年間1000本以上の企画を生みだす人気放送作家、枡本壮志氏にとって、クリエイティブの源泉になっているのが、築地での朝食。なかでもとっておきの3軒を紹介してもらった。【#特集 心震えるS級グルメ】

築地での朝食がクリエイティビティを刺激する
家が近いこともあり、20年以上前、市場が豊洲に移る前から築地に通っているという桝本壮志氏。もっとも朝食を目当てに訪れるようになったのは、ここ2、3年のことだとか。
「コロナを境にテレビ業界に働き方改革が起こり、打ち合わせや会議が夜から日中主体になったのを機に、僕も朝型に変わりました。築地は早朝からやっている店が多いし、テレビ局にも近い。ここで朝食をしっかりとり、脳を活性化させてから局に向かうというのが、最近のルーティーンになっています」
今回紹介してくれた3軒は、知人の紹介やネットの情報などではなく、自らの足で探したもの。
「僕は、築地の醍醐味は路地にあると思っています。あてもなく細い路地へと踏み入ると、いい感じの看板があって、それに釣られてふらっと入ると、おいしいものに出会えるんですよ。しかも、メイン通りはインバウンドで賑わっていて異国感があるけれど、路地は古き良き昭和が色濃く残っている。このギャップも頭を整えてくれるんです。外国人が日本の何に惹かれているかも感じられ、クリエイティビティも刺激されます」
桝本壮志の築地のS級グルメ3選
1.店主夫婦の仲の良さも名物
幸軒「ラーメン&しゅうまい」

「築地は店名の読み方に迷う店が多くて、ここもそのひとつ。何年も通っているのに“こうけん”なのか“さちけん”なのか、いまだに知りません。しかも、場所がわかりにくい。初めてだと、たどり着けないんじゃないかな」
そんな“幻の名店”が、昭和25年から営業を続けている「幸軒(さいわいけん)」。位置するのは、築地中通りのお茶専門店と海鮮問屋に挟まれた路地の中ほど。この先に店が連なっているとは思えないくらい細い道を、いささか不安を抱えながら進んでいくと、オレンジの地に黒字で「つきじ 幸軒」と書かれた看板と黄色いのれんが見えてくる。
看板メニューは、創業当時から変わらぬ味の「ラーメン」と大ぶりの「しゅうまい」。「ラーメン」にはチャーシューのほかにしなちくとさやえんどうが添えてあり、「しゅうまい」は一口では食べられないほどビッグサイズだ。

「『ラーメン』はあっさりしたやさしい味で、朝にちょうどいい。『しゅうまい』は口に入れるとほろほろっとほどけて、肉のうまみが口に広がります」
桝本氏がこの店を愛する理由は、店主夫婦の人柄にもある。
「おふたりの掛け合いが楽しくて、仲の良さが伝わってくるのもいいんですよ。会計はいつもご主人なんですが、奥さんが『うちのコンピューターにおまかせ』って(笑)。このやりとりに朝から幸せな気持ちになれます」
2.海鮮の街、築地で食す本格カレー
東印度カレー商会 築地場外店「マグロカツカレー」

目黒・不動前で人気を博す「東印度咖哩商会」が、2011年、築地場外に支店をオープン。本店でもおなじみの大きめ野菜がゴロッと入った「上上野菜カレー」や、野菜に加えて大きな豚肉も添えられた「上上豚カレー」のほか、築地限定メニューの「マグロカツカレー」も味わえる。
「築地といえば海鮮というイメージがあるかもしれませんが、実はラーメンやカレーの店も充実しています。市場関係者は、外では海鮮以外のものを食べたくなるからでしょうね。
この店は朝活するようになってから見つけたんですが、とにかく気前がいい。ライスは大盛りで、ルーは無料でおかわりできて、福神漬けや梅干しなどのトッピングもセルフで取り放題。『カレー炊き込みのおにぎり』という珍しいメニューもあって、こちらもおすすめです」
店があるのは、「幸軒」が入るビルの2階。細くて急な階段の先という、これまたディープな場所にある。そのせいか、「幸軒」同様、インバウンド客の姿はほぼ見受けられない。観光地然としたメインストリートとは異なる“地元感”も、桝本氏の脳にスイッチを入れてくれるのだろう。
「ビールケースに天板をのせてイス代わりにするなど、店内はどこか昭和の雰囲気が漂っています。この雰囲気が似合うのも築地ならではですね」
3.市場と共に歩んできた老舗中の老舗
築地 鳥藤 本店「鶏皮の串&フライドチキン」

明治40年、浅草六区で野鳥・鶏肉及び鶏卵卸問屋、鳥料理屋として創業した「鳥藤」。大正12年、関東大震災で店舗が焼失したのを機に日本橋魚河岸に移転し、昭和10年に築地中央卸売市場が正式に開場すると本店を築地に移すなど、市場とともに歩んできた老舗中の老舗だ。現在は、東京しゃもや名古屋コーチンといった地鶏や銘柄鶏をはじめ、日本全国から鶏や鴨を仕入れ、自社で解体処理を行って販売。生肉以外にも、惣菜や弁当なども扱っている。
「昔から老舗と呼ばれる店が好きでしたが、最近それに拍車がかかり、創業年が古い店が最優先。きっかけになったのは、夏目漱石も通ったという早稲田の鰻屋『すず金』の2020年の閉店。トレンドを追うマインドだった時もありますが、100年以上骨太に営業を続けてきた店も永遠ではないということを実感し、『今行っておかなければ』という気持ちになったんですよね」
老舗を巡っているうちに気づいたのは、「どの店にも長く続く理由というか“土台”がある」ということ。
「味もさることながら、“代”が途切れない人間関係が築かれているんですよ。『鳥藤』もすでに四代目が切り盛りしているそうですが、それも家族仲がいいからこそ。老舗は、親の背中を見て子供が跡を継ごうと決め、若いうちから修行するみたいなシステムができているんでしょうね。そうした温かさみたいなものが感じられるのも、老舗の良さだと思います」
「幸軒」でラーメンとしゅうまいを食した後、「鳥藤」で串もの数本と「フライドチキン」を買い、最寄り駅まで食べながら歩くこともあるという桝本氏。“老舗ホッピング”は、伝統が持つパワーをチャージできる極上の楽しみ方だ。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。「令和ロマン」をはじめ、教え子は1万人以上。新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中! 桝本壮志へのお悩み相談はコチラまで。

