実用性があって芸術的。伝統工芸品こそ日本のハイブランドだ。そこで現代作家による品々をふたりの目利きが選んだ。新たな才能を見つけ、育てていく。それは成熟した大人だけが知る愉しみだ。今回は、method代表 バイヤー・山田遊氏のセレクトをご紹介。【特集 日本のハイブランド】

未来の“大御所”に投資する!
バイヤーとして伝統工芸のマーケットの最前線に立ち続ける山田遊氏が今、注目しているのは、現代的な感覚で伝統工芸と向き合う若手作家やメーカー。
「格式の高さゆえ、近寄りがたい存在だと捉えられてきた伝統工芸。人間国宝や古典芸術といったワードが先行するなかで、日常になじむプロダクトも見受けられるようになりました。一見すると自由な発想で作られているように見えますが、一点ものも量産型のプロダクトも、技術は一級品。まだ名前の知られていない若手作家を応援しているうちに、気づけば大御所になっていた、なんていう長期的な楽しみ方もあります。まずは肩肘張らない品から迎え入れてみてください」
1.アイヌの盆|アイヌの伝統を礎に拓かれた感性で世界とつながる
二風谷(にぶたに)イタ/平村太幹
イタとはアイヌに伝わる平らな木製盆のこと。アイヌ文化が色濃く残る北海道の二風谷で研鑽を積む平村太幹氏の作品は、伝統的でありながらどこか現代的だ。「中東や英国でも展示などを行う国際的な価値観を持つ作家で、その影響が作品にも表れている。伝統的な意匠に新たな視点を与えてくれる存在です」。

2.有職組紐|伝統と今を結ぶ縁起物をモダンに取り入れるのが粋
組紐ベルト/OYMOD
370年の歴史を持つ江戸組紐の技術を再解釈し、現代のスタイルに落としこむOYMOD。正倉院の宝物にも用いられた奈良組という組み方で結んだ組紐を、ベルトへと昇華した1本だ。「現代人は着物を着る機会もなければ印籠を持つこともない。伝統技術をダイレクトにベルトというかたちで提案する潔さが新鮮でした」。

3.瀬戸焼|愛らしい姿が福を呼ぶ、遊び心溢れる招き猫
MAG MANEKI/中外陶園
中外陶園は招き猫や干支置物などの縁起物を展開する陶磁器工芸メーカー。プロダクトデザイナーの藤城成貴氏とのコラボレーションにより、ミニマルな招き猫が生まれた。「動物モチーフの置物が昔から好き。これはつるんとしたフォルムと瀬戸焼らしい真っ白な磁肌が愛らしい」。パーツは取り外し可能で好きなスタイルにカスタマイズできる。

4.九谷焼|伝統工芸の垣根を越え、ユーモラスな表現へと拡張する
甘蕉(かんしょう) 色絵栗文/上出惠悟
明治12年から続く上出長右衛門窯の6代目として九谷焼の技術を継承しながら、遊び心のある表現で支持を集める上出惠悟氏。「彼の作品はとにかくユニーク。2006年に発表した『甘蕉 色絵栗文』は本物さながらのディテールなのに、まさかの磁器というのが面白い。これは気に入りすぎてふたつ買いました(笑)」。

5.有松鳴海(なるみ)絞り|ローカルの伝統技法を世界のスタンダードへ
手筋絞りウールストール/suzusan
名古屋発祥、400年以上もの歴史を持つ有松鳴海絞りをルーツに現代的に再構築するブランド、suzusan。「ウール100%によるソフトな風合いに、有松絞り特有の染めが相まって独特な雰囲気に。suzusanのストールやホームコレクションは世界中のセレクトショップで扱われていて、日本の伝統工芸マーケットのなかでも国際的に評価された好例です」。

6.越前漆器|実用性と伝統が塗り重なり日常の道具へ
URUSHI SPOON/SARO
国内の作り手や海外デザイナーと協業し、日本の手仕事や産業を伝えるSARO。URUSHI SPOONは越前漆器の艶やかな光沢感を生かしつつ、現代のテーブルになじむようベースにタフな樹脂素材を採用。「スイスのデザイナー、カルロ・クロパスが手がけた無駄のないフォルムが美しい。漆は質感が滑らかで舌触りも心地いいんです」。

7.有田焼|有田焼にアートの風。軽やかな感性で切り拓く3代目
釉滴(ゆうてき)皿/井上祐希
井上祐希氏は井上萬二窯の3代目。有田焼の伝統にアートの要素を含んだ作品が注目され、アパレルブランドとのコラボレーションも話題になった。「皿に『われもの注意』とダイレクトに表現するユーモアがツボ。人間国宝の祖父を持つプレッシャーもあるなかで、独自の表現を切り拓く姿が頼もしい」。

8.利久箸|茶の湯の心が息づく千利休のもてなしを食卓へ
大門箸/A4
利久箸とは千利休が茶室でのもてなしに用いたと言い伝えられている。奈良県発のプロダクトデザインレーベルのA4は、吉野檜を使用し食卓にもなじむ1本に進化させた。「来客用として購入したのに毎日使い回しています。それくらい使い心地がよくて、割烹屋さんを訪れたような贅沢な気持ちで食事ができるんです」。

9.名尾(なお)手すき和紙|和紙の在り方を模索する唯一無二の表現者
PAUSE/谷口弦
300年以上も続く佐賀県の名尾手すき和紙の継承者でもあり、アーティストでもある谷口弦氏。『PAUSE』は和紙のみを用いて、茶庭の通行止めとして置かれていた「関守石」をモチーフに立体作品として表現した。「彼はプロダクトとしての和紙作りではなく、ファインアートの視点で和紙に向き合う稀有な存在です」。


Selected by 山田遊
method代表 バイヤー。東京都生まれ。南青山のIDÉE SHOPのバイヤーを経て、2007年、methodを立ち上げ、フリーランスのバイヤーとして活動を開始。国内外の店作りを中心に、あらゆるものにまつわる仕事に携わる。産地や教育機関での講演など多岐に渡って活動中。
この記事はGOETHE 2026年3月号「総力特集:日本のハイブランド」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

