今、読書好きの間で話題となっているマッチングサービスがある。それが、本を通して男女の出会いの機会を提供する「チャプターズ」だ。本×出会いというユニークなアイデアを、どのように思いつき形にしていったのか? 「チャプターズ」を運営するミッション ロマンチックの代表、森本萌乃さんに話を聞いた。
ジブリ映画『耳をすませば』を見て、アイデアを思いついた
2020年に、本を媒介としたマッチングサービス「チャプターズ」をローンチした、ミッション ロマンチック社代表取締役の森本萌乃さん。毎月4冊の本のなかから会員が1冊を選び、同じ本を選んだ異性とマッチングするというこのサービスの構想は、2016年頃から考えていたという。
「私は新卒で電通に入り、その後転職してベンチャー企業に勤めていました。けれど仕事をしながら漠然とではありますが、『自分にはもっと何かできるはず』と心のなかに沸々と湧き出る思いがあって。起業を意識するようになったのも、ちょうどその頃、20代後半の時です。そのなかで、私は本が好きだし、本を活用した新しいサービスができないかと思ったんです。
そしてある日、ジブリ映画の『耳をすませば』で、本棚に手を伸ばして偶然手と手が触れ合うというシーンを見て、『こういう出会いが現実にもあればいいのに!』と閃いたんです。当時は自分もマッチングサービスを使っていましたが、ときめくような出会いなんてありませんでした。ならば、そこにこそビジネスチャンスがあるのではないかと」
アイデアを思いついた時の走り書きのメモをもとに、森本さんは企業に勤めながら2019年にミッション ロマンチックを起業。2020年、30歳の時に独立し「チャプターズ」のサービス運営を始める。当時はひたすら事業のための資金を集める日々を送っていた。
「確定申告すらままならなかった私が、資金調達から会社の決済まで、あらゆることを一人でこなさなくてならず、とにかく毎日がむしゃらに動きまくっていました」
情けない自分を変えるために、ひたすら勉強して行動するしかなかった
運営資金を賄うために資金調達に回るも、40社連続で断られたこともあったという。
「今だから笑って言えますが、その当時は辛すぎてずっと目に涙がたまっているような状態。1日3社以上はプレゼンをして、全部断られての繰り返しでしたね。
実家に帰ると父が、私がお金に困っていることを知っていて、帰り際に黙って3万円をポケットに入れてくれたことがあったんですよ。もう30歳を過ぎたいい大人ですから、この年になってまで親に心配をかけるのかと相当凹みましたね。でも、諦めたいと思ったことはなくて。とにかくこの辛い日々を早く終わらせるぞって、ずっと動き回って仕事していました」
やっとの思いで資金調達に成功し、サービスを軌道に乗せた今、読書は経営者としてのコミュニケーション力を磨いてくれていたと感じることがある。
「商談の場でも、お客様に対しても、そして会社のメンバーにも。言葉を尽くして気持ちや意図を伝えきることを大切にしています。ボキャブラリーが多いと褒めて頂くことが時々あるのですが、これは本をたくさん読んでいたからこそ身についたのだと思います」
「チャプターズ」の会員数は、現在延べ6,000人を超えた。女性が6割を超え、各出版社を巻き込みサービス規模は順調に拡大している。2024年4月には、オフィス兼イベントスペースであるカフェ「チャイと選書 Chapters bookstore」もオープンした。
「会社名に“ロマンチック”を掲げた時、柔らかい言葉だからこそこれをちゃんとビジネスにすると決めました。ロマンチックでお金を稼ぐ、これが私の起業家としての覚悟です。ただ現実はやはり難しくて、今もギリギリです、会社も私自身も。最近思うんですけど、私、起業家として大成しない気がするんですよね(笑)。でも、心からやりたいと思って始めたこの事業に向き合えている毎日は、案外幸せです。この幸せを続けるために、まだまだやりたいこともやらなくちゃいけないこともいっぱい。頑張らないと」
【後編に続く】(5月19日公開予定)