4万2000㎡という土地に300を超える焼酎蔵(蒸留所)が存在する九州。世界に名を知られるスコッチがスコットランドに160蒸留所があることを考えても、日本の蒸留所の多さは群をぬく。世界でジャパニーズウイスキー熱が高まるなか、日本で培われた発酵や蒸留の技術力をウイスキーづくりを通じて世界に伝えるべく、この市場で勝負をかける焼酎蔵が相次いでいる。今回は「komaki distillery」を訪ねた。【特集 ニッポンのSAKE】
自然遺産の屋久杉で唯一無二の個性を表現
日本のウイスキーの持つ日本らしさ。そこに世界遺産・屋久島を持つ鹿児島の誇りをかけ合わせたのが、西北部さつま町にある「小牧」や「一尚」をつくる小牧醸造のkomaki distilleryだ。屋久島が森林生態系保護地域となった1985年以前に伐採された屋久杉での熟成に挑む。
「鹿児島でつくるなら、これまで誰も飲んだことのない屋久杉での樽熟成が圧倒的な個性につながります。世界的に名が知られた地名であることも強いと感じました」と専務取締役の小牧伊勢吉氏。
ウイスキーづくりは困難を極めた。特殊な入手ルート、加工に挑戦してくれる職人、さまざまな協力を得て、2023年4月に事業が開始された。
また、小牧氏が強い想いでウイスキー生産を始めた背景にはある人物との約束がある。
「きっかけはイギリスの作家C・W・ニコル氏です。彼から薩英戦争の歴史や、それによって英国から持ち帰った蒸留の技術で芋焼酎の文化が薩摩に花開いた話を聞きました。ニコル氏の祖父は日本のウイスキーの始まりを支えた竹鶴家とも親密だった。僕の時代はぜひ小牧くんとやりたいと生前に言っていたらしく、ようやく実現しそうです」
鹿児島で一番寒暖差の大きい盆地であるさつま町は、エンジェルズシェア(蒸散)が高いため、蒸留所では3年から7年で完成する早期熟成の酒質を狙う。蒸留器は長いネックを持ち、アームの角度は上向きに高い。
軽やかで華やかなフレーバーは、屋久杉の樽を使用しているため、柔らかで甘く香木のようなニュアンスを、この半年の熟成で纏っている。一方で、長期熟成に耐えられる重い原酒も焼酎の蒸留器を改造しながら、準備を重ねる。
100年前の薩摩の先人たちが築いた礎を、世界に誇れるジャパニーズウイスキーをつくることで形にしていけるように。大勢の人の想いを乗せながら、屋久杉の樽はゆっくりと熟成の時を待つ。
komaki distillery
明治42年創業の焼酎蔵、小牧蒸溜所は、鹿児島産の原料にこだわった芋焼酎を製造。2023年2月よりウイスキーの製造を開始。石蔵での熟成を経て、完成は2026年を予定。
住所:鹿児島県薩摩郡さつま町時吉12
TEL:0996-53-0001
この記事はGOETHE 2024年1月号「総力特集: ニッポンのSAKE」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら ▶︎▶︎特集のみ購入(¥499)はこちら