2+2クーペのフェラーリ・アマルフィーに、ソフトトップを備えたスパイダーが加わった。ギリシアの地中海沿いのワインディングロードで開催された試乗会では、その完成度の高さに驚かされた。

アルマーニのジャケットのような乗り心地
フェラーリがアマルフィ・スパイダーのテストドライブの場に選んだのは、アテネ国際空港からクルマで約1時間の地中海に面したビーチリゾート。アマルフィという車名は世界遺産にも登録された南イタリアの海沿いの景勝地に由来するから、地中海沿いのワインディングロードは試乗コースにふさわしいだろう。
イタリア語で“夕暮れの赤”を意味する「Rosso Tramonto」という新しいボディカラーは、エレガントであるのと同時に温かみがあり、真紅やイエローのキリッとしたフェラーリとは異なる魅力を伝える。

スイッチを押して13.5秒で開閉する幌を開け、すでにバカンスのシーズンが始まっている市街地を走り出す。すると、信号待ちからの発進で、ルノー・クリオのドライバーがすれ違いざまにパパパン!と景気よくクラクションを鳴らした。何事かと驚いていると、運転席の窓が開いて鮮やかなタトゥーが彫られたぶっとい腕が現れ、サムズアップをプレゼントしてくれた。「めっちゃイケてるぜ!」というサインだと理解する。あるいは、熱狂的なスクーデリア・フェラーリのファン、いわゆるティフォシかもしれない。
いずれにせよ、フェラーリのオープンカーをねたむのではなく、格好いいと称賛するメンタリティが清々しい。素晴らしいものに対して素直に拍手を贈る文化が、魅力的なスーパーカーを生み出すのかもしれないと、余計なことを考えた。

借り物ではあるけれど、クルマ好きだとおぼしき青年からほめられたことで気分がいい。そしてこの機嫌のよさを差し引いても、アマルフィ・スパイダーの乗り心地のよさは圧倒的だ。「スポーツカーにしては乗り心地がいい」という条件付きの快適さではなく、世界中の高級パーソナルクーペと真っ向勝負ができる快適さだ。明らかに路面が荒れている箇所を強行突破しても、「タン、タン、タン」と涼しい顔でやり過ごす。
乗り心地と同じように心地よいのが、ステアリングホイールやブレーキペダルを操作したときの繊細で滑らかなタッチだ。ゴワゴワしたところが一切ないしなやかな手ざわりは、ジョルジオ アルマーニのアンコンのジャケットを羽織る感じに似ているかもしれない。
フェラーリというと、運転のエキスパートが乗るものだと身構えてしまう方もいるかもしれない。けれどもこのアマルフィ・スパイダーに関しては、そうした心配は無用だ。クルマが好きな人、運転を楽しむマインドをお持ちの方であれば、どんな人でも温かくもてなしてくれる。

ビギナーからベテランまで、間口が広くて奥が深い
幌を開けた状態で制限速度120km/hの高速道路に上がると、少し風を巻き込むようになる。そこでスイッチを操作して、空気の流れを整えるウインドディフレクターを立ち上げると、見事に巻き込みが収まる。空気の流れがおもしろいほど劇的に変化するので、今度はウインドディフレクターを下ろしてみると、巻き込んだ風で髪の毛が乱れた。
要はウインドディフレクターの効果がてきめんということで、オープンの状態で風の邪魔が入ることなく陽光や地中海の潮の香りを楽しむことができる。まさに太陽がいっぱいだ。
高速道路でも乗り心地はスムーズ。試乗の終盤に幌を閉じた状態での高速クルーズを試したところ、ソフトトップであることが信じられないほど静かだったから、このクルマはグランドツアラーとしての資質も備えている。
ちなみにソフトトップは5重構造のファブリックで、フェラーリがこれまで手がけてきた格納式ハードトップと同等の遮音性と断熱性を確保しているという。

フェラーリが用意したテストコースの後半は、かなり歯ごたえのあるワインディングロード。ここで、「マネッティーノ」と呼ばれるドライブモードを「Comfort」から「Sport」にシフトすると、クルマのキャラクターが一変する。足まわりが引き締まり、ステアリングホイールの手応えとアクセル操作に対するレスポンスがシャープになるから、クルマがひとまわりコンパクトになったかのような錯覚を覚える。
パドルシフトを駆使して排気量3.9ℓのV型8気筒ツインターボエンジンを高回転まで回すと、エグゾーストノートが低音の効いた音から「カーン」という乾いた快音に変化する。この変化の過程がドラマチックで、しかも屋根がないアマルフィ・スパイダーは排気音がダイレクトに鼓膜を震わせるから、背筋がぞくぞくするような興奮をおぼえる。

フロントミッドシップ、つまりエンジンを前輪の軸より後ろに配置するレイアウトから鼻先は軽く、ハンドル操作に応えてスパッと素直に向きを変えてくれる。
市街地や高速道路では、誰にでも親切な“みんなのフェラーリ”という印象を受けたけれど、「Sport」モードでアグレッシブにドライブすると、このクルマがF1につながっていることが体感できる。甘く危険な香りがする。
一般に、間口が広くて敷居が低いものは、底が浅いと思われがちだ。けれどもアマルフィ・スパイダーは、入門しやすいだけでなく奥も深い。初めてフェラーリに乗る方も楽しめるだろうし、サーキット走行の醍醐味を知る方が普段使いをするのにもいい。

そしてスポーティに走らせる場面でも、ステアリングホイールやブレーキペダルのタッチが繊細でしなやかなことには変わりがない。このあたりがエモいというか、エロいというか、フェラーリはやはり官能的だ。そしてアマルフィ・スパイダーは、乗り心地がカタいとかうるさいとか、そうしたヤセ我慢を一切せずに、官能だけを味わわせてくれる。
鬱屈した日々を過ごしたドイツを離れてイタリアを旅した文豪ゲーテは、『イタリア紀行』にこう記している。
「北国の空に比べれば、空気はいっそう暖かであり清浄であり、空はいっそう青く晴れ渡り、人々の顔には曇りなく、なつかしそうで、いっそう生き生きとしていてまた誘惑的である」
そしてゲーテは、「ナポリを見て死ね」という言葉を残した。同じように、アマルフィ・スパイダーをドライブすることで、生きているうちに一度はフェラーリを経験したいと強く思わされた。

全長×全幅×全高:4660×1974×1305mm
パワートレイン:3.9ℓ V型8気筒ツインターボ
トランスミッション:8段デュアルクラッチF1 DCT
駆動方式: 後輪駆動
最高出力:640ps/7500rpm
最大トルク:760Nm/3000〜5750rpm
価格:¥40,610,000(税込)~
問い合わせ
フェラーリ・ジャパン https://www.ferrari.com/ja-JP/auto/ferrari-amalfi-spider
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。

