注力をして言葉がけをしています」
上司からの評価を気にする中間管理職の社員は、自らの管轄下で起きた問題を報告したがらない傾向にある。その結果として、社内の問題を隠したり部下からの声を抑制したりしてしまう。そう考えた藤崎は、会社として問題の発見を好意的に受け止める文化を築き上げた。
「店舗スタッフから苦情の声があがるということは、解決すべき課題が明確になっていて、会社として進むべき道が見えている。そこに対して意見してくれているのだから、中間管理職にとって嫌なことかもしれないけれど、会社としては素敵なことだと理解してほしいとお願いしています。
私はよく『失敗という概念はない』と伝えています。ひとつのことができなくても、それは事象に過ぎないこと。後ろ向きになって失敗を隠すのではなく、新しい解決策を考えるいい機会だと思って、一緒に取り組んでいきたい。きれいごとかもしれませんが、そうやって意見を出しやすい環境を作っています」
チームとして働くうえで、最も大切なことは“明るい雰囲気”だと話す藤崎。
さまざまな社員がいることを理解したうえで、日々の挨拶や言葉がけなどを意識することによって、社員同士がお互いの悩みや不安を相談しやすくなる。そんな職場環境にしていくことで、従業員が働きやすい会社ができてくるのだ。
仕事のストレスは家事で解消
日々、社内の打ち合わせや新商品の開発会議などの仕事に追われている藤崎だが、限られた休日は家庭のことに専念することで、溜まったストレスを解消しているのだとか。
「私は学生時代の将来の夢が『お嫁さんになること』だったんです。だから、家事をすることが苦ではなくて。休日になると、近所のスーパーで食材を買って、1週間分の常備食を作っています。長い時は6時間くらいかけて、さまざまな料理をして。息子や孫の分までご飯を用意することもあります。
以前は、休日でもずっと仕事のことを考えていて、オンとオフの切り替えができない時もありました。でも、コロナ禍で各店舗に行って作業をすることできなくなり、社長業に専念するようになったんです。それからは、できるだけ土日は休むようにしていて。なるべく仕事のことを忘れるようしています」
今では、息子と孫が自宅を訪れることが多くなり、その準備をする時間が増えたという藤崎。前日から料理を仕込んで、可愛い孫と一緒に食卓を囲む日を楽しみにしているそう。
また、忙しい毎日のなかでも読書を欠かさない藤崎は、仕事の移動中や空いた時間を使ってさまざまな本を読んでいる。最近も、興味深い2冊に出合ったという。
「垣内俊哉さんの『バリアバリュー 障害を価値に変える』という本が面白かったです。障害を価値に変えて、ビジネスにしていくという内容で。あとはテレビ番組に出演した時に出会った川代紗生さんの『元カレごはん埋葬委員会』という本もよかったです」
“ビジネスにおいて一番大切なこと”が書かれていたという『バリアバリュー 障害を価値に変える』は、あまりの面白さに新幹線の往復の時間で一気に読み切ってしまったのだとか。
仕事以外の時間は、自分や家族のために使う。そして空いた時間を無駄にせず、新たなクリエイティビティに打ちこむ。それが日々の仕事に全力を出す藤崎らしいストレスの対処法だ。