堀江貴文氏が「防げる病気は防ぎたい」との思いから、有志と共に立ち上げた予防医療普及協会。堀江氏と予防医療普及協会は書籍『金を使うならカラダに使え。』を出版するなど、予防医療を広めるべく活動しているが「いまだ課題は山積み」だという。協会の顧問でつくば消化器・内視鏡クリニック院長である鈴木英雄医師とともに、その活動を振り返る。
政治に頼らなかったホリエモンがロビー活動!?
僕が医療の取材を始めて8年になるが、老化による機能低下の仕組みも病気の原因も、遺伝子レベルで解明されてきている。おかげで予防法もわかってきた。菌やウイルスへの感染が原因なら、除菌療法やワクチン接種で予防できる。たとえば胃がんの99%はピロリ菌が原因だとわかり、2000年にピロリ菌の除菌が保険適用になった。それによって胃がんの年間死亡者数が5万人から4万5千人に減少している。
予防医療普及協会の顧問で、つくば消化器・内視鏡クリニック院長の鈴木英雄医師は「国の予想を上回る速さで減少しました。除菌療法は年間100万人くらいが受けているので、今後、胃がん患者はぐっと減るでしょう」と言う。
僕は今までビジネスにおいてはまったく政治を頼ってこなかったけれど、医療の分野は、政治家を動かさないと、どうにもならないことがある。予防医療普及協会の活動のなかでそのことがよく分かったので、僕たちは政府や国際機関に働きかける“ロビー活動”も行った。
たとえば子宮頸がんを防ぐHPVワクチンに関しては、科学的根拠のないデメリットを過剰にあおる「ノイジーマイノリティ」が政治家に会って大きな声で訴えていた。対して科学的根拠や効果データを持つ僕たちは「サイレントマジョリティ」だったのだと思う。だから、僕らも政治家に会って働きかけたのだ。「科学的根拠のない大きな声に押されて、防げるがんを防がないままなのは、明らかに政治の不作為」だと。
「日本では2013年よりHPVワクチンは定期接種になっていて、対象の人は無料で3回接種することができます。しかし、(副反応の問題から)長らく自治体が積極的な案内をやめてしまっていたために、北欧やオーストラリア、カナダでは接種率70%以上なのに対し、日本は1%を切るという状況になっていたのです。
反対意見はあっていいのですが、科学的根拠のないことに政治が影響されてはならない。“副反応はワクチンが原因ではなかった”と科学的な決着はついています。このがんは早期で見つかった場合は子宮頸部を切り取るのですが、流産や早産のリスクが高まります。早期でも無傷ではいられなくなるんです。HPVワクチンでウイルス感染を防ぎ、子宮頸がんにならないほうがいいのは明らかでした」(鈴木医師)
そしてようやく2022年4月、約8年ぶりにHPVワクチン接種の積極的な勧奨が再開され、翌年4月には子宮頸がんを80〜90%予防できるとされる9価ワクチンも定期接種の対象となった。接種率も徐々に上がってきているようだ。
あと10年で医療の形は激変する
日本人の予防医療の意識はなかなか変わらないが、これからの10年で医療業界は変わらざるを得ないだろう。なぜなら、1947~49年生まれの団塊世代約800万人が今年、全員75歳以上の後期高齢者になるから。そして2025年には日本の人口の1/4が後期高齢者になる。
今後しばらくは医療業界や介護業界は、増加するであろう“団塊世代需要”に対する治療や介護が中心となるが、10年後、団塊世代を看取った後は人口が減っていく。治療中心の医療や介護を利用する人は徐々に先細りになっていくはずだ。すると医師も看護師も薬剤師もあまる。
そんな状況になれば、彼らの働く場を維持するためにも、医療は当然「予防」に舵を切らざるを得ない。10年後には、欧米のような、予防に重点を置く医療に変わっているのではないだろうか。これが僕の予測。
社会実装に向けて感じる“ボランティアの限界”
とはいえ、目を向けるべきは今。予防医療で病気になるのを防げたり、早期に発見できること自体が大きなメリットであるはずなのだが、日本には国民皆保険制度があり、「病気になってから病院に行く」とか「自覚症状がなければ受診しない」という意識が根強いため、「得をする」とか「楽しい」とか何かインセンティブがないと人々は行動しないだろう。だから僕たちは、予防することが“金銭的な得”になるような仕組みや、楽しい仕かけをつくることも考えている。
でもその仕組みをつくろうとすると、「ホリエモンは金儲けのために予防医療を利用している」とか「製薬会社から金をもらっている」とか、根拠のないウソをばら撒かれたりするのだが。
予防医療普及協会のメンバーは、超・意識高い系の人ばかり。それぞれ本業の活動時間を削って時間を供出し、完全にボランティアで運営している。それでも設立初期から8年間、啓蒙のためのキャンペーンやイベント、セミナーまで定期的に行えているこの状態は奇跡的なことだと思う。
ただ、今後も継続して活動を行い、予防医療を社会実装していくためには、ある程度営利が出るような環境をつくっていかないといけない。これを言うとまたアンチが沸いてきそうだが、お金が回る仕組みは必要。無償であることは、サステナブル(持続可能)とは言えないからだ。そのとっかかりとして、2024年9月にはYOBO万博という、予防医療をテーマにした大きなイベントを開催する予定だ。
「予防医療普及協会は“医師が発言できる場”として、科学的に正しいことをどんどん発信したい」と鈴木医師。問題や課題は多いが、予防医療普及協会の活動は社会的意義のあることだと感じているので、続けていこうと思っている。
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堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、アプリのプロデュース、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。著書に『堀江貴文のChatGPT大全』ほか。