堀江貴文氏が「防げる病気は防ぎたい」との思いから、有志と共に立ち上げた予防医療普及協会。堀江氏と予防医療普及協会はこれまで8冊の書籍を手がけており、2024年3月には最新刊となる『金を使うならカラダに使え。』を上梓した。堀江氏は「健康本は売れない」と言うが、それでも出版をやめない理由はどこにあるのか? 日本のメディアの問題とは? 協会の顧問でつくば消化器・内視鏡クリニック院長である鈴木英雄医師とともに語った。
ホリエモンが「予防医療」の啓発を始めたわけ
健康ジャンルの本は俗にいうビジネス書ほど売れ行きは良くない。しかし、国民の健康寿命の延伸や医療費抑制につながる重要な社会的意義を持つ。加えて、各種メディアでも健康やアンチエイジングを扱っていることからもわかるように、ニーズはあると考えている。
身体的な健康はもちろん、メンタルヘルスや睡眠の質などの総合的な健康は、どんなことにチャレンジするにも必要だ。バカみたいに当たり前の話に聞こえるかもしれないが、健康でないといざというときに動けなかったりする。しかも、いまは人生100年時代と言われる時代。日本人の平均寿命は延び続けているものの、健康上の問題で人生の終盤が過ごしづらくなるという残念なデータもある。そんな現代の人々に向けて、予防医療の考えやノウハウを伝えるために“売れない”健康本を出し続けている。
このように僕はかなり健康意識が高いのだが、予防医療の啓発に関わっていることは、世間ではあまり広く知られていない。2016年3月に予防医療普及協会を立ち上げた理由は、病気の予防に関する正しい知見を集めて啓発していくため。病気を早期に見つけ予防するほうが、メリットが大きいからだ。
予防医療普及協会顧問でつくば消化器・内視鏡クリニック院長の鈴木英雄医師はこう話す。
「国立がん研究センターではがんの部位別の5年生存率を公表していて、発見が早いほど生存率が高いことがわかります。前立腺がんや大腸がんなどは90~100%にもなっています。このデータが教えてくれるのは“いかに早期で見つけられるか”が重要だということ。それには定期的な検診しかないんです」(鈴木医師)
メディアは重要な情報を伝えていない
著名人が病気になった時などに報道される内容にも問題があると、鈴木医師は苦言を呈している。
「『あの人がなぜ!?』『若すぎる!』みたいなコメントで終わってしまっているのが、とても気になります。自分事、視聴者事として結びつけて予防法や検査法などを伝えたりしないですよね」(鈴木医師)
確かに、メディアは深掘りしないし、視聴者側も「自分は大丈夫」という変な自信を持っている人が多い。鈴木医師によると、それは「自分に対する正常化バイアス」と言うらしい。
僕たちだったら「ステージ4の大腸がんが見つかった!? 定期的に検診に行き、早く見つけていれば治る可能性も高かったのにもったいない」と思うし、それを皆に伝えなきゃと考えるのに、本当におかしいことだと思う。
ノイジーマイノリティの声ばかりが取り上げられる現実
病気や症状の悪化を防げるワクチンの接種を嫌う人たちもいる。問題だと感じるのは、科学的根拠(エビデンス)のないデメリットを過剰にあおる人たち。少数だが声が大きい「ノイジーマイノリティ」をメディアは取り上げがちだ。
さらに問題なのは、メディアの対応。報道内容が間違っていたとわかっても、訂正もせずに言いっぱなしにしていることが多々ある。ある大手新聞は「子宮頸がんを予防するHPVワクチンが若い女性を大量に死に追いやる」みたいなことを書き、その後ワクチンには因果関係がないと立証されたにも関わらず、修正記事も出さず反省の様子もない始末だ。
「がんになる原因がウイルス・細菌の場合、それらに感染しなければがんにはならないのでワクチンや除菌で予防ができます。その事実があまりにも一般の方に知られていない」と鈴木医師は言う。
一方の僕たちは、いわゆる「サイレントマジョリティー」。科学的根拠を理解しているから“サイレント”なのだが、そのぶん世の中や政治家に声が届かない。以前、HPVワクチンについて厚生労働省で記者会見をしたことがあるのだが、まったく話題にならなかった。デリケートな問題過ぎると判断されて「火中の栗を拾いたくない」からだろうか、あまり大々的に報道されなかった。本当にリスクを取らない人たちばかりだなと思ったけれど、それでも、あの手この手を使ってメディアや政治家に訴えていくしかない。科学的に正しいことは、今後もどんどん発信していく。
保険をかけるより、予防医療に金を使え
2024年3月に出した書籍のタイトルは『金を使うならカラダに使え。』だが、何に投資をするか? でカラダの健康は絶対に変わる。鈴木医師はこう断言する。
「みなさん医療保険とか生命保険にけっこうお金をかけていますが、日本は国民皆保険が充実していますし、医療費が高額になっても高額療養費制度でカバーされます。だから本来、保険よりも予防にお金をかけるほうがよっぽどいい。私はそう思っています」
金を使うなら予防医療だ。
※後編へ続く
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堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、アプリのプロデュース、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。著書に『堀江貴文のChatGPT大全』ほか。