PERSON

2024.03.02

高橋大輔が抱くカンパニー設立の夢。世界のメダル無くとも、スケートを仕事にできる時代に

フィギュアスケートの魅力をもっと多くの人に届けるため、そして、競技者としてトップにいくのは難しいけれどプロを目指したいというスケーターのため、フィギュアスケーター・高橋大輔は少しずつ動き出している。インタビュー連載第4回は、高橋が考えるアイスショーをベースにしたエンターテインメント構想について。【その他の記事はこちら】

高橋大輔

今のスケート競技は“同じことをしているように見える”

高橋大輔は、現役時代からあらゆる面で「スケーターの自分」ができることに尽くしてきた。倉敷や大阪のリンクが閉鎖の危機に陥った時は、署名活動などに協力。東日本大震災の時も世界選手権を控えながらもいち早く行動し、復興を願ったチャリティ演技会を立ち上げた。それは、トップスケーターとしての責務ではなく、高橋大輔という一人の人間としてやってきたことだ。そして2度の引退を経た今、再び、フィギュアスケートの可能性を広げるために動き出している。

「フィギュアスケートも然りで、基本的にスポーツは、試合で勝たないとメディアで取り上げてもらえません。でも今は、情報源がテレビや新聞からSNSなどに変わってきている過渡期にあると感じています。そう考えると、自分が今、『滑走屋』(高橋自身がプロデュースしたアイスショー。2024年2月に福岡で開催)でやろうとしているような、あまり興味がない人にも『ちょっと行ってみようかな』と思ってもらうやり方や、特定のスケーターのファンというより、スケートそのものが面白いと思ってくれる人を増やすことが必要かなと思っています」

一般的に、フィギュアスケートを目にするとしたらテレビの放送だ。しかし、テレビで見て強く印象に残った演技でも点数が出なかったりと、採点競技ならではのわかりにくさがある。そして選手側にとっても、現在のルールは点数を稼ぐために独創性を犠牲にせざるを得ない、技術寄りの演技構成になってしまうことが多い。

「今のルールは細かすぎると感じています。『点数を取るためにこの技をしなければいけない』『この技をした後にこの動きをしないと点数を稼げない』となっていることが多く、外から見ていて“みんな同じことをしている”と感じることも少なくありません。

一つ一つの技に細かく点数をつけなければならないことは理解しています。でも、せっかく2つのプログラムがあるので、ショートプログラムは技術を細かく採点して、フリープログラムはもっと独創性を自由に表現できるようにすればいいのに、と個人的には考えていて。人が評価をつけるスポーツって、演技する側もジャッジする側も、それぞれ違うからこそ面白いのではと思います」

アイスショーの価格や形態をどんどん変えていく

もちろん、世界のトップ選手には、高橋のように技術と芸術性の両方を兼ね備える選手もいる。今の現役選手では、宇野昌磨や鍵山優真がそうだ。しかし、競技となると、どうしても高難易度のジャンプや点数が稼げる技術面に集中してしまうことは否めない。そのことを考えるたびに、思い出す話があると高橋は言う。

「昔、バレエも“テクニック”に走ったらファンが離れていったけど、再び“表現”を重視するようになったらファンが戻ってきたという話を聞いたことがあります。フィギュアスケートをエンターテインメントとして見た時に、スケーターは年齢が上がるにつれてジャンプが跳べなくなっていくけれど、スケーティングや表現力の部分は努力次第でどんどんレベルアップしていきます。結果、プロになって長くスケートをしたい、ずっと見てもらえるスケーターになりたいのなら、基礎がしっかりしていないと表舞台には長く立てない。そういった意味で、現役のトップを目指すのも大事ですけど、一方で、プロを目指したいスケーターを教育していく場所があってもいいのかなと考えています」

現在、フィギュアスケート選手がプロになってアイスショーだけで食べていくには、世界のメダルが必要だ。日本にはプリンスアイスワールドという日本唯一のアイスショーチームがあるが、そこも無限にメンバーを増やせるわけではない。ジャンプは苦手だけど音楽を表現することが好き、プロになって魅せるスケートがしたいと思うスケーターが、スケートを仕事にできる可能性を広げたい。その高橋の思いが「滑走屋」や、彼の夢であるカンパニー設立の構想につながっていく。

「今、(浅田)真央も自分のアイスショーをやっていて、真央のリンクも今度、建つ予定です。将来的にはそこを拠点とした真央のカンパニーがあったり、別のところには僕のカンパニーがあったりして。『私はこのカンパニーに入りたい』という選択肢があれば、もっと長くスケートをしていくことが目指せるのではないかなって。その第一歩として、まずは僕らがアイスショーのチケット価格や形態などをどんどん変えていかないといけない、そう思っています」

スケーターの人気に甘えず、スケートの魅力でファンを増やしていく。2024年2月10日から12日まで福岡で開催された「滑走屋」は、テレビや広告、SNSの反応を見て興味を持った地元の方も多く見にきていて、迫力あるスケートの魅力を存分に楽しんでいた。高橋のビジョンは順調に、第一歩を踏み出だしたようだ。

「カンパニー設立はまだ、できるといいなと思っている段階です。とりあえず言っておけば、賛同してくれる人が出てくるかも、みたいな(笑)。まずは声に出して言っていかないと。やりたいことがあっても、資金がないと絶対に無理じゃないですか。

そして、認めてもらうには実績も必要。今は“絶対”ではなく“できたらいいな”くらいですけど、やっていくうちにそういう形になっていけば最高ですね。ただ、そこに捉われすぎてもよくないので、寄り道をしながらいろいろやっていった先に、カンパニーの設立が叶えばと思っています」

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高橋大輔

「氷艶2024 −十字星のキセキ−」
日程:2024年6月8日(土)、9日(日)、10日(月)、11日(火)
会場:横浜アリーナ
主演・高橋大輔、演出・宮本亞門が再タッグを組み、スペシャルゲストアーティストにゆずを迎え、豪華キャストと共に現代版『銀河鉄道の夜』の世界を氷上で創り上げる。公演の詳細は公式ホームページまで。

高橋大輔/Daisuke Takahashi
1986年岡山県生まれ。2002年世界ジュニア選手権優勝。2010年バンクーバー五輪銅メダル、世界選手権優勝。2012年グランプリファイナル優勝(以上全て日本人男子初)。2006年トリノ五輪、2010年バンクーバー五輪、2014年ソチ五輪の3大会連続日本代表。男子シングル、アイスダンスの2つの競技で世界選手権に出場し、2023年引退。現在はプロスケーターとしてパフォーマンスをしつつ、アイスショーのプロデュース、マンションのリノベーション、寝具開発など様々なことに挑戦している。

TEXT=山本夢子

PHOTOGRAPH=矢吹健巳(W)

STYLING=折原美奈子

HAIR&MAKE-UP=宇田川恵司(heliotrope)

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