TRAVEL

2026.04.26

“変えない”という美学。「パーク ハイアット 東京」リニューアルの全貌

約1年半にわたって休館し、全面改装を行ったパーク ハイアット 東京。1994年の開業以来、唯一無二の存在感で世界中にファンを持つレジェンダリーホテルのリニューアルは、他のホテルとは異なる選択だった──。【特集 最先端ラグジュアリーホテル】

パーク ハイアット 東京

「パーク ハイアット 東京」の変えないという選択

例えば007のように、すでに多くのファンを獲得しているアイコニックな存在ほど、変化を遂げようとした時のプレッシャーは大きいものだ。パーク ハイアット 東京(以下PHT)のリニューアルにも、同じことがいえるかもしれない。

1994年に開業したこのホテルは多くの革新を業界にもたらした。デザイナーであるジョン・モーフォードはインテリア全般はもちろん、本の選定から館内を撮影する時間にいたるまで、徹頭徹尾すべてのディレクションを完遂。それが揺るぎないスタイルにつながっていた。

そんなホテルに転機が訪れる。経年に伴うビル設備改修のために、大規模な工事が必要になったのだ。何度も検討が行われた結果、およそ1年半もの間、全館休館し、一斉工事によるリニューアルを決定した。アイコニックな存在であるホテルがどのように生まれ変わるのか、休館の前から注目されていた。

そして2025年12月に新たにオープンしたPHTの選択は、驚くべきものだった。ほぼスケルトンでの全館工事を実施したにもかかわらず、客室と一部のパブリックスペース以外のデザインは、変わっていないのだ。

共通認識だった変えないリニューアル

開業から三十数年が経ち、後発ホテルがいくつも誕生するなかで、これは見直しと変更の絶好のチャンスである。それでいながら、あえて変えないという選択。前代未聞のホテルリニューアルは、現場のみで判断できるものではないだろう。マネジメントの意思決定がポイントになるはずだ。オーナーであるパークタワーホテルの代表取締役社長、小倉太郎氏はこう話す。

「我々は東京ガスグループのひとつであり、東京ガスの社風が影響している可能性があります。エネルギー・インフラ事業は安定して長期に遂行することを旨とします。長い年月にわたって、それを究めてきたDNAが、もしかしたらこのリニューアルにも影響しているのかもしれません」

短期的な視点より、高い品質や長期の安定のために心を砕くという社風がホテルの大きな選択に影響したと語る。それはリニューアルだけでなく、開業においても同様だったようだ。

「エネルギー供給事業はもちろん専門分野ですが、ホテル事業への参画は初めてでした。ノウハウがないのですから、パートナーとして選んだハイアット グループを信じて委ねるところからスタートしています」

「すべてを委ねる」という信頼関係。言葉で言うのはたやすいが、それが容易ではないことは、社会経験を積めば積むほどわかるはずだ。しかしPHTはʼ90年代の開業計画の時点から姿勢が一貫している。これがまず、変わらない選択の発端にあったのである。

「約30年の成功の物語を考えると、まったく新しいものをつくるという方法にチャレンジするか、それともこれまで高い評価を得てきたホテルをさらに進化させるか、このふたつのやり方で後者を選ぶのは、関係者が一貫して持っていた共通認識だったと思っています。そういう認識のなかにいた我々に対して、リニューアルのデザインをお願いしたジュアン マンクは、自分たちの色を抑制しながら、使命を全うしてくれました」

工事中、スケルトン状態の「ニューヨーク グリル」(左)、「ピーク ラウンジ」(右)。よく見ると、ニューヨーク グリルの奥の壁面に、運びだすのが不可能だったヴァレリオ・アダミの象徴的なアートが養生されている。

ホテルの静けさを喜びへと導くデザインを

ジュアン マンクはパリを拠点とするデザインスタジオである。今回はコンペによりリニューアル部分のデザインを担うことになった。

「丹下健三の建築作品の中に位置し、ジョン・モーフォードによってデザインされたPHTは、世界のホテルシーンのなかでも唯一無二の存在となっています。このホテルをデザインする際、まず大切にしたのは、単なる機能性の向上ではなく、ここでの体験をより深遠なものにしていくことでした」

そう話すのは、ジュアン マンクのデザイナーであるパトリック・ジュアン氏だ。彼はPHTというホテルに滞在する意味を、ある芸術作品を引き合いに出して語った。

「ドイツのガスパー・ダーヴィト=フリードリヒの作品に“雲海の上の旅人”という絵画があります。雲海の上にひとりの人物が背中を向けて立ち、遠くを眺めているのですが、眺望に遮るもののない高層ホテルにいるPHTのゲストは、いわば誰もがこの雲海の上の旅人であると思いました。ひとり静かに雲海の上に立つことで、自分自身を見つめる機会を得ます。つまりここは、自分自身と向き合い、内省を可能にする稀有なホテルだと思っています。そしてこの静けさの探求を、幸福や喜びへと導きたいと考えたのです」

「内省を可能とする静けさが向かう先が、孤独ではなく喜びにしたい」と語るジュアン氏。デザイナーがホテルの根幹を見つめて導いた答えは、抑制されたリニューアルのデザイン空間に、いくつもちりばめられている。

例えば新しくなった「ピーク ラウンジ」の調度品は、直線で構成されたオリジナルに対し、やわらかなカーブに安らぎを得るが、デザインが変わったというのに驚くほど違和感がなく、変化に気づかないゲストも多いという。客室もジュアン マンクにより刷新されたが、寛ぐ時、身支度をする時など、何をどこでするとストレスフリーで心地よいか、まるでデザインというメッセージが導いてくれるようだ。感情のつまづきが起こらないことが、いかに心地よさに通じるかを再確認させてくれるのである。

ピーク ラウンジ & バー

リニューアル前にゲストが抱いていたもの

ジュアン マンクによる新しいデザインと、三十数年前に生まれたインテリアの調和。このリニューアルに日々対峙しているのが、現場のトップであるフレデリック・ハーフォース総支配人だ。

「私は25年間ハイアットに在籍しているからこそ、PHTがグループでどんな存在であり、どういう歴史を歩んできたホテルかを理解しています。ここは象徴的なホテルゆえ、何が変わるのか、私自身も大変興味があって楽しみでもあり、同時に少しの不安も伴っていました。それはきっと多くの人と同じ気持ちだったと思います」

そう素直に心情を話すハーフォース氏は、また数多くのゲストやメディアの思いを受け止める役目も担っていた。

「お客様には“一部は変わりますが、ほとんどは変わりません。(変更箇所は)主に客室のデザインの予定です”と方向性をお伝えし、安心していただくよう努めました。それでも例えばヘアサロンで“少しだけ切ってください”と言ったら、思った以上に髪を切られてしまうことはありますよね。そんな不安に似ているものをお客様たちも抱いていたのではないでしょうか。

しかし、再オープン後は“ほとんど同じだ”“雰囲気がとてもよく似ている”というお声をいただきました。実際に客室で時間を過ごした方々からは、“以前ととても似ているけれど、より快適になった”という感想もいただいております。今回のリニューアルを例えるなら、クラシックカーの修復のようなものです。シートやステレオ、タイヤを新しくし、磨きをかける。しかしクラシックカーであることは変わらないのです」

エゴのない個性が結実し道となる

DNAを活かす、静けさという個性を保ちながら喜びへ導く、クラシックカーの修復……。立場は違えど、PHTのリニューアルという大きな節目を経験した中心人物たちは、同根の意思を抱いているのがわかる。共通するのは、誰もが個性はあるがエゴがない、ということではないだろうか。

成功したホテルの歩みを、オリジナルのデザインを、そしてゲストをはじめとするホテルを愛する人たちを尊重しながら、利益や効率第一ではなく、よいホテルの実現に向けて進んでいく。だからこそ紡がれたリニューアルの物語なのだろう。それは他でもない、このホテルが持っていた確かなスタイルという、根拠ありきで成し得たものだといえないか。小倉社長はこう話す。

「結果論として、30年の間にいただいた評価が、よいホテルの定義と重なってきたのだと思っています。“こういうホテルがよいホテルだ”という明確な見通しがあってスタートしたわけではありません。、丹下健三先生、ジョン・モーフォードさんやオペレーションのメンバーとともにつくり上げた文化というものが、本当に素晴らしい方向性を持っていたのだと思います。そこからお客様の評価が我々をさらに磨き上げてくれて、PHTなりのよいホテルというモデルができあがっていきました。

それが振り返ってみると、よいホテルのひとつの姿となっていったのではないでしょうか。高村光太郎の詩で、“僕の前に道はない。僕の後ろに道は出来る”という一節があります。このホテルも、きっとそういう姿なんだろうなと思います。一生懸命歩んできたら、いつのまにか自分の後ろに1本の道ができていたのだと……」

唯一無二や不世出と謳われるレジェンダリーなホテル、パーク ハイアット 東京。その革新的な道程と新たに生まれ変わったホテルの姿は、エゴを超えた先にある、努力の結実だったのである。

New York Grill & Bar/ニューヨーク グリル & バー

最上階にあるシグニチャーレストラン&バー。ホテルのファインダイニングにオープンキッチンやカリフォルニア主体のワインセレクションなどの革新をもたらした。窓際の席はプロポーズに利用されることも多いとか。プレゼントする花束はワインセラーで預かってくれる粋な演出も。バーでは毎夜、ジャズライヴが行われており、今回のリニューアルでは新たにステージが設置された。

The Peak Lounge & Bar/ピーク ラウンジ & バー

ピーク ラウンジ & バー
2階のエントランスからエレベーターで41階の「ピーク ラウンジ」に到着するシーンは、「アライバル・エクスペリエンス」を大事にしているホテルのひとつの象徴といえる。また公共スペースで最も変化があったのがこのエリア。手がけたデザインスタジオ、ジュアン マンクは、ベージュを主体にしたソファやチェアなどに曲線を用い、印象的にデザインしている。竹の植栽は変わらないが、新しく植え替えた。

Club On The Park/クラブ オン ザ パーク

Library/ライブラリー

チェックインのレセプションに向かう途中にあるライブラリーは、パーク ハイアット 東京の象徴的景色でもある。両脇に並べられた本は、すべてをジョン・モーフォードがセレクトしたもの。またそれだけでなく、並べ方も彼が決めているという。宿泊者には貸出しも対応しており、部屋でゆっくり読むこともできる。

Art/アート

Shinjuku Park Tower/新宿パークタワー

日本人として初めて、建築のノーベル賞といわれているプリツカー賞を受賞した丹下健三によるパークタワー。PHTはこの最上部に位置する。同じく丹下建築の都庁に比べると、ファサードはほのかに赤みを持つ。これはイタリア、サルディーニャ島の石を採用しているからで、夕暮れに照らされると、ことのほか美しい。

Girandole by Alain Ducasse/ジランドール by アラン デュカス

オールデイダイニングの「ジランドール」から、フレンチブラッセリーの「ジランドール by アラン デュカス」へと生まれ変わった。ホテル初のコラボレーションとなる。ランチやディナーだけでなく、宿泊者への朝食も提供する。ジュアン マンクにより、中央に大きなカウンター、サイドにベンチソファが出現。

Kozue/梢

40階の日本料理レストラン「梢」も、デザインは変わっていない。吹き抜けとアートで構成されたダイナミックな空間に負けないよう、器も大ぶりのもので提供した後に取り分けるプレゼンテーションは、開業当時の和食では一般的ではなかったスタイルだ。西に大きく開口部があり、快晴の日は富士山を望む。

Guest Room/客室

今回のリニューアルで最も変わったところが客室。グリーンやブラックというオリジナルデザインの基調カラーや越前谷嘉高の作品、イサム・ノグチの照明、タイサンボクの葉などのアートやインテリアを踏襲しつつも、よりやわらかなデザインで、寛げる空間となっている。客室は全部で177室から171室になった。

Park Hyatt Tokyo/パーク ハイアット 東京
住所:東京都新宿区西新宿3-7-1-2
TEL:03-5322-1234
施設:客室171室(スイート29室含む)、グリルレストラン、日本料理、フレンチブラッセリー、バー&ラウンジ、ペストリーブティック、スパ&フィットネス、イベントスペースほか
※スイートルームのニーズ拡大に応え、リニューアルを機に「パーク スイート」を増設した。1階にある「デリカテッセン」は今後オープン予定。

小倉太郎

小倉太郎/Taro Ogura
パークタワーホテル代表取締役社長。1988年に東京ガス入社。エンジニアとしてキャリアを積んだ後に、2023年より現職。リニューアルプロジェクトの中盤以降からリオープンという重要な期間にトップを務める。「初の事業だからこそ選んだパートナーを信頼し委ねました」

パトリック・ジュアン

パトリック・ジュアン/Partrick Jouin
フランス・パリを拠点とし、2006年に設立されたデザインスタジオ、ジュアン マンクの創業者でデザイナー。代表作はモロッコ・マラケシュのラグジュアリーホテル、ラ・マムーニアやパリのモンパルナス駅再開発プロジェクトなど。「ホテルの持つ静寂を孤独ではなく喜びへと導きたい」

フレデリック・ハーフォース

フレデリック・ハーフォース/Fredrik Harfors
パーク ハイアット 東京 総支配人。スウェーデン出身。2001年ハイアット リージェンシー シカゴに入社以来ハイアット ホテルズ コーポレーションで経験を積み、パーク ハイアット ジャカルタ総支配人を経て2023年より現職。「リニューアルはクラシックカーの修復のようです」

【特集 最先端ラグジュアリーホテル】

この記事はGOETHE 2026年5月号「総力特集:HOTEL 動と静の最新リカバリー拠点」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

TEXT=田中敏恵(キミテラス) ILLUSTRATION=うえむらのぶこ

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