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2026.04.28

「それって意味ありますか?」「比較はやめて」「ストレスは避けたい」──部下の意見をどう考えるべきか【識学⑥】

「それってやる意味ある仕事ですか?」。最近、部下からそんな言葉を投げかけられた経験はないだろうか。働き方改革が進む一方で、職場では仕事への意識の変化が生まれている。5,000社以上で導入するマネジメント理論「識学」を提唱する安藤広大氏は、その背景に“仕事への無意識ブロック”があると指摘する。連載第6回。#部下のモチベは高めない【その他の記事はコチラ】

「意味ある仕事ですか?」と聞く部下が増えた理由。識学・安藤氏が説く“仕事の無意識ブロック”

組織の生産性を下げる“無意識のブロック”

「自己実現できるのが良い会社」「納得できない仕事はやりたくない」「モチベーションがあるから仕事ができる」──。

近年、社内ではこうした“仕事論”が語られることが増えている。一方管理職からは、こんな声も聞こえてくる。

「仕事を頼むと『それってやる意味あるんですか?』と理由を求められる」「部下を指摘したらパワハラと言われないか不安」。

識学 代表取締役社長の安藤広大氏は、こうした状況の背景に“無意識のブロック”があると指摘する。

「それらはすべて、無意識のうちにできてしまった“ブロック”なんです。かつてはそういうことを考えることもなく、とにかく仕事にひたむきに向き合うのが当たり前でした。

ところが社会の変化や世論の影響によって、いつの間にか “仕事に向かう気持ちを止めるブロック”が築かれ、行動にブレーキをかけてしまっているのです」

こうしたブロックが、日本企業の現場に多くの“ムダ”を生んでいると安藤氏は言う。たとえば、社員のストレス状態を測るストレス診断もその一つだ。

「もちろん過剰なストレスは論外です。しかし、仕事は遊びではないので、まったくストレスがないわけがありません。

むしろ多少のストレスは、仕事では当たり前、普通の状態です。言い方を変えれば、仕事はストレスがないと成長できないとさえ言ってもいいかもしれません。

ところが『仕事でストレスを受けることが悪いことだ』というブロックができてしまった結果、ストレスを感じる状態そのものが“よくないこと”のように捉えられてしまうのです」

つまり「意味があるかわからない仕事はやらない」「比較されるのは嫌だ」「ストレスのある仕事は避けたい」といった考え方が、知らないうちに仕事への行動量を減らしてしまっているというわけだ。

他者と比較されたからこそ、人の価値は生まれる

部下を適切に動かすうえで、会議などの場で他者との比較評価を行うことも重要だと安藤氏は話す。しかし管理職のなかには、「人前で評価するとパワハラになるのでは」と危惧する人も多い。

「確かに、評価に感情が入ればパワハラになってしまいます。しかし提示するのが事実のみであれば問題はありません。事実をもとに評価すること自体は、決してパワハラではないのです」

そもそも「人と比較することが良くない」という考え方自体が、“無意識のブロック”だと安藤氏は言う。

「人間は比較する生き物。比較があるからこそ、自分の価値を認識できるものです。ご飯がおいしいと思うのも、誰かを好きになるのも、何かと比較するからそう思うわけですよね」

たとえば、小学校の徒競走で「順位をつけない」という取り組みが議論になったことがある。

「私は明らかに間違った施策だと思います。社会に出れば、人は常に他者評価の中で生きることになります。企業も同じです。営利企業である以上、市場から評価されなければ存続できません。比較や評価を避けて通ることはできないはずです。

それこそ彼女を作ろうと思ったら、彼女に選ばれなくてはいけない。それなのに人から比較されたくない、選ばれるステージに立つことを避ける人が増えた。だから未婚率が高くなった気もします(笑)。

結局、比較されたくないというのは、自分の価値を失うことになるのではないかと思います」

そんなかつてはなかったような仕事に対する“無意識のブロック”が、部下にも上司にも無意識のうちにできているのが今の組織なのだ。

「だからこそ、それらを本当に意味がない、逆に会社にとってマイナスなものだと認識すれば、そんなブロックは必要なくなります。そのムダをなくしていけば、生産性は自然と向上し、どんな会社でも伸びるはずです」

経営者が「自己否定」を越えたとき、組織は変わる

識学ではそういった意識構造を変えていくことが重要だとされる。だが、当然ながら組織の考え方を変えていく過程で、やはり反発も出てくる。

「『今までの会社の良さがなくなる』という声を聞くこともあります。ただ裏を返せば、それは『自分の既得権益がなくなる』ということ。これまで自由にできていたことが、できなくなるという意味です」

本来、権限は責任に対して与えられるべきものだ。しかし責任以上の権限を持つ人が増えるほど、組織の動きは鈍くなっていく。

「責任がないのに自由にできる業務が増えることは、誰もその結果に責任を負わないわけですから」

これまで当たり前と思っていた常識を変える──。その意識改革は、管理職ひいては経営者にとって厳しいと捉えられることも多い。

「管理職側にとっては、今まで大切にしてきたものが実は必要なかったと言われることになる。つまり、今までの自分を否定されることになるからです。既得権益を死守したいという気持ちが生まれるのも無理はありません」

実際、識学の導入を検討する経営者の多くは、理論の正しさ自体は理解しているという。

「それでも導入を即断できないのは、やはり自己否定につながるからです」

さらに安藤氏は、経営者の心理をこう指摘する。

「自分の楽しみを奪われたくないという意識がどこかにあるのは、“社長ごっこ”と同じです。従業員に嫌われたくない、これまでのやり方を否定したくない。そうした“今”の感情を優先しては、組織に変化は起こせません」

本当に聡明な経営者が見ているのは「今」ではなく「未来」だ。

「会社が存続する未来を見据えていれば、時間軸のなかでやるべきことが明確になっていくはずです。だから事業承継のような未来の危機感を認識した時に、識学が選ばれるのだと思います」

安藤広大/Kodai Ando
識学 代表取締役社長。1979年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。大学時代はラグビー部に所属し、勝敗と向き合う厳しい環境で4年間を過ごす。NTTドコモ入社後、営業としてキャリアをスタート。上場企業への転職を経てマネジメントに携わるなかで、「人のやる気」や「人間力」に依存する組織運営に限界を感じ、識学と出合う。誤解や錯覚を排した明確なルールと仕組みによるマネジメント理論に強く共感し、事業部の立て直しでその有効性を実証。2015年に株式会社識学を設立し、創業4年足らず(3年11ヵ月)東証グロースに上場。現在は延べ5,000社以上の組織改革を支援している。組織マネジメントに関する著書は『リーダーの仮面』などベストセラー多数。「がんばっている人が、正しく報われる組織を増やしたい」という思いが、識学の根底にある。

TEXT=牛丸由紀子

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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