まだまだ謎に包まれた男、福田淳(あつし)。なぜだかいつも周りの人間から頼られ、案件を持ち込まれ、奔走する。そして常に国内外を飛び回り、一日一日を本気で楽しむ。多岐にわたる企業の経営を担い、タブーをタブー視せず、変化を模索する男の人生哲学とは? 第15回目はホテルのホスピタリティと旅先でのストリートの楽しみ方について。

1965年大阪府生まれ。連続起業家。スピーディグループCEO(現任)、STARTO ENTERTAINMENT創業CEO、ソニー・デジタル・エンタテインメント創業CEO。世界19ヵ国での出版事業、日本でタレントエージェント、LAでアートギャラリー運営、リゾート施設展開・無農薬農場開発、スタートアップ投資など世界中でビジネスを展開する。『好きな人が好きなことは好きになる』など著書多数。
均一化されているからこそ日本の都市は深掘りしやすい
上京したばかりの学生時代、よく僕は池袋の街をぐるぐると歩き回っていました。大学が江古田にあったので、西武線で手っ取り早く行ける「都会」が池袋だったからです。ロマンス通りを歩きながら思いました。「東京には、こんなにたくさんの人がいるのに、誰ひとり僕のことを知らない」──これは10代の僕にとっては大変に感動的な事実でした。だって地元ではそうはいきません。どこに行っても「何してるの?」「今日はどこへ行くの?」と必ず近所の人に聞かれますから(そんなド田舎ではなかったけど、街中では面白い子供で知られており「将来は吉本やなあ」と言われる存在でした)。
「無名性」は、都会にしかない贅沢です。
そして、だからこそ日本の都市にあるホテルのサービスは独特なのです。干渉しすぎず、でも相手を気遣う。その絶妙な距離感のなかに、日本元来の細やかなホスピタリティがつまっています。部屋には当たり前に歯ブラシがあり、衣料用の消臭スプレーが置いてある(海外ではどちらもないことがある!)。誰とも顔を合わせなくても、荷物が少なくても、何ひとつ不自由しない。日本人はこれを当然だと思いがちですが、その裏には手厚いホスピタリティがある。しかも夜中に自室へマッサージを呼べて、そのまま寝落ちしたっていい。ここまで身体を委ねられるサービスがあるのは日本のホテルくらいじゃないでしょうか。
身体をととのえるお気に入りのホテルと街
僕は営業マン時代に全国47都道府県400くらいのケーブルテレビ局をくまなく巡ってきました(日本の街は行ったことない所がないかも。地方のなんとか銀座やスナック五月の類は、ほぼ制覇!)。さらに現在は、エンタメの仕事をしているため地方公演の視察に出向くことも多く、国外も含めれば年間の1/3をホテルで暮らしています。
そんななかでもう20年近く通っているお気に入りのホテルがあります。それが「ホテル阪急インターナショナル」です。ここの29階のレストランで梅田の街を眺めながら朝食をいただくのが大好き。働く方々の対応も素晴らしく、長く通っているうちにかつて新人だったドアマンの方が、マネージャーにまでなられていました。とても愛着のあるホテルです(外資系の気取ったとこより、関西ホスピタリティが性に合う!)。
一方で僕にとっての旅やホテル滞在の目的に、「身体をととのえること」があります。だからホテル選びにおいて、いいサウナや温泉があることは非常に重要。その点では、同じく大阪・福島の「ホテル阪神大阪」が最高です。ここはサウナも浴槽もとにかく広い。水風呂との動線もいい。大阪は客がサービスに厳しい街ですから、その緊張感が質を押し上げている気がします。
もう少し地方に目を向けるなら、最近行った淡路島の酵素風呂もよかったです(「ぬか酵素Sun燦」という場所でした)。ひとりひとりに新鮮な酵素を用意し、その香りがまたとてもいい。淡路島は食料自給率が100%を超えるとても自然豊かな場所。大阪・関西万博会場からアクセスがよかったこともあり、多くの人が訪れて、その魅力に気がつきました。今後さらに発展していく島ではないでしょうか。あとは「東洋のハワイ」と呼ばれる八丈島にも新しいハーバルサウナをつくろうとしている方がいて、それもまた楽しみです(1日3便あって、羽田からたった55分!)。
路地に消えた美女の正体
日本の都市のルックスは、どこもなんとなく似ています。それに沖縄にいても北海道の地震速報が流れるほどに、情報も均一化されています。そしてだからこそ、どこへ行っても安心感がある。海外の方が日本人よりもマニアックなお店や場所を知っているのも、きっとその安心感ゆえに街を深掘り・冒険しやすいからだと思うのです。
そういえば先日、私もちょっとした冒険をしました。仕事で愛媛の松山に前乗りした夜、いい食事どころはないかと街を歩いていると目の前を絶世の美女(!?)が通り過ぎたのです。あまりに美しかったのでつい目で追ってしまったら、彼女は狭い路地に消えていきました。誘われるかのように、私もその路地に入ってみると、そこには1軒の大皿料理の店が。自力ではけっしてたどりつくことはできないようなその小さな店で美味しい郷土料理を食べ、上の階のスナックにも立ち寄ると、なんと! そこに先ほどの美女が偶然いました! そのスナックオーナーの娘さんなんだそうです。よそ者の私でもママさんと娘さんが話しかけてくれ、とても楽しい夜になりました。
都市にはこういう偶然もたくさん転がっています。誰にも会わない、誰でもない、そんなふうに無名性を楽しみながら気楽に過ごすもよし、こうして誰かと出会うもよし。本当に日本の街は面白い所ばかりです。
「移動距離とクリエイティヴィティは比例する」。これはハイパーメディアクリエイターの高城剛さんが語った言葉ですが、僕もそのとおりだと思います。元来日本人はあまり移動を好みません。特に地方に住む人たちにその傾向が顕著です。かつて僕は山形県を活性化させるブランディングの仕事をしたことがあります。そのプロジェクトの一環で山形空港⇄羽田便を1日で往復できるように増便に携わりました。ビジネスマンの利用は増えましたが、山形からアジア諸国への空路はほとんど利用されませんでした。その時に「都心部とそれ以外では、住んでいる人の移動に対する考え方が違う」と思ったのです。つまり盆と正月に海外へ休暇で行く人は、都会の人が多数を占めるということなのです(逆に帰れる田舎がある人も羨ましい!)。
けれどコロナ禍以降、地方を問わず若い人たちのなかで国内旅行がブームになっていると聞きます。海外に旅ができない不自由な時代があったから、今こうして日本を再発見している。日本人が日本の隅々を旅することで、新しいアイデアがどんどん生まれてくるんじゃないかと思います。日本はどこも公共交通機関が整っています。こんなに旅をしやすい国もめったにないでしょう。だからこそ、もっと移動したほうがいい。日本各地の都市のホテルで身体をととのえ、路地で偶然に出会い、さらに地方へと深く潜っていく。
僕自身、移動することでしか保てない思考の鮮度があると感じています。だから負けじと移動し続けますよ。さて、次はどこの街に泊まろうか。
Editor’s Note|どんな旅でも快適に過ごす旅のお供
長い海外の旅でも、パッキングは30分で終了するという福田さん。そこには旅のルール化がありました。どんなホテルに泊まっても困らないように、必ず持ち歩いているセットがあるんだとか。
「ポーラのB.Aのスキンケアセットは必須。アメニティがあっても、自分が厳選してたどりついたこれを必ず使います。また各種電源類はフルセットで持ち歩き、長〜い延長コードまで持っています(笑)。海外では枕元にコンセントがないホテルも多いのであると便利。どこに行ってもスキンケアと電源だけは『東京を持ち歩く』、そういう感覚です」


