2025年でデビュー40周年を迎えるシンガー森口博子が、2024年8月にリリースした新譜に合わせて披露したのが、なんとビキニ水着姿。当時SNSを賑わせつつ、アルバム自体も好評。パワフルでエキサイティングな森口さんのものづくりの源泉に迫りたい。1回目。
これが50代のビキニ姿!? 話題を呼んだニューアルバム
「#森口博子ビキニ」。2024年5月3日、絶大なインパクトをもつこのワードが、SNS「X」でトレンド入り。同年8月7日リリースの最新アルバム『ANISON COVERS 2』にて、通常盤ジャケットに使用されるビジュアルとして、自身34年ぶりとなるビキニ姿が話題を呼んだ格好に。歌詞カードの一部も懐かしの「袋とじ」というCDとしては異例の仕立ても相まって、注目を集めたのだった。
「遊び心満載です!! とにかく皆さんにサプライズを仕掛けたかったんです。一度きりの人生なので、やりたいことにチャレンジしてビジュアル面でもサウンド面でもエンタテインメントの一環として、みんなに楽しんでもらえたらいいなというメッセージを込めました。イタズラな身体が爆発しちゃいました。お早めにご賞味を(笑)」
開口一番、おどけて見せるのは、2024年で56歳を迎えた“アニソン界の歌姫”。2025年は、なんとデビュー40周年を迎える。実績を見れば、「大御所」のひとりに数えておかしくないが、目の前にいるのは、我々がお茶の間で長らく見てきた、あの「森口博子」そのもの。エンタメ精神に満ち溢れている。
「これまでも、ありがたいことに写真集のオファーをいただいたりもしていたんですよ。ただ、年を重ねるなかで体の変化もありますし、ホルモンもわがままになってきているので、なかなか難しかったんです。ただ、ここ数年コンサートで激しいダンスをする機会も増え体が締まってきて、『あれ? もしかして今、いい感じ?』と思い始めた矢先に、アルバムが夏のリリースということで『一丁いきますか』と(笑)50代の私がビキニになったところで誰も死にゃあーしませんから(笑)」
遊び心というのは、エンターテイナー森口博子が重視するキーワード。「一度きりの人生、自分もみんなも楽しもう」というポジティブな姿勢を見せてくれた。
「もちろん反響はすごかったんですが、ファンの方から、『同じ50代、勇気をもらった』とか、『私もビキニで海に行きます』とか、ポジティブな反応がとっても多くて、私のメッセージがみなさんに届いたというのが、一番嬉しかったですね」
今回のビキニ撮影のために特段絞ったり、節制したりということはなかったとのこと。体が資本であるシンガー森口さんの日課の賜物なのだろう。実際、毎朝必ず起き抜けに白湯を飲み、ストレッチ20分を実施。また、タンパク質の摂取量や食べる順など、食事についても節制しながら、自らを整えているという。かくして、ビキニ姿が拝めるニューアルバムが実現したわけだ。
「撮影では、美しく撮れるよう、スタッフの皆さんがあの手この手と工夫して下さり、そのうえ褒め上手だったので、恥ずかしさよりも楽しさが勝りました。若いスタッフの方は、お母さんの水着姿を見せられているような感じなのかなと申し訳なさはありましたけど(笑)」
内容も充実! 聞きどころ満載の“大人のためのアニソンカバーアルバム”第2弾
ビキニ姿のグラビアに話題が集まると同時に、音源としてのアルバム『ANISON COVERS 2 』(以降“ツー”)も大好評。シンガー森口博子が培ってきた歌唱の魅力が余すところなく詰め込まれている。タイトルからもわかるとおり、大人のためにリアレンジされたアニソンカバー集の第2弾。
8月のリリースから、オリコン週間ランキングでは8位獲得(2024年8月19日付)、Billboard Japan Top Albums Sales週間ランキングで5位獲得(2024年8月14日公開)と、出だしから華々しい登場を飾り、話題性だけでなく、歌手としての実力も遺憾なく発揮している。
発端は、BS11で絶賛放送中のテレビ番組『Anison Days(アニソン・デイズ)』だ。
森口さんがメインMCを務める本番組で歌唱してきたアニソンのカバー曲やセルフカバー曲が溜まってきたことがきっかけだ。
「おかげさまで番組が8年目を迎えました。番組を通じてこれまで知らなかった名曲に出合えた衝撃や感動をたくさんの人と分かちあいたくて『ANSON COVERS』(以降“ワン”)をリリースしました。“ツー”のリリースが当時決まってもいないのに、入れられなかった曲は“ツー”に、って言いながら(笑)」
言うなれば、『ANISON COVERS』は、森口さんのアニソンへの想いを詰め込んだ理想形のひとつだろう。実際、聞きどころ満載で、どの曲もシングル盤で言う“A面”揃い。制作秘話をいくつか披露してくれた。
「一番カロリーを使ったのは、#3『おジャ魔女カーニバル!!/with 百田夏菜子(ももいろクローバーZ)』です。番組でももクロちゃん(ももいろクローバーZ)たちが披露してくれたときに、世代ではないのにすごく刺さって、自然に体が動いた一曲。インパクトのあるキャッチーなサビにも惹かれました。
実際録音するのは大変で。早いテンポで畳み掛ける16分音符連打と高いキー、50代にはハードな曲でした(笑)。でも、夏菜子ちゃんとはこれまで番組で色々な曲をコラボしてきていたので、呼吸もバッチリ!! 勝手に夏菜子ちゃんのキラキラとした若いエキスをもらって、なんとか乗り切れました(笑)。とにかく夏菜子ちゃんのキュートな歌声が最高!いい化学反応が生まれたと思います!」
そして、リード曲である、テレビアニメ『みゆき』のエンディングテーマ#1『想い出がいっぱい/with 鳥山雄司&神保彰』の収録も、とある理由から、なかなか前に進めなかったそうで……。
「当時、中学生の私は、歌詞の意味をあまり考えずに口ずさんでいました。でも、大人になって聞き返すと、その意味が頭にすっと入りこむんです。何と言っても阿木燿子さんの歌詞が圧巻。
『時は無限のつながりで/終りを思いもしないね/手に届く宇宙は 限りなく澄んで/君を包んでいた』
ピュアな中学生の頃、時間は無限だと思っていたんですけど、大人になると、すべてのものは有限だということを知ってしまうんです。そしたら、過去や未来、時間のすべてが愛おしくて、これからの時間はさらに尊いって思ったら、キー合わせやオケ録りでも涙が止まらなくなってしまったんです。
若い頃というのは可能性の塊ですよね。それを阿木さんは『手に届く宇宙は限りなく澄んで』と表現された。キラキラした時代を思い出します。大人になると、色々とよどんで見えてしまう時もありますからね(笑)。鳥山雄司さんの温かくて上質なサウンドのアレンジと、世界的ドラマーの神保彰さんのリズムが心地よくて、これも泣けてくるんですよ」
さらに森口さんは、この歌詞に自らの来し方を重ねていく。4歳で歌手を目指し、卒園文集にも「歌手になる」と意思を表明。この夢に向かって突き進むなか、デビュー前には数えきれないほどのオーディションに落選する。なかでも特に忘れられないのが、映画『アイコ十六歳』のオーディションだという。
「福岡では2名が選ばれたんです。それが、富田靖子さんと私。芝居と歌の審査があって最終的に靖子ちゃんがアイコになりました。当時、落選して肩を落とす私に“君は女優ではなく、歌手のほうが向いているよ。うちの事務所の歌手のオーディションを受けてみては?”と優しく声をかけて下さったのが、オーディションの主催であった芸能事務所アミューズの現会長でした」
森口さんの記憶に深く刻まれているアミューズとの縁。そして、この『想い出がいっぱい』を歌ったデュオ、H2Oも当時、同社の所属だった。その後、同社のオーディションに残念ながら落選してしまう。
「当時は、合格したらH2Oの後輩になれると思ったものですが、結果的にそこでアミューズとのご縁は生まれなかった。ただ、数十年前に夢破れた私が、令和の時代に縁があってこの曲をカバーできた。当時思っていたものとは違う形で夢を叶えることができたと思うと、“思い入れがいっぱい”(笑)。そうした過去も、私がこの曲で思わず涙してしまう理由のひとつです」
確かに、これほどの経緯ならば、誰も森口さんの涙は止められない。とはいえ、マイクの前に立つたびに涙してしまっては録音ができないと、なんとかスタッフ一同で、森口さんの感情を“オン”にしないよう注意しながら、気を逸らしながら、慎重に録音を敢行したのだそう。
「ファンの方たちも、そんな私の背景をよくわかってくれています。イベントやコンサートでは、名曲の素晴らしさと色んな思いからか先にファンの方が涙してしまうこともあるんです」
最後に、『ちびまる子ちゃん』オープニングテーマ、#5『ゆめいっぱい/with 鳥山雄司&柏木広樹』についてのアレンジ共有の逸話も、“森口節”全開だ。
「シリーズ1の時にボサノバにアレンジした曲があったんですがバンドのメンバーとイメージを共有するのに私が一言“紅茶飲料のCMソングのイメージ”で、と言ったら、みんな“OK、了解”って(笑)。結果、見事に一丸となってイメージ通りだったんです(笑)。そのパート2的な仕上がりに。鳥山雄司さんのギターと柏木広樹さんのチェロと3人で会話しているような素敵な世界になりました」」
こうした誕生エピソードも踏まえながらアルバムを聴き込めば、さらなる味わいが生まれることは間違いないだろう。
森口博子を育てた“アニソン”の魅力とは
「人格形成期に聴いたアニソンは裏切らない。これは、長い関わりのなかから導き出した私なりの真理です」
聴く人、歌う人、それぞれの背景を投影できる懐の深さが、歌というものにはある。そう考えると、森口さんにとっての「アニソン」は、非常に大きな存在だと察せられる。
冒頭の言葉の奥には、本作『ANISON COVERS 2』のリリースに至るまでの背景だけでなく、デビュー曲『水の星へ愛をこめて』が、テレビアニメ『機動戦士Zガンダム』のオープニングテーマであった点も大きいという。
「私が子供の頃に聞いていた、堀江美都子さんが歌っていらっしゃるキャンディ キャンディのエンディングテーマ『あしたがすき』は、今では私の人生のバイブルで、どんなときも寄り添ってくれる。
オーディションに落ち続けた私に最後、手を差し伸べてくれたのもZガンダムのテーマ曲。そして、今もこうしてアニソンの魅力を伝え続ける役割を与えてくれる。もはや人生のパートナーです」
輝かしいキャリアのひとつに挙げられるのは、アルバム『GUNDAM SONG COVERS』が、2019年の第61回日本レコード大賞企画賞を受賞したことだろう。
森口さんのカバーを通じて曲の存在を知ったと語るリスナーも少なくなく、そうした反響を実際に耳にする機会が頻繁にあるそうだ。
「でしょ!でしょ!って(笑)。アニソンと一口に言っても、音楽的に楽しめる要素がたくさんあるんです。だから、アニソンを知らなかった人にも私の歌が届いて、その固定観念を覆せる。何よりそれがうれしいですね。
『GUNDAM SONG COVERS』シリーズが令和に3枚ともオリコン週間ランキング3位以内にランクインできて、素敵な企画賞までいただき“夢には締め切りがない”と実感しました」
“アニソンの伝道師”としての強い想いが見て取れる。最後にアルバムへの思いを語っていただいた。
「’80年代、’90年代のアニソンの魅力がたっぷり詰まったアルバムになりました。とにかく内容が豪華!TM NETWORKの『STILL LOVE HER(失われた風景)』をカバーするにあたり、メンバーの木根尚登さんご本人に参加していただき、オリジナルの肝となるあの切ないブルースハープに心が震えたり。知らない楽曲でもきっとお気に入りを見つけてもらえる自信作になりました。袋とじの水着写真付きカードとともに楽しんで下さいね」
※2回目に続く