ステータスシンボルとして栄えた昭和の熱海の面影を色濃く残す、2軒の老舗。時代を経ても変わらない繁盛店を目指して、大人の遠足へ。【特集 偏愛リゾート軽井沢&熱海】

古今繁盛物語
昭和100年という言葉を耳にするたび、その激動の時代を生きた人々の歩みには畏敬の念を抱かずにはいられない。日本人の生活様式が大きく変化するなかで、一途に変わらない味を守り続けている老舗レストランにも敬服するばかり。
誰もが自由に情報を得られるようになった今、その利便性とはウラハラに温かみに満ちた昭和レトロな世界に注目が集まっている。“東洋のナポリ”、“日本のハワイ”と呼ばれ、隆盛を極めた熱海にも、時の移り変わりを見守り続けてきた老舗がある。地元はもちろん、県外から常連客も足繁く通う2軒の繁盛店の今を訪ねてみた。
多くの文豪に愛された洋食店に根ざす真の粋
熱海銀座の渚町でひときわハイカラな雰囲気を漂わせる「レストランスコット」。初代は戦前、上野「精養軒」や横浜「ホテルニューグランド」で腕を磨いた。戦時中はインドネシアの将校を接待するコックに抜擢されるほどの非凡な腕前を披露し、1946年に自身の店を開くと、当時熱海で執筆活動に勤しんでいた志賀直哉や谷崎潤一郎といった名だたる文士が頻繁に訪れるように。
昭和を代表する洋画家、佐野繁次郎の手ほどきで2代目店主の妹がクレヨンで描いたという文字がなんとも愛らしいプレートに盛られたビーフシチューは、深いコクと優しい甘みが一体となっており、この店をそのまま体現したような味わいだ。現在は昼夜ともに予約不可。ひとり客でも相席にはせず、ゆっくりと食事を楽しんでもらいたいという心遣いにも粋を感じる。
熱海を代表する中華の繊細な仕事が美味を生む
そして、熱海といえば1978年の創業時から食通に愛され続ける「中国菜室 壹番」を忘れてはならない。華やかな上海租界をイメージした空間は開業時から“別荘族”が詰め寄せ、舌の肥えた著名人らが「日本一の餃子」と大絶賛したことからその知名度は全国区になった。
味の探求を重ね、薄皮に仕上げるため生地は6gに。餡には口当たりをなめらかにするためラードを加えてしっかり手でこね、キャベツは青臭さを取り除くため一度、熱湯で茹でるという細やかさ。焼きの工程で使う鶏ガラなどを炊いたスープには、柿田川の名水を用いるなど“日本一のプライド”は健在。昭和の誇りは、いつまでも色褪せることはない。
1.レストラン スコット|日本の折り目正しき洋食文化に浪漫を求めて
東京の洋食店で腕を磨き、家業を継いだ三代目の蓮見健介氏が、1946年創業の味を受け継ぐ。看板の文字は’30年代に渡仏しアンリ・マティスに師事した洋画家、佐野繁次郎ゆかりのもの。
レストラン スコット/Restaurant Scott
住所:静岡県熱海市渚町10-13
TEL:050-5303-4487
営業時間:12:00〜13:30、17:00〜19:00(最終入店)
定休日:木曜
座席数:37席
2.中国菜室 壹番|「日本一」の呼び名も高い名物餃子は熱海にあり
熱海駅から徒歩7〜8分ほどの場所にある「壹番」。松田時彦氏が厨房に立ち、長く愛される味を支える。昼は記帳制、夜は予約必須のため、電話またはInstagramのDMで早めに連絡を。
中国菜室 壹番/Chuugokusaishitsu Ichiban
住所:静岡県熱海市咲見町7-48 咲見ハイツ1F
TEL:0557-83-4075
営業時間:11:30〜14:00、17:00〜20:00 ※夜は全予約制
定休日:木曜
座席数:30席
この記事はGOETHE 2026年7月号「総力特集:偏愛リゾート最前線!」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら











