日本の蒸留酒の歴史が始まって、約500年。伝統をつなげていくためにその価値を追求し続ける造り手が、新たな蒸留酒文化を開花させている。今回は、尾鈴山蒸留所・黒木本店5代目の黒木信作氏に話を聞いた。【特集 弩級のSAKE】

1988年生まれ。宮崎県高鍋町の老舗焼酎蔵「黒木本店」5代目。尾鈴山蒸留所代表。明治大学を卒業後、フランスへ留学し、現地のワイン造りを学ぶ。帰国後に黒木本店、尾鈴山蒸留所に入蔵。農業法人「甦る大地の会」代表としても活動。
宮崎のこの地でしかつくれない、大地が香る酒造りを
日本ならではの新しい蒸留酒の可能性。その道を切り開き、伝統を進化させる造り手たちがいる。2024年“麹を使った伝統的酒造り”がユネスコ無形文化遺産に登録され、日本の酒造りへの注目が集まる今、日本の風土が育むプレミアムな蒸留酒が続々と生まれている。
そうした精神を持つ蔵のひとつが、「百年の孤独」など名焼酎を持つ黒木本店が、1998年に立ち上げた「尾鈴山蒸留所」だ。位置するのは、大小30あまりの瀑布(ばくふ)を擁するほど水が豊かな宮崎県児湯郡(こゆぐん)の山の奥深く。農業法人も持ち、原材料の生産から製造、肥料化までを一貫して行う循環型の蒸留所だ。
現在代表を務めるのは、5代目である黒木信作氏。造りだすのは“大地の香水”とたとえられるその地の材料が香る蒸留酒。造りの特徴は徹底した手作業だ。フランスでワイン造りを経験した黒木氏は、焼酎ならではの香りの表現を追求するなかで、木桶発酵や手造りの麹など、現在につながるスタイルをつくり上げた。その丁寧な目線は洋酒造りにも注がれ、2019年からウイスキーやジンの製造も行う。
「蒸留の技術も、材料さえも元は外国から伝わってきたもの。それが九州の風土と混ざり合い、独自の進化を遂げてきました。だからこそ、焼酎も現在の形が完成形だと思っていないですし、変化や挑戦を諦めたくない。焼酎の延長線上に、自分たちにしかできない新しい蒸留酒の可能性があると思っています」
黒木氏の挑戦を象徴する取り組みが、ウイスキー製造における麦芽づくりだ。大麦の発芽は、かつては職人が床にモルトを広げていたが、現在は機械によるモダンモルティングが、業界の主流となっている。その時代に逆行するように、尾鈴山蒸留所で行われるのは、手作業で麦芽を発芽させる“ハンドモルティング”という手法だ。手作業の麹づくりは焼酎で行ってきたこと。その方法で麦芽を発芽させようというのは自然な流れで発想したという。
またクラフトジンは、伝統的な手仕事でつくった本格焼酎に、地元の素材を中心としたボタニカルを漬けこんだもの。焼酎自体の香りが持つフルーティさと甘さが、他の素材と調和して、日本ならではのジンとして成立している。
「興味があるのは、この土地から生まれる香りを引きだすことです。ウイスキーであれば、どのやり方が自分たちの原料の香りを引きだせるか、それを考えながら、自分たちなりの答えを導きだしています」
現在は、ウイスキー用のポットスチルで蒸留した焼酎をつくりだすなど、和酒の新たな魅力も引きだしている。黒木氏には、挑戦と変化の先にこそ変わらない本質が生まれる、という信念がある。
「我々の業種は代々引き継いでいくもので伝統を大切にしていきますが、それと同時に新しいチャレンジの連続で、今があると思っています。焼酎にもスピリッツ全体にも、まだまだ可能性があると感じています」
その姿勢は国内外のクリエイターにも影響を与え、共鳴を生んでいる。2025年、韓国の俳優パク・ソジュン氏からの熱いリクエストでウイスキー「26」を共同開発。新たな味の表現とブランディングで新しい層にお酒が届けられている。
この土地でしかできないことを追求することで生まれる価値。その想いは確実に世界の蒸留酒のシーンを動かしている。
尾鈴山蒸留所/Osuzuyama Distillery
住所:宮崎県児湯郡木城町大字石河内字蔵谷656-17
TEL:0983-39-1177
この記事はGOETHE 2026年2月号「総力特集:その一滴が人生を豊かにする、弩級のSAKE」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら








