今回は2023年秋公開の映画3本を取り上げる。連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
秋は必見の映画が盛りだくさん!
食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋、映画の秋。ということで今回は3本ご紹介します。
まずは2022年の東京国際映画祭(TIFF)で最優秀作品賞ほか3冠に輝いた『理想郷』(2023年11月3日公開)から。田舎でセカンドライフを送るために帰郷した中年夫婦が、山間部に建設予定の風力発電に反対したら、村人からすさまじい仲間外れにされる物語。絶句です。誰の身にも十分起こり得るシチュエーション。お隣さんとここまで揉めちゃったら、悲惨ですよ。必見です!
そして2023年のTIFFでコンペ部門に選出された『正欲』(2023年11月10日公開)。『あゝ、荒野』の監督・撮影の岸・夏海コンビ。もうね、いいに決まっている。俳優陣も文句なし。完璧でございます。必見です!
さらに滝藤が見終わった瞬間、年甲斐もなく滾(たぎ)ったのがフィンランド映画の『SISU/シス 不死身の男』。物語の舞台は第二次世界大戦末期、荒涼としたフィンランドです。
主人公がヤバすぎる。「もうダメだろう……、もうさすがに生き抜けないだろう」という致命的な攻撃を受けても絶対に諦めない。まさに不死身の男。彼を執拗に追いかけるナチスの軍人が逆に可哀想に思えてくる。
そして主人公なのにびっくりするほど、セリフがない。でもまったく気にならない。彼がソ連軍300人以上をひとりで殺したとか、戦争で家族を失ったとか、全部他人の噂話ばかりで何が本当なのかよくわからない。だって本人はひと言も喋りませんから。
でもね、滝藤、滾ったんですよ。コレだ! って。今年47歳になるオレがやりたいのはコレだ! って。『ジョン・ウィック』『イコライザー』『Mr .ノーバディ』『96時間』。無敵のオヤジを観ると、えも言われぬ何かが滝藤を突き動かそうとするんです。内容度外視の不屈のオヤジ。『SISU/シス 不死身の男』を観て確信しました。無敵オヤジ滝藤。
ただ、フィンランドではウクライナ侵攻と重ねて観る層も多く、意外とリアルに受けたそうです。強さの意味も考えさせられました。続編希望!
『SISU/シス 不死身の男』
ひとりの老兵が、ナチスの執拗な追跡から逃れるため、すさまじい戦闘能力を発揮。ツルハシひとつで戦う、ありえないアクションの連続で、見る者を驚きの世界へと導く。SISUとは翻訳不能なフィンランド語で意味合いとしては「諦めない強い心」を表す。
2022/フィンランド
監督:ヤルマリ・ヘランダー
出演:ヨルマ・トンミラ、アクセル・ヘニーほか
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2023年10月27日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
https://happinet-phantom.com/sisu/
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。。2023年11月11日にドラマスペシャル『友情~平尾誠二と山中伸弥『最後の一年』~』(テレビ朝日系)が放送される。
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!