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2026.05.12

部下が動かないのはなぜか。上司がしてはいけないたった一つの原因【識学⑧】

「部下を自発的に動かすにはどうすべきか」「この伝え方はパワハラにならないのか」──マネジメントの現場で誰もが抱える悩みだろう。そんな課題に対し、「上司と部下の役割を明確にする」という理論で注目を集めるのが識学だ。5,000社以上の企業が導入するこのマネジメント論について、提唱者の安藤広大氏に聞いた。連載第8回。#部下のモチベは高めないその他の記事はコチラ

部下が動かない上司に共通する、たった一つの原因

リーダーとしてではなく、人間としての評価を得ることがトラブルを生む

マネジメントの役割として求められるのが、部下をうまく動かすこと、あるいは部下を自発的に動ける環境をつくることだろう。

識学でも、上司は決定者、部下は実行者という役割のなかで、具体的な目標や明確な責任範囲を提示することが重要だと説いている。

とはいえ世代間のギャップやハラスメントの懸念などもあり、どのように部下に伝えるべきなのか悩む人は多い。真意がうまく伝わらず、時に必要以上の言葉を投げかけてしまった経験を持つ人もいるだろう。

「あくまでもリーダーはリーダー。明確な指示をだす立場として、ひとりの人間に戻らないことが大事です。人が相手を“人間”だと認識するのは、感情的になった瞬間です。

感情が表に出ると、目の前の人を役割ではなく、ひとりの人間として見るようになります。そうすると部下は、上司を役割ではなく、人として評価するようになる。リーダーあるいは上司としてどうかではなく、人としてどうなのかという評価になり、その人に対して好き嫌いが生まれてしまうんです」

それは怒るというマイナスな感情だけではなく、仲良くなろうというプラスの感情でも同様だ。部下から見れば、どちらも「人間的な部分」が見える瞬間になるからだ。

「ですから仕事で対話する場合は、淡々と、そして粛々とするべきです。人として怒っているのではなく、課長や部長の立場として必要なことを伝えている状態にする。そうすれば大きなトラブルは起きないはずです」

部下マネジメントは“感情”ではなく“事実”で行う

そのために重要なのが、「常に事実で向き合うこと」だと安藤氏は言う。

「たとえば、業績が上がってきた部下に対し『食事に連れて行って腹を割って話をしてから、あいつスイッチ入ったな』なんて、曖昧なことで納得したりしていないでしょうか。

それが本当にきっかけだったかはわからない。そこに何の事実もないのに、イメージのような定性的な要素で業績を上げようとする。論理的でないないので、その場しのぎで再現性もない。結局、次につなげることもできません。

やるべきは、ファクトベースで『君はこういうことができていない』という事実を提示すること。そして『どう修正するのか』を本人が考えるよう問いかけること。

『来週までに○○という結果をだそう』と具体的な指示を出し、部下は『では○○の形でやってみます』と行動する。その指示と行動を繰り返すだけでいいんです」

確かに感情ではなく事実で向き合う、それを徹底できれば、パワハラにもなり得ない。

「ただし、事実に向き合うことになるので、部下にとっては厳しいはずです。でも上司が感情的になったら、部下は『あの言い方はひどい』『むかつく』といった違う論点でストレス発散できてしまう。

事実だけを突きつけられると、それがプレイヤーとして会社が求める現実だと自覚せざるを得ない。結果を絶対に出さなくてはいけないという状況をつくることができます」

識学・安藤広大氏
安藤広大/Kodai Ando
識学 代表取締役社長。1979年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。大学時代はラグビー部に所属し、勝敗と向き合う厳しい環境で4年間を過ごす。NTTドコモ入社後、営業としてキャリアをスタート。上場企業への転職を経てマネジメントに携わるなかで、「人のやる気」や「人間力」に依存する組織運営に限界を感じ、識学と出合う。誤解や錯覚を排した明確なルールと仕組みによるマネジメント理論に強く共感し、事業部の立て直しでその有効性を実証。2015年に株式会社識学を設立し、創業4年足らず(3年11ヵ月)東証グロースに上場。現在は延べ5,000社以上の組織改革を支援している。組織マネジメントに関する著書は『リーダーの仮面』などベストセラー多数。「がんばっている人が、正しく報われる組織を増やしたい」という思いが、識学の根底にある。

部下が動かないのはなぜか。上司が作るべき“危機感”

「識学を導入している企業の方に聞くと、たとえば部下が『営業目標未達でした』と報告したときに、上司が『えっ?』と驚くのが部下にとって一番怖いそうです。約束したのにできなかったの?ということですよね。

でも上司と部下の関係において、そうした緊張感はとても大事です。ただし、そこに感情を加えてはいけない。それがパワハラにつながるんです」

感情的に相手を屈させるのではなく、事実に基づいた緊張感を与えることで、やるべきことを達成させる。それがマネジメントの役割で重要だ。

「人間が行動を選択するのは、危機を感じたときか自分にとって有利、プラスと感じたときです。よくあるのは、部下をストレスなく動かそうと、持ち上げたり優しく『がんばれよ』と声をかけたりして、プラスの動機で動かそうとするケースです。

でもそこには『部下はいつでもそこから降りることができる』という弱点が生まれます。

プラスの動機は受け入れなくても大きな不利益がない。プラスがゼロになるだけですから、『僕は別にいい』『次回がんばればいい』と、無理して努力しなくてもいいと考えてしまう。

でも、危機感のようなマイナス側だと自分の身に不利益が生じる。だから、やらなくてはという意識になるんです」

プラスの動機を提示することで、逆に「受け入れない」という選択肢を与えてしまう。結果として、部下が逃げられる余地をマネジメント自らがつくってしまうというわけだ。

「危機感を生む方法としては、たとえば客観的な評価制度をつくることや、会議などで事実をもとに比較する場を設けるなど、現状を認識せざるを得ない環境をつくることが必要です」

コンプライアンスを重視する昨今の企業において、『みんなの前で比較をすることがパワハラになるのではないか』と危惧する意見もあるかもしれないが、その心配は必要ないという。

「他と比べて成果が出ていない事実を伝え、改善策を導くだけですから、パワハラにはなりません。だからこそ、感情やイメージではなく、しっかり事実で伝えることが不可欠なんです。

部下が動かないのは、マネジメントの責任。だからマネジメントにとって重要なのは、実行者である部下がやらざるを得ない環境をいかに作るかなんです」

TEXT=牛丸由紀子

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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