英語コーチングスクールを手がけるトライズ社長の三木雄信さんは、ソフトバンク社長室長として孫正義氏の薫陶を直に受けたビジネスのプロ中のプロ。そんな三木さんは最近88kgから66kgへ、6ヵ月で22kgの減量を遂げる。それを支えたのは、他ならぬビジネスマネジメントの手法だった。【特集 タンパク質】
レッドカードを突きつけられて、背水の陣でダイエットに挑む
トライズの社長、三木雄信さんの学生時代の体重は60kg台。どちらかというとスリムな体型だったが、社会人になって多忙を極めるようになり、運動不足と過食で少しずつ太り始めた。
「拍車がかかったのが、ソフトバンク時代。社長室長になると、忙しくて生活習慣は乱れっぱなし。孫さんは何かアイデアが閃くと、午前2時とかでも『これから会議だ!』と突然連絡してくる。会議が午前3時に終わったとしても、ハイになっていて眠れないから4時頃まで仲間と飲むんです。それから5時に家へ帰って9時15分には出社。仕事は山積み、会議続きで外に出る余裕もないから、食事は毎日揚げ物満載のお弁当をデスクで食べる。そんな生活で太らないわけがない(笑)。ソフトバンク時代に体重は10kg増えましたね」
その後独立し、ビジネスがようやく軌道に乗り始めた頃、運悪くコロナ禍に見舞われる。
「実店舗で行っていた英会話スクールをオンラインに切り替えたら、受講者がガクンと減ってしまった。家賃や人件費といった固定費は毎月出ていきますから、業績が急に悪くなりました。そのストレスで食べて飲むし、在宅勤務で運動量も落ち、さらに10kg太ったんです」
学生時代から体重がトータル22kg増えて見た目は大きく変わったが、それ以上に“中身”がボロボロになってしまっていた。
「2023年11月に健康診断を受けたら、高血圧、脂肪肝、高血糖の三重苦になっていました。検査項目をチェックした医師に『いますぐ痩せないと大変なことになります』と脅されて、健康体を取り戻すために本気でダイエットに取り組む決意をしました」
孫正義も実践するマネジメントの3大原則をダイエットに応用
ダイエットを始めるにあたり、三木さんは馴染みあるビジネスマネジメント手法を応用することにした。孫正義氏に学び、自社の経営でも大事にしていた3大原則を取り入れたのだ。
それは「①ゴールから逆算する」「②数値化」「③高速でPDCAを回す」の3つだ。
「この3つは、会社経営にも、僕らが手がける英語教育にも共通する基本OSのようなもの。ソフトバンクの成長もこの3大原則のおかげだと思っていますし、うちがコロナ明けにいち早く成長へ転じることができたのも、やはりこの3大原則を曲げなかったから。ダイエットだって3大原則を守っていれば絶対に成功するという確信がありました」
始めに定めたのは「①ゴール」。ゴールが明確でないと、何をすべきかがはっきりしないからだ。
減量のゴールにしたのは、BMI22のときの「標準体重」。BMIとは、体重(kg)をメートル換算した身長(m)の二乗で割ったもの。痩せすぎでも太りすぎでもないBMI22のときの体重が標準体重であり、そのとき死亡率がもっとも低くなるとされる。つまり、医師が危惧する高血圧、脂肪肝、高血糖の三重苦から解放される可能性も高くなるわけだ。
「僕の身長は174cm。BMI22の標準体重を計算してみたら66.6kgだった。“悪魔の数字”で覚えやすいと思い、これをマネジメントで重視するKGI(Key Goal Indicator:企業や組織が設定する目標を定量的に測定するための指標)に定めたのです。ダイエットがあまり長期間になると間延びしてモチベーションが続かないし、短期間だとハードすぎて挫折するリスクもある。だから8ヵ月で20kg痩せて、標準体重近くまで落とすと決めました」
【BMI、標準体重の求め方】
BMI=体重(kg)÷ 身長(m)2
標準体重=身長(m)2 × 22
体重変化に一喜一憂するダイエットは失敗する
次に取り組んだのは、徹底した「②数値化」である。
英語学習とダイエットは挫折しやすい習慣のトップ2と言われる一方、2015年のサービス開始以来、トライズの受講生の約91.6%が挫折せずに学習を終了しているという(2019年6月〜2024年7月に受講開始した人の場合)。その秘訣も、学習時間や英語力の進捗度を数値化により管理しているメソッドにある。それを自らのダイエットにも応用したのだ。
数値化の柱に据えたのは、カロリー収支、血糖値、タンパク質量。
「これはマネジメントで言うところのKPI(Key Performance Indicator:企業や組織の目標達成に向けたプロセスの定量的な評価指標)。ダイエッターのありがちな間違いは、体重自体をKPIに定めること。体重は1日に2〜3kg平気で動くから、プロセスの定量的なインジケーターにはなり得ない。
体重はゴールつまり結果であり、企業活動でいうところの損益計算書、貸借対照表に相当します。企業が日々利益を出すために必死に活動した結果が、最終的に損益計算書や貸借対照表といった決算書に現れる。
孫さんは『決算書だけを見て経営できるわけがない。それはバックミラーだけを見ながら運転しているようなもの。そうではなく、つねに前を向き、もっと手前の数値を見ながら経営すべきだ』といつも言っていました。体重という“決算書”を左右する手前の数値が、カロリー収支、血糖値、タンパク質量といったKPI。その変化を慎重に見極めながら、ダイエットを進めるべきなのです」
さらに、KPIがプラン通りに変化しないときは、ダイエット法を即座に見直して改善する「③高速PDCAを回す」ことも怠らなかったという三木さん。
後編では、三木さんの科学的なダイエット法をさらに詳しく深掘りする。
この記事はGOETHE 2025年3月号「特集:リーダーにはタンパク質が必要だ」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら