役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。今回は、2025年6月27日公開の映画『アスファルト・シティ』を取り上げる。

救命士たちの「命の現場」のリアル
実話がベースの物語に参加させてもらう時は、モデルになった方へのリスペクトを忘れず、できる限りの責任を持って臨みたい。日本初の新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」。未知のウイルスで情報がないなか、乗客の治療と安全確保に立ち向かった医師や役人、船のクルーの奮闘を描いた映画『フロントライン』。滝藤は受け入れる病院の医師を演じました。公開中です!
今回は、ニューヨークで夜間の救急救命隊員の仕事ぶりに迫った映画『アスファルト・シティ』。ショーン・ペンが救命士を演じているのですが、何がすごいって、あの腕! 60代で血管浮きまくりのぶっとい腕! ペンの腕に目が釘付けです。
主人公は新人クロス。初出勤の現場で、血まみれの青年を前に思考停止。そんななか、ぶっとい腕で治療にあたるのがペン様。役名ラット。次の日、ロッカールームで会ったラットがシャツを脱ぐとコルセットでガチガチに固められた身体が……。あのボロボロの身体は役作りか本人の身体が限界なのか。曝けだす生き様に惚れ惚れしてしまう。
しかし、どの出動シーンも修羅場だらけ。ふたりが担当するエリアは貧困層や言葉の通じない移民が多く、救急医療を望まぬ人もいる。中指を立てられ、放送禁止用語連発で罵倒されるなんて日常茶飯事。押し飛ばされたり、蹴られたり。自分の身を守ろうと抵抗すれば、暴力を振るわれたと逆に訴えられる。
なんなんだよこんちくしょう! こんな奴助けなきゃならないのかよ! マジでピーだぜ! お前のピーのピーにピーしてピーにピーしてやるよ! おっと危ねぇー! あまりの惨状に観ている私もピー音連発でエスカレートしてしまいました。知らず知らずのうちに身も心も壊れてしまう。目の前にいる人間の命をコントロールできる恐ろしさ。そんな魔の瞬間が訪れた時、このような精神状態でいたら……。
エンドロールに書かれていた、精神を病み、自死する救命士が増えているというメッセージはどの職業にも通じる。決して他人事ではないと感じました。
『アスファルト・シティ』
ニューヨークの救急医療現場の知られざる最前線の状況にリアルに迫った一作。監督をはじめ、主演のクロス役のタイ・シェリダンと、ラット役のショーン・ペンは実際にニューヨークの夜間の救急車に乗りこみ、現場を見聞きして作品に挑んでいる。
2023/アメリカ・イギリス
監督:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール
出演:ショーン・ペン、タイ・シェリダンほか
配給:キノフィルムズ
2025年6月27日より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
https://ac-movie.jp/
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。現在、『見える子ちゃん』、『フロントライン』が公開中。さらに2025年7月25日に『事故物件ゾク 恐い間取り』、9月5日に『風のマジム』が公開予定。