PERSON

2023.04.09

木村拓哉、“仕事”は好きじゃないと語る理由

デビューから30余年の今なお、唯一無二の輝きを放つ木村拓哉は常に新たな魅力を纏い、進化し続けている。ザ・プロフェッショナル、木村拓哉の新たな挑戦、そして大好きだというゴルフ観に迫る。

木村拓哉

Takuya Kimura
1972年東京都生まれ。2023年は主演映画の『レジェンド&バタフライ』の公開に続き、国際ドラマ『THE SWARM』がHuluで独占配信。『風間公親-教場0-』では、実に9年ぶりの月9主演を務める。セットアップ¥467,500、ニット¥203,500[すべて予定価格](プラダ/プラダ クライアントサービス TEL:0120-45-1913)、その他スタイリスト私物

やると決めたらスイッチを入れるだけ

白髪で右目は義眼、にこりともせぬ鬼教官、風間公親(かざまきみちか)。木村拓哉の新境地として話題になったSPドラマ『教場』シリーズ(2020年、2021年新春放送)が2023年4月、連続ドラマ『風間公親-教場0-』として帰ってくる。

過去2作では教場と呼ばれる警察学校が舞台だったが、今作で描かれるのは右目に傷を負う前、県警本部で新人刑事の教育にあたる刑事指導官を務めていた頃の物語だ。「警察学校は適性のない人間を振るい落とす場である」という考えのもと、生徒たちが胸に秘めた思惑や邪心を見透かし、時に冷酷に、時に威圧的に生徒たちを選別する最恐の教官はいかにして誕生したのか。それが解き明かされる“逆算のドラマ”でもある。

「風間の生徒に対する振る舞いは、リスペクトを大事にする今の教育の真逆をいくもの。連ドラ、しかも月9枠での放送は、ある意味挑戦だと思います。特に今作は、警察学校という特別な空間ではなく、一般社会が背景になる。その大きな違いのなかで、風間をどう違和感なく演じるか、自分なりのプランもありますし、中江監督やスタッフともアイデアを出し合っています。

ありがたいことに1、2作目を一緒につくってきたチームですからね。お互い理解しあったうえで、より高いクオリティを目指して進んでいる現場なので、気持ちいい緊張感と充実感がありますね」

笑顔はおろか、水を飲む、咀嚼(そしゃく)をするなど生活感がうかがえるシーンはいっさいない。人間らしさを封印したかのような役ゆえに、現場では“体温低め”に過ごすことが多いという。

けれど、若手をはじめ共演者たちからは、さり気なく緊張感をほぐしてくれる気遣いへの感謝や、木村のプロ意識に触発されたといった発言が数多く聞かれる。現場でのそうした振る舞いには、主演としての矜持が垣間見える。

「いやいや、それはみんな取材用にコメントしているだけじゃないですか(笑)。相手の状況を見て、この人には今何か声をかけたほうがいいと思ったらそうするようにはしていますけど、『リーダーとして周りを引っ張ろう!』と特に意識しているわけではないです。

僕はただ現場が好きだから、ひとりのプレイヤーとしてやるべきことをやっているに過ぎない。そこに集う人たちが、それぞれの分野で得意技を持ち寄ってさらし合っている現場ですからね。そこで自分に何ができるかを考えると、“流す”なんてできないでしょう。たとえ世界が停電しても、自分だけは自家発電してやるくらいのつもりでやっています」

ただ意外なことに、実は仕事は好きじゃないとも話す。

「“仕事”というと、義務や責任感が伴う感じが強くて、自分はしっくりこない。もちろん責任はあるんだけど、僕は好きだからやっているわけであって。ゲーテの表紙に『仕事が楽しければ人生も愉しい』という言葉がありますが、感覚としてはこれに近いかもしれません。やると決めたら、あとは自分でスイッチをオンにするだけです」

ゴルフでしか取れないコミュニケーションがある

ストイックに撮影に取り組んでいる木村だが、休日はゴルフにもよく行くという。『教場』の撮影のない日、自身が出演する動画の収録を兼ねてゴルフに出かけた。

ゴルフと麻雀だけはやらないと公言していたものの、プライベートでも仲がいい某大先輩から「ゴルフならお前に勝てるわ!」と言われたのをきっかけに始め、もう15年がたつ。プロからもそのゴルフセンスを絶賛されるほどで、いいリフレッシュになったのかと思いきや、苦笑いを浮かべて首を振る。

「練習ナシのぶっつけ本番だったから、もうストレスだらけでした(笑)。ゴルフをすごろくにたとえるなら、8マス進んだと思っても、しばらく離れると6マスくらい戻っちゃう感じ。その繰り返しです。でも、なかなかゴールに到達しないから、また行きたくなるし、やりたくなるんでしょうね。海と同じで、二度と同じシチュエーションがないところも長く続けられる理由なのかもしれません」

木村が何よりも大事にしているのは、一緒にプレイする仲間たちとの時間のなかでどれだけ笑えるか、どれだけ楽しめるか。スコアはおまけだとも明かす。

「上手くなりたい気持ちはもちろんありますけど、それより、そこでしか出合えない何かがあるからという感じ。ゴルフ場って職業とか年齢は関係なく、いいスコアを出したりいいショットを打った人がカッコいいじゃないですか。

スタッフと回ることもありますけど、そうすると現場とは違う関係性が出てきたりして、それがまた面白い。『たっくん、どうだった?』『オレ、ボギーです』『私はパー』『えっ、スッゲー!!』みたいな。ゴルフでしか取れないコミュニケーションがあるんですよね。大先輩からの挑発で始めるという変な導かれ方をしちゃったけど、これからもゴルフは続けると思いますよ」

『風間公親-教場0-』
長岡弘樹著の『教場』シリーズを原作に、脚本を君塚良一、監督・演出を中江功が担当。刑事指導官・風間と新人刑事との緊迫したやりとりをベースに、鬼教官誕生の経緯を解き明かしていく。2023年4月10日からフジテレビにて、月曜21時に放送。
 

この記事はGOETHE2023年5月号「総力特集:死ぬまでゴルフ!」に掲載。購入はこちら▶︎▶︎

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=片桐史郎(TROLLEY)

STYLING=前田勇弥

HAIR&MAKE-UP=酒井啓介

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