CAR

2025.08.02

最後のマニュアル!? ポルシェ911・カレラTに試乗

現行型ポルシェ911(タイプ992)が、後期型、通称タイプ992.2へとモデルチェンジした。ポルシェ911カレラシリーズの中で唯一、MT(マニュアル・トランスミッション)を選べるのがカレラTだ。あえていまMTを用意する、その存在意義を確かめた。

カレラT白

カレラの軽量&マニュアルトランスミッション仕様

ポルシェ911ほどバリエーションの豊富なスポーツカーはそうない。ベースのカレラにはじまり、カレラS、カレラGTS、これらに2WDと4WDがあり、ボディバリエーションにクーペとカブリオレとタルガがある。さらにハイパフォーマンスモデルであるターボやGT3などが加わる。モデル数としてはトータルで20を超える。

そうしたなか911のカレラシリーズで唯一、MT(マニュアル・トランスミッション)を設定しているのがカレラTだ。カレラTのルーツは、初代911に設定されたツーリングカーレースのベース車両「911T」で、Tは“ツーリング”を意味する。

現代にTのグレードが復活したのは先代の991の世代で、カレラをベースに軽量化を施し、スポーツシャシーなどで走行性能を高めるといった、よりシンプルに走る楽しさを追求するという911Tのコンセプトを受け継いでいる。

991の時代にはベースのカレラにもMTの設定があったが、992の世代になるとカレラにはMTの設定がなくなった。カレラTはそれを補う役割を担う。ちなみに992の前期型ではカレラGTSにもMTがあったのだが、後期型のカレラGTSがハイブリッドシステムを搭載したことでPDK(AT)のみの設定に。かくしてカレラTは911カレラシリーズ唯一のMT車になった。

カブリオレモデル
サイドのデカールがなければ、カレラとの見分けがつかないベーシックなスタイリングのカレラT。ルーフラインは初代911から変わることなく受け継がれている。

911にも押し寄せるデジタル化の波

エクステリアデザインは、ベースのカレラに準じたもので、ボディサイドの“Carrera T”のデカールがなければ(ちなみにレスオプションも選択可能)見分けがつかない。前期型と後期型の違いは、フロントバンパーからLEDドライビングライトがなくなりシンプルな顔つきになった。後期型ではその機能はヘッドライトに一体化されている。

後期型ではカレラTとして初めてカブリオレモデルが設定された。特に米国市場ではMT+カブリオレのニーズが高いという。

リアまわりでは、エンジンカバーにあたるリアグリルに配されたフィンの数が、左右に5枚ずつ、計10枚と前期型よりも減少。そして、リアグリルとリアウインドウとが面一に見えるようになった。また、テールランプはポルシェのロゴを囲い込むようなデザインに変更されている。

インテリアデザインも基本的に前期型を踏襲するが、ハイブリッド化したカレラGTSへの対応もありデジタル化が進んだ。911は伝統的にエンジン始動時には鍵を、キーレスになった近年はノブをひねるという所作を踏襲してきたが、それが一般的なスタート/ストップボタン式になった。またメーターパネルに唯一残されていた中央のアナログ計がなくなり、12.6インチのフルデジタルディスプレイになった。全面をナビゲーションの画面にするなど7種類の表示から選択可能だ。

インテリアデザインは基本的に前期型を踏襲するがデジタル化が進んだ。メーターパネルはフルデジタルディスプレイに。エンジンの始動はスタート/ストップボタン式になった。ハザードやエアコンの操作などには物理スイッチが残されている。

エンジンは3リッター水平対向6気筒ツインターボで前期型から変更はない。これをベースに、冷却性能をアップするために前期型ターボモデル用のインタークーラーを採用。そしてタービンは前期型GTS用のものに置き換えられた。これはパワーアップを目的としたものではなく年々厳しくなるエミッション対策で、補機類の改良によって効率を高めることでCO2排出量等の規制をクリアしている。したがって最高出力は394PSと前期型に比べてわずか9PSのアップで、最大トルクにいたっては450Nmと変更はない。

スペック上の違いはほんのわずかだが、それでも前期型と後期型とを乗り比べてみると、明らかに発進時のトルクのつきがよくなっていると感じた。渋滞の中をのろのろと走行するようなシーンでもぎくしゃくすることはなく、またその気になれば7000回転オーバーまできっちりとまわってパワーを開放し、水平対向6気筒らしい音を響かせる。

注目のMTは前期型が7速だったのに対して6速になった。なぜ新しくなってギアの数が減るのかと言われそうだが実のところ7速はシフトの操作性に課題があった。ポルシェはシフトもしやすくなるし、性能もほぼ変わらず、軽量化もできるということで6速化を選択したようだ。

サイドウインドウには、6速のマニュアル・トランスミッションであることを示す丸いステッカーが。

ポルシェがMTをやめない理由とは

シフトレバーは前期型がレザー巻きだったのに対して後期型はウォールナットのプライウッドを球状に仕上げたものになった。これは2000年代につくられたスーパーカー「カレラGT」が木製のシフトレバーを採用していたことにヒントを得たもの。そもそもは1960年代後半のレーシングカー「ポルシェ917」が軽量化のために木製のシフトレバーを採用したことに対するオマージュだという。シフトフィールは、剛性感が高く、適度なストロークで、6速化の効果もあってコクコクと節度感のある気持ちがいいものだ。

ウォールナットのプライウッドを球状に仕上げたシフトノブ。2000年代のスーパースポーツ・カレラGTをオマージュしたもの。貴重な存在であることをMTというバッヂで強調している。

カレラTは、遮音材の削減、ウインドウの軽量化、リアシートの取り外し(オプションで装着可能)などによって、ベースのカレラ比で40kg以上の軽量化を実現している。そしてスポーツクロノパッケージや、車高を10mm低めたPASMアダプティブスポーツサスペンション、後輪操舵のリアアクスルステアなどを標準装備する。コーナーではまるでボディが小さくなったかと感じるくらいの回頭性をみせる。スポーツエグゾーストを標準装備しているため、大きめのエキゾーストノートが室内に飛び込んでくる。デート向きではないかもしれないが、ひとりドライブを楽しむにはいい雰囲気だ。

PASMアダプティブスポーツサスペンションによって車高は10mm低くなっている。タイヤサイズもカレラに比べて1インチアップのフロント20インチ、リア21インチとなる。またブレーキも強化されている。

実はメーカー発表のスペックを見ると、エンジンおよび出力はカレラと同一のもの。それでいて0-100km/h加速タイムはカレラが4.1秒なのに対してカレラTは4.5秒。PDK(AT)のほうがコンマ4秒も速いのだ。もはや人力の操作では最新のATには敵わない。

そんなことはみんなわかっていて、いまやフェラーリやランボルギーニにMTの市販車はない。究極のスピードを競うF1だってATだ。日本の自動車市場におけるMT車の割合は約1%という。ではなぜポルシェはMTをやめないのか。

本音をいえばポルシェもやめたいのかもしれない。しかし、市場にはまだ911にMTを期待する一定のニーズが存在する。そして911というモデルを60年以上にわたってつくり続けてきた矜持がある。機械式時計やフィルムカメラやレコードがなくならないように、MTにも愛好家がいる。ステアリングとシフトノブと足元の3つのペダル操作がシンクロし、自分のイメージ通りにクルマが動いたときの気持ちよさは、絶対的なスピードでは得られないものなのだ。

TEXT=藤野太一

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