PERSON

2025.06.29

桃田賢斗、賞金5000万獲得、バド界の頂点に立ち代表退いた今も「もっと上手くなりたい」

圧倒的な実力と甘いマスクで若い頃から注目のアスリートだったバドミントンの桃田賢斗。長期にわたって世界ランキング位の座を維持し、日本バドミントン界の“顔”ともいえる活躍をしてきた彼だが、違法賭博や交通事故など、選手生命にもかかわるトラブルも経験してきた。日本代表から引退し、コーチ兼任となった今、彼はどんな思いでバドミントンと向き合っているのだろうか。【その他の記事はこちら】

桃田賢斗

穏やかな気持ちでバドミントンと向き合えている

桃田賢斗は2024年、日本代表からの引退を発表し、今シーズンからは所属するNTT東日本でコーチ兼任として活動している。

「普段の生活や練習はこれまでと変わらないです。ただ代表をやっていると1年の3分の1くらいを海外で生活することになるので、それが大きく変わったところ。落ち着いた日々を送っていられる感じはします。コーチ兼任はまだ始まったばかりでよくわからないところもあるんですが、選手時代よりバドミントンを俯瞰して見るようになった気がします。選手だけをやっているとどうしても勝ち負けが気になって1プレー、1プレーに力が入ってしまうんですが、いまはもう少しリラックスして、広い視野を持てるようになった。穏やかな気持ちでバドミントンと向き合えています」

“勝ちたい”よりも“上手くなりたい”

まだ30歳、とはいえチーム内ではベテランだ。それでも自分に甘くなることはない。毎朝7時半に起きて30分ランニング。9時から12時までの午前練習を終えると、いったん休んで14時から17時半まで午後練習。チーム練習後には筋トレなどの自主練に時間を割く。

「バドミントンは個人だけでなく団体戦もあるので、監督が僕を使いたいとなったら、いつでも期待に応えられるような準備はしています。でも自分がいちばんで、絶対に誰にも負けないみたいな気持ちはもうないかもしれない。若手選手を育てるためには自分がひかなければならないこともわかっていますし、若手選手のためのいい練習相手にならなきゃならないという思いもある。いまは、“勝ちたい”というよりも“上手くなりたい”。もっと上手くなって、理想のバドミントンを追求したいという感じで練習を重ねています」

国際大会で30回以上優勝し、2018年から2021年の121週にわたり世界ランキング1位に輝いた桃田が思う理想のバドミントンとは、どんなものなのだろうか?

「観ていて楽しいバドミントン。バドミントンの試合を観たことがないという人でもワクワクするような楽しくて、そして美しいバドミントンが理想です。まだゴールは見えないし、もしかしたらないのかもしれない。でも勝ち負けとは別の、美しいバドミントンができるようになりたいし、それを子供たちにも伝えていきたい。そう思うと練習も絶対に手を抜けない。万全の状態の桃田賢斗を見せて、憧れてほしいじゃないですか。だから最近は練習に行くのも楽しくなったんですよ。以前は体育館に向かうときは足が重かったんですけど、最近は楽しみに思いながら行けるようになりました」

桃田賢斗
桃田賢斗/Kento Momota
1994年香川県生まれ。小学校6年生のときに全国小学生選手権シングルスで優勝。中学からは福島にバドミントン留学し、富岡町立富岡第一中学校、福島県立富岡高校で全国制覇を経験。2013年からNTT東日本に所属。以後、日本代表として国際大会でも活躍。2015年に日本人男子シングルスで初めて世界的なトーナメント、シンガポールオープンで優勝。2016年に過去の賭博行為が発覚し出場停止となるが、復帰後の2018年9月に世界ランキング1位となり、2021年11月まで121週にわたり1位の座を守った。2019年に記録した主要国際大会11勝はギネス記録にも認定。2020年1月に交通事故で大怪我を負うものの、翌年の東京五輪に出場。2024年に代表引退を発表。今シーズンからはNTT東日本でコーチ兼任として活動。

賞金だけで5000万円を超えた

若いころは、派手な髪型や言動でも注目を集めた。決してメジャーとはいえないバドミントン界を背負い、「もっと稼ぎたい」「もっと目立ちたい」といった発言も行っていた。高校を卒業し、社会人としてバドミントンをはじめたときは、契約社員として高校卒業の平均的な初任給と同等の稼ぎしかなかったという。

「当時の日本のバドミントンだと会社員並みというか、それでもお金をもらってプレーできるだけありがたいというような状況でした。だから活躍したらいくらくらい稼げるかもわかっていなかったし、いくら稼ぎたいとかも考えずに発言していました(笑)。でもバドミントンの試合やプレーが充実してくると、そこへの執着は不思議となくなっていったんです。自分の活躍、がんばりに見合った収入は得られていたし、そこに満足していました。物欲もそんなにないんですよ。だからまあ、じゅうぶんかなって」

国際大会で11勝をあげた2019年には、賞金だけで5000万円を超えた。さらに活躍を期待したスポンサーからの収入も得ていた。

「大谷翔平さんとかと比べると大したことないですけど、上を見たらキリがないですから。それでも自分ではすごいなって思えるくらいの収入になったときもありました。バドミントンの賞金だけで5000万円ってけっこう夢があると思いませんか。でも結局、メダルゲームとかUFOキャッチャーに我慢せずに課金できるからうれしいというくらいの感じ(笑)。世界ランク1位になってからは収入よりもその栄誉のほうがずっと大切に感じていました」

かつて世界を制した現役アスリートとは思えない穏やかな表情を見せる桃田。それでもその目は、まだまだ先の未来を見ている。次回、桃田に自身とバドミントン界の未来について語ってもらった(6/30公開)。

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衣装クレジット
ブルゾン¥438,900、シャツ¥114,400、Tシャツ¥129,800、パンツ¥148,500、シューズ¥381,700(すべてベルルッティ/ベルルッティ・インフォメーション・デスク︎ TEL:0120-961-859)

TEXT=川上康介

PHOTOGRAPH=SHIN ISHIKAWA(Sketch)

STYLING=鈴木肇

HAIR&MAKE-UP=長橋雪恵

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