前編に続き、英語コーチングスクールを手がけるトライズ社長の三木雄信さんを6ヵ月22kg減量へと導いた驚異のダイエット方法を紹介。マネジメント手法を応用した、失敗知らずのダイエット法の中身とは!? 【特集 タンパク質】

トライズ代表取締役社長。1972年福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱地所を経てソフトバンク入社。2000年ソフトバンク社長室長に。多くの重要案件を手がけた後、2015年に英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」を開始。日本の英語教育を抜本的に変えるミッションに挑む。
数値化① カロリー収支を明確化。1日600kcalのマイナスを生み出す
太るか、痩せるかを決めるのは、突き詰めると食事からの摂取カロリーと、運動などによる消費カロリーのバランス。痩せたいなら、このカロリー収支をマイナスにすればいい。そこで三木さんは次のようなシミュレーションを行った。
「減らしたいのは、余分な体脂肪。体脂肪1kgを落とすには、7200kcal分のカロリー収支のマイナスを作り出す必要があります。66.6kgをゴールに設定し、いまよりも体脂肪を20kg落とすには、7200×20=14万4000kcal減らすことが求められる。これを8ヵ月(約240日)で実現するには14万4000kcal÷240日=600kcal。つまり1日600kcalのカロリー収支のマイナス分を生み出してあげれば、目標クリアが約束される計算になります」
600kcal分のマイナスを作り出すため、摂取カロリーは1日1800kcalに設定。 その根拠になったのは、基礎代謝。何もしなくても、生命機能を保つために消費されているエネルギーであり、基礎代謝を下回るカロリーの食事だと不足分を補うために筋肉が削れて代謝が下がり、痩せにくくなってしまうのだ。
『Keisan』というサイトに年齢、性別、身長、体重を入れてみると、三木さんの1日の基礎代謝は約1800kcalと出た。そこで摂取カロリーをややストイックに、基礎代謝と同等の1日1800kcal、1食あたり600kcalと定めたのである。

「食べた食事の写真を撮って送ると、摂取カロリーを概算してくれる『カロママ』というアプリを活用して1食600kcalに収めるように工夫しました。しばらく続けてPDCAを回していると、アプリに頼らなくても『だいたいこれで600kcalだな』とわかるようになりましたね」
続いて600kcal分のカロリー収支のマイナスを作り出すため、消費カロリーは1日2400kcalに設定。基礎代謝で1800kcal消費できるとして、そこへ上乗せすべきなのもちょうど1日600kcal。それを消費するために励んだのは、ウォーキング、筋トレ、浴槽入浴の3本柱だ。
「自宅からオフィスまで、毎日往復100分歩くと決めました。これで460kcalほど消費できます。そして朝食と夕食の後は、下半身を鍛えるブルガリアン・スクワットを片足45回ずつ行い、それに腕立て伏せや腹筋運動もプラス。帰宅後は42度のお風呂に10分間入り、合わせ技で消費カロリーをトータル600kcal上乗せできたのです」
【ゴール達成のための摂取カロリーと消費カロリーのバランス】
1日の摂取カロリー:1800kcal(600kcal×3食)
1日の消費カロリー:2400kcal(基礎代謝+ウォーキング・筋トレ・浴槽入浴)
1日のカロリー収支:マイナス600kcal
体脂肪20kg:7200kcal×20=14万4000kcal
14万4000kcal ÷ マイナス600kcal=240日(8ヵ月)
数値化② 血糖値が140mg/dlを超えないようにコントロールする
ダイエットの数値化ではカロリーばかり気にかかるが、三木さんがもう一つ数値化した重要な項目がある。血糖値だ。ご飯やパンや麺類などの食事に多く含まれている糖質は、ブドウ糖に分解されて血中へ入り、血糖となる。その値が血糖値(mg/dl)である。
「食後に血糖値が上がると、すい臓からインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンは血糖を筋肉などに取り込んで血糖を正常範囲の100mg/dl前後まで下げてくれるのです。ところが、ご飯などから糖質を過食すると、筋肉などに取り込める血糖のリミットを軽く超えるため、余った血糖は脂肪細胞へ運ばれて体脂肪となります。インスリンは血糖値を下げる一方、体脂肪の合成を促し、その分解を抑える働きがあるため、“肥満ホルモン”とも呼ばれているのです。
食後の血糖値の上昇を140mg/dl未満にセーブできれば、過剰なインスリン分泌が抑えられるため、肥満ホルモンの出番を減らしてスムーズに減量できるのです」
血糖値の数値化のため、三木さんが活用したのが『フリースタイル リブレ』。上腕後ろ側に小型センサーをつけると、血糖値の変化をリアルタイムでスマホなどに知らせてくれるサービスだ。
「『リブレ』でさまざまな事実が“見える化”できました。糖質を摂った後の血糖値の上昇具合には、個人差も大きい。血糖値を140mg/dl未満に抑えたいなら、僕はご飯半膳までの糖質摂取はOKだとわかりました。食後の筋トレをルーティン化したのはカロリー消費が増やせる上、筋肉を動かすと運動エネルギーとして使うため、血糖の取り込み量が増えて血糖値が下がりやすいとわかったから。
この他、野菜から食べるベジファーストで血糖上昇が抑えられるとか、早食いすると血糖値が上がりやすいからなるべくゆっくり食べた方がいいとか、ハイボールのような蒸留酒なら血糖値は上がりにくいとか、いろいろな発見がありました」
こうした気づきを踏まえてPDCAサイクルを高速回転させて血糖上昇をセーブしたお陰で、ダイエットは机上の計算よりも2ヵ月前倒しの6ヵ月で成功。22kg減量でき、健康体を取り戻したのである。

数値化③ タンパク質の摂取量を1食40gに増やす
カロリー、血糖値に続く第3の数値化は、タンパク質の摂取量。このKPIを上手にコントロールできたこともまた、目標を6ヵ月でクリアできた大きな要因である。
「減量中はカロリーや脂質は減らすべきですが、タンパク質は増やさないと痩せられません。一般的に、ダイエット中にタンパク質を増量する狙いは、タンパク質から作られている筋肉の減少を防ぐためとされます。確かに、筋肉の代謝量は基礎代謝の20%前後を占めているため、タンパク質の摂取を減らして筋肉が削れると代謝も落ちて痩せにくくなる。
でも実は、タンパク質を増やして筋肉を保つご利益は他にもある。前述のように、筋肉は血糖を取り込んでくれます。ですから、血糖値を上昇させないためにも、タンパク質も筋肉も決して減らしてはダメなのです」
通常、体重1kgあたりのタンパク質の必要量は1gといわれている。三木さんの減量前の体重88kgなら88gだ。ただし、減量時の筋肉の減少をセーブし、血糖コントロールなどの筋肉の機能性をアップさせるには、体重1kgあたり1.2〜1.6gのタンパク質摂取が推奨されている。そこで三木さんはその中間を取り、体重1kgあたり1.4gに設定。計算すると厳密には123gだが、キリよく1日120gの摂取を心がけた。1食あたり40gである。
タンパク質量を毎食計算する手間を省くため、朝食と昼食はほぼ固定化していたという。
「納豆1パック、豆腐1/3丁、卵1個、低脂肪乳コップ1杯はそれぞれ約7gのタンパク質を含みます。これで28g。そこに焼き魚をプラスすれば、朝食で簡単に40gがクリアできる。昼食は、オフィスの近所で新鮮なお刺身定食を提供してくれるところを見つけ出し、1食40g超えを達成しました。夕飯は、仕事柄会食も多いのですが、自分でセッティングできる場合は、ラムしゃぶが美味しいお店で脂質を抑えつつタンパク質をしっかり確保。会食は必ず一次会で切り上げ、過食しないように心がけていました」

タンパク質を増量する際には、手軽なサラダチキンやプロテインに手が伸びがちだが、三木さんはそのどちらにもあえて頼らなかった。
「食事を美味しく楽しまないと減量は続かない。それにサラダチキンやプロテインのように加工度の高い食品を摂取すると、体内では慢性的な炎症が生じやすいとされています。慢性炎症も肥満の元ですから、タンパク質はできるだけ加工度の低い食品から摂るべき。ちょっと小腹がすいたりタンパク質が足りないと感じた日は、スナック代わりに冷凍枝豆を食べていました(笑)」
ビジネスにもダイエットにも共通して求められるのは、ゴールから逆算する戦略的な視点、古い常識に縛られない最新エビデンス、そしてデジタルツールを駆使したデータに基づく論理的な思考。三木さんの鮮やかなダイエットサクセスストーリーは、そのことをリアルに教えてくれる。
この記事はGOETHE 2025年3月号「特集:リーダーにはタンパク質が必要だ」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら