今回は2023年11月25日公開の『ほかげ』と、2023年12月22日公開の『PERFECT DAYS』を取り上げる。連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
人生って大変だけど素晴らしいじゃないか! と、思いたい
カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した『PERFECT DAYS』(2023年12月22日公開)のヴィム・ヴェンダース×役所広司。公共トイレをひたすら掃除しまくる。もちろんそれだけではないが、10分の9は掃除してた印象です(笑)。生きていくのに必要なものって、そんなに多くはないのかもしれないと思わせてくれる映画でした。
人生に無駄なことはないと、何でも興味を持って生きてきた滝藤も、もう47歳。人生の分岐点をとっくに折り返している。これからの人生をよりシンプルにするため、まずはトイレ掃除から始めようと思います。
そして、もう1本「うお、すげえな」と思わず唸ってしまった作品。塚本晋也監督の『ほかげ』。なにを隠そう、私、滝藤賢一のデビュー作品は塚本監督の『BULLET BALLET』。当時19歳。あの時、あのタイミングで塚本さんに出会うことがなかったら、今私は何をやっているのやら。
主演は現在、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』のヒロイン役で今や国民的女優となられた趣里さん。屈託ない笑顔にパワーをもらっている視聴者は多いと思います。が、『ほかげ』ではスズ子とは思えない顔を見せます。
終戦直後、夫と子を亡くし、身体を売ることでなんとか日々をつなぎ、どんなに過酷で苦しくても、命ある限り生きていかなければならない女性を見事に体現している。
あの小柄な肉体からは考えられない、腹の底からのすさまじいマグマのようなパワーを発していて、私から目を背けるな! と言わんばかりに、スクリーンの中から闘いを挑んでくる。そこにいるだけで、戦争の悲惨さ、愚かさが剣山を突き立てるように刺さってくる。
帰還兵の男性役は、『J005311』でぴあフィルムフェスティバル・グランプリを受賞した監督、河野(こうの)宏紀君。戦争孤児役は塚尾桜雅(おうが)君。趣里さんもそうだが、役が憑依(ひょうい)している。海外、日本含めいろんな戦争映画を観てきましたが、『ほかげ』には得体の知れぬ何かを感じました。
しかし塚本監督、小さな掘っ立て小屋だけで戦争の無惨さを見せきる力。oh my godです!
『ほかげ』
第80回ヴェネチア国際映画祭でアジアの優れたインディペンデント映画に与えられるNETPAC賞を受賞。終戦直後の東京で、半焼けの居酒屋で暮らす女(趣里)の元を訪ねる戦争孤児の少年や復員兵などの人間模様を描く。『KOTOKO』『野火』『斬、』に続く戦争を題材にした作品。
2023/日本
監督:塚本晋也
出演:趣里、森山未來、塚尾桜雅ほか
配給:新日本映画社
2023年11月25日よりユーロスペースほか全国順次公開
https://hokage-movie.com/
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。現在は、新作映画の撮影に向けて絶賛役作り中。2024年も出演作が続いていくので、乞うご期待!
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!